ハロルド・フィンリーという少女(その11)
「っ、おい
嫁入り前の女がむやみやたらに抱きつくな」
「あ、ごめんなさい」
突然の行動に驚いたのか、戸惑った声と共に
べりっと勢い良く身体を引き剥がされる
トレバーは落ち着きを取り戻そうと、コホンと咳払いをしてずれた眼鏡を直す
その顔は心なしかほんのりピンク色に染まっていた
大人びた発言をするがやはり中身は少年なのだ
自分も子供とはいえ咄嗟にしてしまった行動に恥ずかしさが込み上げ、袖で涙を拭い気持ちを落ち着かせる
「で、話を戻すが
お前は転生したばかりで
まだこの世界のことについてよく知らないんだな」
トレバーは向かい側の椅子に座ると乱雑にメモされた紙を再び手に取り、視線を投げ掛けてくる
「はい、私がフィンリーになってからまだ1日も経っていません、未だに信じられないですが」
相手が真面目に話し始めたため、こちらも椅子に腰掛け直して答える
「……やっぱり、駄目だ
お前が敬語を使うと違和感がありすぎて、同じ公爵の立場だ対等に話せ」
「あ、はい……じゃなくて、うん」
自分と同じ年齢くらいの相手に敬語を使うのも
慣れなかったため崩した口調で良いことに安心する
「俺の父はスワンプの領主キーツ・オースティン
爵位は公爵
お前の父とは王室、いやヴァリアス国の双璧と呼ばれてる
俺のいるスワンプは南にあり、ベイクとの国境警備を父は任されていてな
お前の父、ルイス様は北に位置するスオンを領地とし、ヘイルとの国境警備を任されてる
国境は国同士を繋ぐ大事な場所だ、特にヴァリアス国は魔力を宿すマナの木があるわけでもなく、魔力を貯蓄出来る鉱石が取れる鉱山があるわけでもないから魔力が二国と比べて十分でないんだ
そのため貿易で国を成り立たせている、その中には王族を狙う刺客もいる、勿論大々的な戦争は条約上禁止だから隠密行動だろうな
そいつらを第一線で食い止めるのが俺の父とルイス様の領主としての仕事だ
それ以外にも国外へ出る国王の護衛をしたりしてるらしい」
以前にケイリーから聞いていた為か、トレバーの説明はすんなり理解できた
「今回はうちの領地付近の森で魔獣が暴れたみたいでな、父様だけじゃ手に終えないらしくルイス様を応援に呼んだんだ
その代わり、お前の相手をしてこいと父様に言われて来てみたら
お前は異世界から転生して来たとかで
冷静に話してるが内心は混乱してるぞ
お前の全てを知っているわけじゃないが
明らかに前のお前とは違う、脳筋バカじゃないしな
ルイス様は分からないのか?」
フィンリーとして親に会ったが対応に変なところはなかった気がする
「私もフィンリーのことをよく知ってるわけじゃないけれど、別に対応は普通だった気がするわ」
「そうか、ならいいんだ
一応、俺が覚えているお前を教えてやる
何かあった時に必要かもしれないからな」
「えぇ、是非」
自分がこの身体に入る前のハロルド・フィンリー
彼女は12年間どんな人生を歩んできたのか
私は知らないといけない、彼女の残りの人生を受け取ったのだから