最悪な誕生日(その1)
「…と、いうわけで
暫く世話になるから宜しく頼む」
トレバーは私の手を引いて屋敷内に戻ると
周りの清掃をしていた侍女に声をかけてケイリーを呼んでくれたようだ
トレバーはスワンプの魔獣被害が落ち着くまで
ハロルド家で預かることとなっていたらしい
ケイリーは私とトレバーが手を繋いでいるのを見て勘違いしたのか、まぁまぁと言いながら嬉しそうに頷いた
「っ、これは、違う!」
トレバーは顔を真っ赤にしながら慌てて否定する
それを横目に私はこれからのことを考えた
後、1ヶ月
トレバーが居る内にこの世界に馴染まなければ
病院送りだけは嫌だ
「そういえば、明日はお前の誕生日だな」
ケイリーの誤解を解こうと必死になっていたトレバーがこちらに視線を送る
「あ、そうだったわ
…でも、お父様もお母様も居ないし、別に誕生日を祝って貰うような歳じゃないわ」
「今まではそうだったかもしれないが、お前、今年で13歳になるだろ
13歳は大人の仲間入りになるんだ、屋敷を開放して領地の民に御披露目する必要がある
だから、明日はお前が屋敷の主人として客を招き入れなければならない」
「え、お父様、お母様からそんな重大な話一言も」
初耳だった、ただ屋敷の人たちから沢山お祝いの言葉をもらい、ケーキを食べて終わるものだとばかり思っていた
驚きに口が開いたままの私を見たトレバーが
だから、俺が預けられたのかもしれないなと、困ったように呟く姿は
どこか大人びていて、年齢が2歳しか違わないなんて信じられなかった
そこから明日に向けて、トレバーの地獄のスパルタ指導が始まった
明日集まる、近しい関係の貴族の名簿に目を通し、名前や特徴を覚え
年齢が近いご令嬢やご令息の間で流行している話題、テーブルマナー、ダンス、立ち振舞いを1日かけて徹底的に仕込まれた
「看護師の国試の勉強より大変…」
自室のソファーに倒れるように腰を掛けると
向かいには涼しい顔で紅茶を嗜むトレバー
「カンゴシ?とはなんだ」
聞き慣れない単語にトレバーは首を傾げる
「え!?看護師いないの?
体の病気とか怪我の面倒を見る医学の知識を持った人」
前職に思い出深さがあるため思わず身体を勢いよく起こしてしまう
「病気とか怪我をしたら神官に見せれば神力で治してもらえるしな…ただ、民衆は神官に払える金が無いから薬師に薬だけ貰って自力で治すしかない」
トレバーによると私達の様な魔力量が多い貴族は自然治癒力も高いため薬師は必要になることはなく、自然治癒で補えない部分は神官によるマナでの補助治療(別名:神力)が必要だとか
「神力って私達は使えないの?」
トレバーは私の疑問に面倒くさそうな表情をするも、ティーカップを置いて話す体勢になる
「魔力ってのは基本的に他人に分け与えたりが出来ない
体に流れるマナは繊細に錬られているからこの世に同じものはないんだ、双子であってもだ
他人のマナを身体に取り入れようとすると拒絶反応が起こる
ただ、例外があって神に仕える神官は混じり気のないマナを持っているらしい
だから、俺達に補助魔法を使っても拒絶が起こらない
神官じゃないから詳しいことは知らないが…こんな所だな」
ここに転生された時に本で見たことがあるが
神官は各国に10人ずついるらしく
神に使える者の為、戦争には参加せず中立的な立場にいる人達
各国の中央には神官たちが住む神殿が建てられているとか
前世の職業上、神様なんて信じていなかったが
この世界ではある程度神に敬意を払わなければすぐ処刑台行きとかありそうだ…
いつ起こるか分からない事よりもまずは、明日の誕生日会を乗り切ることが優先だと自分に言い聞かせ、トレバーに明日もよろしくと伝えて寝床につく