私の運命の相手はとても可愛い王子様でした
ある日の昼下がり。
城下町である号外が配られた。
それは王子の運命の相手を探しているという内容だった。
この国はとても不思議な決まり事で王族の結婚相手が決まる。それは、神からのお告げで王族とその結婚相手の体の一部に全く同じ柄の痣が浮かび上がるというものだった。
痣は神が定めた運命の相手。選ばれた二人が結婚することで国に安寧と平和をもたらすという伝統だ。
号外にはその痣の絵が載っていて、今から国中をあげて花嫁を探すという。
さて、周囲が新しい妃候補を祝おうというムードの中で私はすっごく焦っていた。
………こないだ火傷したと思っていた手の痣が寸分違わず同じなんだけど。
いやいや。たまたま料理中にドジやって火傷しただけだ。私が花嫁なんてないない。
余計なことにならないように痣の上から包帯を巻いて大人しくしておこう。
しばらくすれば痣も薄くなって消えるかもしれない。
消えなかった。
むしろ、日に日に痣が痛みだすので我慢しきれずに医者に見せたら情報を売られた。
医者と別れたその日に大勢の騎士達に囲まれて私は城へ連行されることになってしまったのだ。
「君が痣の現れた王子の運命の人ですね」
城で私を待っていたのは王子の護衛をしている騎士達の隊長さんだった。
「いやぁ……何かの手違いじゃないですかね?」
「いいえ。間違いありません。これまで何人もの女性が痣を見せにやってきましたが、どれも偽物でした。しかし、君の痣は王子の物と全く同じであり、宮廷魔法使い殿の鑑定もマルだった。よって君こそが王子の運命の相手なのだ」
さっきの髭のおじいちゃんが魔法使いだったのか。
国で一番偉い魔法使いから検査されてるんじゃ誤魔化しが利かないな。
「はぁ、わかりました。じゃあ王子に会います」
「うむ。そうしてくれ」
護衛の騎士達に連れられてぐんぐん城の中を進む。仕事の作業着から一番上等な私服に着替えたけど悲しいかな、平民の服は城の雰囲気に合わない。私だけが浮いている。
憂鬱な気分のまま王子の私室へ案内される。
「お姉さんが僕の運命の人ですか?」
そこには…………美少年がいた。
「は、はひぃ」
金髪の癖っ毛で大きな瞳を好奇心いっぱいに輝かせた将来的には美青年になるであろう可愛らしいイケメンがそこにいた。………身長は私の胸より低いけど。
「お姉さん、すごくお綺麗ですね」
「いやいや。私なんて全然です」
お世辞とはいえ、こんな美少年に言われたらドキッとしてしまう。しかし待て、相手はショタだ。
私の年齢は二十六。対する王子は今年になって十二歳になったばっかりだ。一回りも違う。場所や環境によっては親子でも変じゃない。
これだから私は名乗り上げたくなかったんだ。国の未来を背負う王子の運命の相手が行き遅れのオバさんだなんて恥ずかしいじゃないか。それに私は男性経験がない。そんなのが王子の花嫁⁉︎ ……ありえない。
「僕はこの国の王子アルバート・グロリアーナといいます。みんなからはアルと呼ばれます」
「私はナナハ。……平民ですので家名はありません」
「ナナハさん。これからよろしくお願いします」
ニコッと笑う王子。
ぐふっ……なんて無邪気な笑顔。眩しい!眩しいよ!
