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第01話 損失

 ディスプレイが4つ並んだ机の前に男性が一人。画面に表示される数字やチャートを矢継ぎ早に確認しているが、徐々に顔が険しくなっていく。そしておもむろに机を叩いて立ち上がり、叫びながらディスプレイを殴りつける。


「なんでだよ!」

 殴られたディスプレイは背後の壁にぶつかり落下を逃れるが、画面中央は黒く何も映さなくなる。


「何を間違えた? いや、何も間違ってないはずだ。確認できる資料は全部確認した。数字も何回も計算し直した。過去の類似例も遡れる限りは全部確認した。それなのに……」

 そう呟きながら見つめる画面には企業の名前、そしてその隣にマイナス900万円程度の評価損が表示されている。

「なんで俺が損しないといけないんだ……」


 証券取引所に上場した企業の株は、個人でも自由に売買することができる。一般的に株は買ってから売ることで損益を確定させるものと思われているが、証券会社を経由して他者が保有している株を借りることで順番を逆転させ、売ってから買うことで利益を得る方法も存在している。

 これが空売りと呼ばれる取引方法で、株価が下がることを期待して取引することが目的となる。当然ながら株を売ったところから株価が上がれば損になってしまう。また、空売りでは他者から株を借りている以上、いつかは株を買い戻して返却しなくてはならず、加えて借りられる期間にも限界がある。


「投資ブログやTwitterを見ても、同じように空売りしている人は皆苦しんでいる。もしこの人達が株を買い戻し始めたら更に株価が上がってしまい、更に損失が拡大してしまう」

 空売りしている投資家が株を買い戻すことで株価が上がり、それを受けて他の空売りしている投資家がやむを得ず株を買い戻して更に株価が上がる。

「もしこの繰り返しが始まってしまえば、株価はあっという間に上昇していく。そうなったら、損失もいつかは耐えられない水準まで拡大していく」


「このままだと良くて大損失、最悪破産だ。こんな業績を偽っていた粉飾企業が言う、『現状では懸念していた重大な事実は見つかっていない』なんてことを真に受けてどうするんだよ!」

 怒りに任せ、今度はマウスを壁に向かって投げながら叫ぶ。

「今買ってる奴らは財務諸表読んだのかよ! 中核事業の売上を粉飾してたんだぞ? その回収していない売上が消えれば、すぐに倒産する水準だってことくらい分からないのか!」


 上場した企業は3ヶ月ごとに決算を行い、売上・利益や資産状況などをまとめた財務諸表を開示する義務がある。財務諸表を作成する際には、記載内容に事実と齟齬が無いことを保証するため、監査法人から内容の精査を受ける必要がある。そのため、一般的には開示された財務諸表は信頼できる内容となっているが、中には数字を偽って記載している企業も存在する。

 財務諸表を偽る理由は様々だが、そうやって偽られた決算のことを粉飾決算と呼び、当然ながら上場企業が粉飾決算を行えば法的な責任を問われることとなる。しかし、日本の取引所が粉飾決算を行った企業に対して厳しい措置を取らないこともあってか、粉飾決算を行う企業は後を絶たない。


「おえっ」

 ストレスによりこみ上げてきた吐き気に耐えられなくなりトイレに駆け込む。何度か嘔吐を繰り返した後、床に倒れ込み仰向けになる。

「どこで間違えたんだ......」

 身も心もボロボロになりながら、この企業を見つけたときのことを思い出す。1年前、あの時から全ての歯車が狂っていった。


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