ハロルド・フィンリーという少女(その2)
突然夢から現実に引き戻された身体は鉛のように重くゆっくりと身体を起こすと
冷や汗で着替えさせてもらった服が肌に張り付いてしまっていた
額から滲む汗を袖口で拭うと昼間よりは幾分か楽になったため、寝台からそっと足を下ろす
素足だった為か、大理石で出来た床がひんやりと足裏を伝う
思わず声が出そうになったが慌てて口許を両手で塞いだ
誰かに駆けつけられても困るからだ
ゆっくりと立ち上がり、改めて部屋を見渡すと30坪はありそうな大きさだ
カーテンの隙間より月明かりが差し込んでいたため、静かに開けると室内が薄明るく照らされた
室内の中に更に部屋があることに気付いたため
小さな足音で一部屋一部屋確認していく
此処は小さな書庫
此処は沢山のドレスや靴が丁寧に仕舞われている
此処はバスタブとトイレか
顔を洗ってさっぱりしようかな
「暗いなぁ、照明とかないのかな」
暗闇のなか壁伝いに歩くと凹凸の部分に指が触れる
ボッと音を立てて備え付けられていたランタンに火が灯る
明るくなった室内に大きな鏡があった
ふと視線を向けると
先ほど夢に出てきたばかりのプラチナブロンド、蜂蜜みたいな濃い黄色な瞳、まるで人形のような透き通った肌
お姫様がおとぎ話から出てきたかのような少女が映し出されていた
「なに、これ」
意識は自分であるはずなのに、目の前で動いている人物は自分ではない誰か
過度なストレスに急な吐き気が込み上げてきた
陶器で作られた便器へ向かうと
なにも食べていないためか胃液を吐き出した
それから、何分経ったであろう
胃液すら吐き出せないためその場に座り込む
私は、私は誰
お父さん、お母さんは
居るわけがない、だって、私は死んだから
薄々気付いていた、名前は未だに思い出せないけど
確かに私はあの時人生を終えたのだ
ならば、此処はどこだ
生まれ変わったとしてもこの建物の造りを見る限り現代ではない
しかも、曖昧ではあるが前世の記憶を持っているから間違いはないはず
あの時の病室にいたこの世の者ではないアレとの夢もやけにリアルだった
「いっそ、物語の中に入り込んだと考えた方が辻褄があうんだけどな」
そう、仮にこのフィンリーと呼ばれる少女の身体に転生したとするならば普通なら生まれてからの記憶がある
私には全くないのだ、気付いたら少女の身体になっていた感じ
父親、母親の顔、メイドさんの顔も知らなかった
ただ、一つ分かるのはハロルド・フィンリーとしてもう一度人生が始まったと言うこと