「ええ。こちらこそよろしくお願いしますアルバート様」
取り繕え。相手は運命の相手とはいえ王族。ここで無礼を働くわけにはいかない。あくまで笑顔で接するのだ。
「……ナナハさん。僕らはこれから夫婦になるんです。アルって呼んでくださいませんか?」
ニコニコ笑顔から急にしょんぼりした顔で問いかけてくる王子。無理無理無理。
「わかりましたアル。……これでいいですか?」
「はい!」
まつ毛長い。肌白い。近所の悪ガキ達は泥まみれだけど、なんかもうアル王子はお人形さんみたいにキュート。こんなの耐え切れるわけないじゃん。
「ナナハさんは市井の出身とお聞きしましたけど、何のお仕事をされていたんですか?」
「私は昔から食べることが好きでしたので、料理人をずっとやってます」
女性というのもあって苦労はしたけど、街の中でもそれなりの腕だとは自負している。
ただ、その仕事上で化粧は全然しないし、手先は荒れたりしてるが、それは勲章だと思ってる。
「料理人かぁ……僕、ナナハさんの手料理が食べたいです!!」
「あら。でしたら厨房をお借りできれば作って差し上げますよ」
「わーい!」
何を注文するか考えるアル王子を見ると母性がくすぐられるというか、甘やかしてあげたくなる。
………あれ?夫婦になるんじゃなかったっけ私達。
「ふふふ。料理が得意なお嫁さんが運命の相手で僕、とっても嬉しいです」
いい子だぁ。なんでもお姉さんがしてあげちゃいたくなるくらいいい子。
王子っていうくらいだから傲慢な腹黒かと思いきやこんな純粋無垢な子なんて……。
「実は僕、この痣で将来のお嫁さんが決まるのが怖かったんです。すっごく怖い人だったらどうしようかなぁ〜って。でも、ナナハさんだったら安心できます!」
「ふふふっ。私もアルが相手で良かったかもしれないです。王族ってくらいだから凄くおっかない人だったら嫌だなぁ〜って思っていたけど、まさかこんなに可愛らしい子だなんて。………国営とか年は気になるけど」
「安心してください。僕はこう見えてとっても頭がいいんです。国の事はドンと任せてよ。年齢はまだまだ背の小さい子供だけど、いつかナナハさんよりも大きくなって貴女に相応しい男になってみせます」
真剣な眼差しでこちらを見てくるアル王子。
ただの可愛い子だと思ってたらこんな立派なこと言って。私に相応しい男だなんて、王族の時点で私の方が不釣り合いなはずなのに。
「ありがとうアル。じゃあ、早速アルのためにお菓子を作って差し上げましょうか」
「うん。お願いしますナナハさん!……護衛の騎士さん達、ナナハさんを厨房まで案内してあげてください」
こうなったらとびっきりのお菓子を作ってあげなきゃいけないわ。
神様の運命ってビックリしたけど、こんな子が相手だったら私の方が頑張らなくっちゃ!って気持ちになる。
また後で会いましょう!と手を振る王子に背を向けて私と護衛の騎士達は部屋を後にした。
「王子。いかがでしたでしょうか」
ナナハさんが退出した後、宮廷魔法使いのバルボッサが隠し通路からやってきた。
「よくやった。流石はバルボッサだ。痣の件、見事だったぞ」
「全く、骨が折れましたよ。変装して医者の真似事をしたり、彼女の職場の人間と魔法で入れ替わったり。痣をつけるためにどれだけ手がかかったか」
「それがお前の役目だ。父上の時も同じ手順だったんだろう?」
「えぇ、そうですよ」
自慢の髭を撫でながらバルボッサが笑う。
この国は昔、神の加護を受けた二人が夫婦になる風習があった。しかし、ある時期に王族が病で亡くなってしまったせいで痣が現れなくなった。
痣は王族の証でもあるため、当時の貴族や国営に関わる者達は国が割れないようにある方法を取った。
それが痣の偽造だった。
以来、この国の王族はこっそり別の一族に入れ替わって今日まで来た。
痣があるのに国が豊かにならないととんでもないことになるので王になる者には重いプレッシャーになるが、そんなのは些細なことだ。
痣がある二人は神のお告げとして必ず結婚しなくてはいけない。
つまり、絶対に結婚したい相手と結ばれるのは確定しているということだ。
本物かどうかを確かめれるのは宮廷魔法使いだなんてよく考えたものだ。バルボッサが黒と言えば偽者だし、白と言えば本物になるのだから。
時が経って、当時の入れ替わりを知っている者は少ない。記録にも残ってないから実質、王族の口伝だけになる。
バルボッサが死んだ後はまた次の宮廷魔法使いにその時代の王から告げる。他人に漏らせば命を奪う最上位の契約魔法によって。それに相応しい地位は与えられるのだから。
「しかし、よかったので?あんな年上の女性で」
「バルボッサ、余は年上好きだ。それに昔一度だけお忍びでナナハの料理を食べた時に惚れ込んでな。……彼女が年下に弱いことは知っている。厳しい環境で鍛えてきたのだ、甘えられるのが好きなんだとさ」
「ははは。この国の麒麟児と呼ばれる王子に見初められるとはそれこそ神の加護かもしれませんな」
そうだな。
障害となりそうな連中は排除してあるし、父上は余の有能さを理解しているから機嫌を損ねる真似はしない。
ナナハ、これからは余の運命の相手として共に生きて行こう。
もう、逃れられない運命なのだから。
この後、美味しいお菓子で餌付けされる王子とそんな彼を目一杯甘やかす花嫁は夫婦になった。
そして、イチャコラしながら幸せに暮らしましたとさ。
お終い。
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