ハロルド・フィンリーという少女(その9)
また変な少女と思われるから
この手は使いたくなかったけど、大きく息を吸うと
今まで出したことない大きな声で叫ぶ
「誰か!誰かいないの?」
その声にポカンとする少年は手を緩めることはなかった
だが、その声に複数の侍女が集まってくる
お嬢様の身に何かあったら自分達が罰を受けるからだ
「お嬢様どうされました?」
一人の侍女から声がかかる
「段差に躓いた私を庇って、彼と一緒に倒れてしまったのだけれどどうやら肘を擦りむいたみたいなの、見てあげて頂戴」
「まぁ、トレバー卿、いらっしゃったのですね」
わらわらと侍女達がトレバーと呼ばれる少年を囲み騒いでいる
今の隙に!
どうやら、彼は外面がいいのか一人一人相手にしている
逃げきるのは容易であった
足早に外へ出ると眩しい太陽の光が目に入ってくる
あ、日焼け止め塗らなきゃまた酷くなって怒られる
つい、前世の癖で慌てるが、怒られるって誰に?
また私は大事なことを忘れてしまった
悔しさに下唇を噛みしめ、座れる所を探しに歩き出す
5分ほど歩けば綺麗に手入れされた
ガーデンにたどり着く
「…わぁ」
思わず感嘆の声が出てしまうほど、手入れされた赤い薔薇が列をなして綺麗に咲き誇っており
入り口は荊のアーチとなっていた
奥に円テーブルと椅子が見える
「あそこなら見付からなさそう」
少し奥まっているためあの少年に気付かれないだろう
早速、テーブルに本や紙とペンを広げると
椅子に腰かけて、書き始める
前世の記録だ
私がこれ以上忘れてしまっても、これを見れば思い出して自我が保てるように
身体はフィンリーになっても、記憶は私のものでありたい
覚えていることをこの世界の字で書くが
ひらがな、カタカナも忘れずに記録した
30分ほど経っただろうか
一段落したため、椅子に腰かけたまま腕を後ろに伸ばすと何かにぶつかった
「さっきはよくも逃げてくれたな」
ワントーン低い、先程聞いたばかりの声に
恐る恐る後ろを振り向けば
腕を組んで此方を睨み付けるトレバーがいた
「さ、先程は、ごめんなさいね、私は用事があるのでここで」
慌てて椅子から立ち上がろうとすると
「2度も逃がすかよ」
『大地に恵みをもたらし、大地を唸らせる王ノームに従属する精霊たちよ、我に力を貸したまえ
"アレスト"』
立ち上がるのと同時に、少年が何かを呟いたと思えば
足元から蔦が生え、途端に身体を縛り上げられる
「え、なに、なにこれ」
目の前で初めて魔法を見たのがまさか自分に使われるとは思っていなかった
「さて、問い詰めさせて貰うかな」
後ろからゆっくり前へ少年は移動する