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桎梏のカルマ  作者: 軟骨
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ハロルド・フィンリーという少女(その3)

 




 考えれば考えるほど分からなくなるが、動き出してしまった物語の終わらせ方を知らないのだから前に進むしかない



 服が汚れるのも構わず口許を拭うと、洗面台の鏡の前に立つ


 蛇口を捻り、水を小さな手で掬うと勢いよく顔を洗う

冷静になるために



 目の前には今だ見慣れぬ少女の顔が見える



 目覚めてから分かったことがある

最初は自分の名前が思い出せなくなった

今は前の自分の顔が少しずつではあるがぼんやりとしか思い出せないのだ



 きっと、1ヵ月もすればこの世界にも違和感なく溶け込むであろう


 それも楽でいいかもしれないけど

このまま前世の記憶を失ったら、私を転生させた犯人の思う壺だと考えるようにする

そもそも犯人がいるのかすら分からないが、あの病室で起きたこと、先ほど私が見た黒い龍の夢は繋がっている気がした



 何となく心の靄が晴れた気がして、急な睡魔が襲ってきた為、ベッドへと向かう


 ベッドへ入る前に月明かりが入るカーテンをきちんと閉める

この状況が嫌で窓から飛び降りて命を絶つことも出来たが、私はもう他者と繋がってしまっているのだ



 私が自殺したら、きっと侍女の首が飛ぶ

そんな世界に来てしまったからには生半可なことは出来ない


 それだけは心に留めようと決め、ベッドへ潜り込めば深い眠りにつく







 よほど寝心地が良いベッドだったのか、侍女が扉をノックするまで起きることはなかった


 「フィンリーお嬢様、入っても大丈夫でしょうか」


 「どうぞ」


 ベッド上で慌てて髪の毛を手櫛で整えると、短く返事をする



 見えたのは、オレンジ色の髪を綺麗に纏め上げた昨日の侍女だ


 

 「今日は顔色が良さそうですね、朝食をお持ちしました

 胃が空っぽだと思い、消化に良いものをお持ちしました」


 そういうと、銀でコーティングされた配膳車の上には1人分の鍋が用意されており

1人用のテーブルに慣れた手付きで銀食器を並べていく


 鍋の隙間から香るいい匂いに思わず、空腹の訴えがグーと鳴った



 その音に気付いた侍女がクスクスと笑いながら

「さあ、お顔を洗って食べましょう」と促す


 昨日の態度のこともあってか恥ずかしさを隠すようにこくりとうなずくと、そそくさと洗面台で顔を洗いに行く



 髪の毛も軽く整えてから戻ると既に準備は終わっていたのか、椅子を引いてくれていたようだ



 「ありがとう」と乾燥によって掠れた声で返答し椅子に腰を掛ければ

暖かい飲み物を用意しますねと侍女が気遣いを見せる


 鍋の蓋を侍女が開けると湯気が立ち上がる

中にはトマトリゾットのようなものが入っていたが、魚介類らしきものは見たことない種類であった


 「頂きます」

 

 食器に乗せられたトマトリゾットのようなものを磨き上げられたスプーンで恐る恐る一口運べば、濃厚な魚介出汁に生臭さを消すトマトのようなさっぱりした味が口に広がる


 美味しい

前世の食べ物に近い味であるためか食が進み

20分ほどで完食してしまった


 「ごちそうさまでした」


 スプーンを置くとふぅと一息つく

少し食べすぎたかな



 「いい食べっぷりでした、後で飲み物とお菓子を用意させていただきますね

何時までも寝間着でいられませんので、フィンリーお嬢様が大丈夫であれば着替えましょう」



 側にいた侍女が嬉しそうに言うと

私の体調を気遣っているのか返答を待ってくれている



 コホンと咳払いをし

「昨日汗もかいたし、着替えたい…わ」


 お嬢様らしく漫画や小説で得た言葉使いでぎこちないが対応してみる

チラリと相手の顔を伺えば



 これまた嬉しそうに、かしこまりましたと返された







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