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閑話 狐達の足跡

かあああああああんわ☆


お詫び


進捗状況が微妙なので閑話を挟ませていただきます。

期待してくれた方 すみませんでした。


 これは、人類の善意と悪意に翻弄された、獣人の一族の足跡を辿った物語である。




 正歴402年 魔王台頭の100年前


 熱砂の王国ブラムトと群山の帝国ハルシアの国境に存在した、名も無き小さな森。

 そこには金色の毛並みを持つ美しき獣人、金狐のフェネア族が暮らしていた。

 自然と共生する無欲な彼らの個体数は増加しなかったが、森の恵みを受け、豊かで平和な暮らしを正歴前から続けていた。


 そんな金狐族には、ひとつだけ他の獣人と異なる特徴があった。

 金狐の雌は、獣の耳と尾を人間の様な姿で生まれるのである。

 その美しさ故、里からはぐれたフェネア族の者が、ハルシア帝国の王妃に登り詰める事まであったという。




 正歴430年 ハルシアにて大規模内乱が発生


 ブラムトへの亡命を試みるハルシア第22代皇帝 アルシウス帝は越境中に背中に矢を受け、国境の森で倒れているところをフェネア族に発見、保護される。

 フェネア族の懸命な治療が功を奏し、一命を取り留めたアルシウス帝は遠征軍を呼び戻し反乱を鎮圧。


 帝都に戻ったアルシウスは命を救ってくれたフェネア族に恩義を感じ、一族の長に獣人初の爵位を与え、自分を森で見つけてくれた金狐の少女、イースを妃として王宮に迎え入れた。


 しかし獣人差別が常識であった当時、皇帝の行動は他の貴族達の反感を買うこととなった。

 皇帝の庇護下にあるフェネア族に手を出す事は叶わなかったが、そのひとときの庇護が、後に更なる悲劇を生むこととなった。

 貴族達が抑圧していた獣人に対する不満は徐々に怒りとなり、やがて爆発寸前の憎悪となったのである。




 正歴461年 アルシウス帝崩御


 アルシウスの庇護を失ったフェネア族を待っていたのは、貴族達による凄惨な報復であった。

 アルシウス帝の子を身篭ったイースは城の地下に幽閉され、まともな食事も与えられずにお腹の子供と共に衰弱死。


 爵位を貰い受けたフェネア族の長、リティ家はブラムトとの内通という冤罪を着せられ、一族31人全員が串刺しの刑に処された。


 そして事情を一切知らないフェネア族は故郷である森を燃やされ、ハルシアから追放された。

 新たな安住の地を求め、総数が半分以下に減少したフェネア族は、行く当てもない旅に出ることを余儀なくされるのであった。




 正歴470年 北ブラムト自治区 創立


 紛争が激化し、周辺国家からの難民等を押し込む為、ブラムトは北方にある都市遺跡を自治区と制定、亜人、獣人を含める類人種族の定住を認めた。

 遂に安住の地にたどり着いたと思われたフェネア族だが、彼らを襲う悲劇はまだ終わらない。


 当然自治区に政府はなく、実力至上主義の社会がまたたく間に築かれることとなった。

 争いを好まないフェネア族は社会の底辺に位置する種族となり、雄はタダ同然の日雇い、雌は身を売ることでしか生きる術が無かった。


 それでもフェネア族は誇りと故郷を捨て、この過酷な世界で生き延びることに成功したのであった。




 正歴502年 魔王台頭 全人類に対し宣戦布告


 自治区にて強制徴兵が開始される。ブラムトにとってはタダ同然の人的資源である自治区の民は、ロクな装備も配給されず、最前線へ送られては肉の盾として消耗されていった。


 それでも戦局は好転の兆しを見せず、遂に最弱である筈のフェネア族の中でも徴兵される者が出始めることになる。


 この頃になるとフェネア族の誇りである金色の毛皮はだんだん色褪せ、黄土色へと変化していった。




 正歴506年 逆境打破の為 異世界より勇者 クロスが召喚される


 絶大の『個』の力を有する勇者によって戦局は一気に好転、防戦に転じた魔王軍は超長距離魔法による拠点攻撃を開始。


 主要都市は魔法障壁や地の元祖によって被害は抑えられていたが、重要度が低く、辺境に位置する自治区は昼夜、魔の砲火に曝されることとなる。


 多くの犠牲を出しながらも、フェネア族は多種族と共に古都の地下墓地に身を潜め、大戦の終結を待ち続けたのである。




 正歴507年 自由歴0年 魔王崩御 人類勝利


 凱旋した勇者一行の言葉により、表面上人類国家の亜人、獣人に対する差別は解消された。

 しかし徴兵に消極的で仮想敵国であるハルシアからの流民であるフェネア族は、勇者の言葉の恩恵を殆ど受けることなく、廃墟と化した自治区を離れ、目的地のない流浪を続けることとなった。


