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桎梏のカルマ  作者: 軟骨
2/15

余命

 



 「花村さん、明日のカンファレンスで使う患者さんの情報纏めておいてね」


 「…はい」



 たった今、師長の一言で残業が確定した

お先失礼しますと、次々と同僚が帰る中



 静まった病棟内、時折聞こえる患者の唸り声

夜勤者は見回り中であり、私のタイピング音だけが響く

 


 「よし、後は日付と名前をいれて」



 私は花村(はなむら) 明日葉(あしたば)

花が大好きな母は好奇心旺盛な元気な子に育さ欲しいという願いを込めて明日葉と付けたらしい



 正直、名前負けしている気がする

小学生の頃、初めてプールに参加した時

光線過敏症で一度火傷に近い水疱が出来て何日も寝込んでから親が過保護になり外を駆け回る子達とは対照的に図書室で過ごす事が多かった



 小中校と体育の授業は休める日数ギリギリまで欠席していた

運動会、体育祭などのどうしようもない時は参加したが、案の定全身に熱を持ち皮膚が爛れ、しょっちゅう保健室のお世話になっていた



 ふと時計を見ると21時を指していた

消灯の為か殆んどの明かりが消されていた


 やばいやばい

夜の病院なんて夜勤だけで十分だから



 最近霊感のある先輩から、夜勤中に使われていない個室からナースコールがあり見に行ったら誰もいなかったと怖い話を聞かされたばかりだ



 絶妙なタイミングでナースコールが鳴り

全身に鳥肌が立つ


 2~3度軽快な音楽が鳴るが

夜勤者は忙しいのか出る気配がない


 確認すると患者さんの名前が書かれていない個室からであった、万が一患者さんが居たらと考えて

深い溜め息を吐いてから、意を決してナースコールを取ると受話器越しにか細い声がした



 なんだ、患者さんか…

大丈夫だと思うが恐怖心が勝るため

ライトをしっかり握り締めて個室へと向かう


 静まり返った廊下の一歩一歩が長く感じる



 着いてしまった、3度ノックをしてから室内へ入れば暗闇に人影が見えたため、ほっと胸を撫で下ろした



 換気のために空けて閉め忘れたであろう窓から夜風がカーテンを揺らす


 「戻りましょう、お部屋まで送りますよ」


 私の声に気づくと影はゆっくりと此方に近付く


 2mまでソレが近付いてから気付いた


 黒いフードを被り、隙間から見えた赤色の目はこの世の者ではないことを


 「ひっ」


 悲鳴を上げたいのに声が掠れて言葉が出ない上、逃げようにも目の前の不可解な出来事に足が震えてしまい床に座り込む


 目的に向かって迷いなく進んでくるソレは

放心状態である私を見下げると、屈んで耳元で囁く

私はぎゅっと目を瞑り早く消え去れと心の中で何度も繰り返した


 「まだ、寿命を残したままでは連れては行けぬのでな

 7日後の誕生日に君から来れるよう道標を残して行く」



 その言葉を聞いた私は意識を手放し

7月7日の誕生日を迎えるまで病院のベッドで謎の高熱に苦しむ事になった




 ピッピッと規則的に心臓の拍動をモニターの音が拾う


 耳からの情報についで、嗅ぎ慣れた消毒液の匂いが届いた、うっすらと目を開けば人工的な明かりが眩しく感じた感覚は全身に行き渡り

自分の手を誰かが握っていることに気づく


 眠ってしまっているが母だ、私のせいでやつれてしまったのであろう

髪の毛も白髪混じりだ



 「娘はどうなってるんですか、先生!」


 「人工呼吸器はなんとか外れましたが、予断を許さない状態です。採血、レントゲンもCTもMRIも行いましたが問題ありません。他の大学病院の医師とも……」


 カーテンでしか仕切られていない集中治療室は声がよく聞こえる


 父親だ、寡黙である父があんなに怒った声を聞くのは久々だ


 お母さん、と声をかけたいのだけれど、身体は声を出すまでの力を残していないようだ


 再び目蓋を閉じれば、走馬灯のように25年間の記憶が蘇る


 小学生の頃、初めて好きになった男の子にチョコを渡そうとしたらみんなに言いふらされて

嫌な思いしてから恋愛に奥手になったよなぁ



 中学生の頃、周りが付き合い始めた思春期

幼馴染の男子とよく絡んでたら、そいつのこと好きな女子からよく嫌がらせ受けたっけなぁ

気にするなって幼馴染は言ったけど嫌がらせに耐えられなかった私は彼を避けるようになってそれっきり



 高校生の頃、医者を目指す彼と出会って

毎日楽しかったけど、大学病院の理事長の息子って聞いてなんとなく付き合いづらくなっちゃったな、私馬鹿だし

そういえば、成人式の時に会ったけど左手に指輪あったな

奥さんは同じ医学生とかなんとか



 専門学校の頃、再び小学生の頃好きだった男子にばったり合って「付き合ってやってもいいよ」って言葉にキレたっけ、あれはスッキリしたけどなんだか空しかった



 結局、傷付いたりするのが怖くて自分から相手に



 お母さんごめんね、結婚式見せてあげられそうにないや



 だって、ほら、もう

指ひとつ動かないし、目も開けられない

そのうち耳も聞こえなくなるよ


 最後まで名前を読んでくれてありがとう

明日葉って名前嫌いじゃなかったよ


 来世があるのならなんて思わない


 ただ、神様

私はなにか悪いことをしましたか、謎ばかり残して

フードのアレは何ですか、夢ですか?とてもリアルだったけど


 原因不明の病気は多々存在しますが、この間の健康診断では優良でしたって言われたんですけど


 25歳になったばかりなのに

こんなの







プロフィール



花村 明日葉(25)

看護師5年目、実家暮らし

小さい頃は男勝りな少女であったが、光線過敏症発症後は読書などして過ごす事が多かった

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