 そんな窮境で望まれることなく一人の少女が生を受けた。他種族との混血であった少女の毛色は、美しい金色とは程遠い焦げ茶色をしていた。


 セピアと名付けられた少女は、生まれてからフェネア族と共に砂漠を放浪し続けた。

 父のいない彼女の唯一の肉親である母親は難病に侵されていたが、夜になるとセピアに自分の知り得るあらゆる知識を伝え続けた。

 彼女にとって母が教えてくれた事が全てであり、正しさでもあった。

 そして母が亡くなる前の夜、彼女がセピアに送った最後の言葉は、


「生きて 自らの安らぎを見つけよ」


 であった。




 自由歴 17年 パーシェ ブラムト連合軍 東国アズマに対し宣戦布告


 砂漠を抜け、隣国パーシェへと繋がる洞窟を目指して進むフェネア族の総数は、既に50を下回っていた。

 しかし一行の動きは洞窟付近にある砦に捕捉され、違法越境の罪により、逃げ遅れたセピアを含む半数の同族は砦へと収監されることとなった。


 そして先日、多くのフェネアにとって思いも寄らぬ『救い』が訪れた。

 救いの主は魔物の軍勢と共に砦を占拠した右腕のない人間の男であった。男は、痛みなき死という安らぎを得る選択権をフェネア族の者達に与えたのだ。


 誰もが最初は恐れたが、旅に疲れ心が壊れかけている者、すでに心が壊れてしまった者達は次々と『救い』を受け入れていった。

 しかしその中でセピアはただ一人動けずにいた。


「生きて 自らの安らぎを見つけよ」


 彼女の母は死を許してくれなかった。絶望の涙が、少女の瞳から止めどなく流れ落ちた。12年も彷徨い歩き、苦しみ続けた。なのにまだ生きねばならないのか。コボルトの慰み者に成り下がってまで...


 .........

 ......

 ...


 いつまで耐えれば、安らぎを見つけられるのだろうか。後どれくらい、この小さな体を鞭打ち続けなければならないのだろうか。


「付いて来い」


 さっきの男だ。私をコボルト達の所に連れていくのだろうか。

 母は言っていた。コボルトに捕まる時は死んでいた方が楽だと。

 私は、コボルトのおもちゃになってしまうのだろうか。


 ーーガチャーー


 男と共に入ったのは、彼自身の部屋のように見えた。当然、コボルトは1匹もいない。


「名前は?」


 意図的にトーンを上げて、声調を柔らかくした優しい声で男が語り掛けてくる。砦の男達の様な偽りの優しさではない、そう直感した。


「......セピア」


 小さな声で答える。ふと、母の言葉が脳裏を横切る。


「生きて」


 私はあの時、死を選ばなかった。だからこうしてこの男に選ばれた。

 母の言葉に間違いはなかった。私はこの男の側で、安らぎを見つけることが出来るのかもしれない。


 今まで閉ざしてきた感情が、洪水の様に溢れかえってくる。当てもない旅が、やっと終わりを迎えるんだ...


「セピア、お前は今から俺の従者だ。難しく考えないでいい、俺の側で俺が命じたことをすれば良い」


 こんな優しい声を掛けられたのはいつぶりだろうか。

 涙で視界が滲むが、まだ泣いてはいけない。新たな主の前で粗相をしてはいけない。

 唇が切れて、口の中に鉄の味が広がる。


「... 今日は休め。この部屋は好きに使って良い」


 不器用だけど、優しい声で話すと主様はすぐに部屋から出ていった。

 私のことを気にかけてくれているのだろう。


「う... うぇ うええええええん!」


 多分、生まれて初めて自分の意思で、大声で泣いた。

 きっとこの人が、優しいこの人が私に安らぎを与えてくれる。

 私はこの人に仕える。死を身に纏ってなお優しさを見せてくれるこの人に、満足して貰える様に仕えると心に決めた。








人間なら誰だって勘違いするもんだぜ☆

ジェドくんはいつ察するのかな?

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