ブラムト侵略編 3話
賢者タイム
某読者の熱烈な要望(脅迫)により、女性キャラを緊急参戦させることになりました。
ですが心配しないでください。稀に登場する癒し担当ってだけなので相変わらず主人公は女っ気皆無のサイコ野郎です。
ラインの予想通り逃走を図ろうとした男達を始末した後、俺はワッガルと共に砦に向かって歩いていた。
昼に近づくにつれ、太陽が放つ熱がどんどん強烈になっていく。
「暑くないのか?こんなに着込んで」
顔色ひとつ変えずに歩くワッガルは、見ているだけでこちらが暑くなりそうな格好をしていた。
「好きで着てるわけじゃないぞ、これは占い師の正装じゃ。誰のお陰であのトンネルをみつられたと思っている!」
最初は疑っていたが、ワッガルの杖が倒れる方向へ歩くと、一発で隠しトンネルを発見できたのだ、もし彼が居なかったら、俺はまだこの荒漠の中を彷徨っていたかも知れない。
「あんたのお陰だよ、占いをバカにしたことは謝る」
ちらっとこちらを見上げると、ワッガルの表情が少し変化した。正直コボルトの表情なんて全く分からないが、少なくとも悪意のある顔ではない。
「... 分かれば良いのじゃ」
それから暫く歩き続け、小さな砂丘を越えた辺りで砦が見えてきた。
「見ろ もう片付いた様だぞ」
砦の方を見ると、その防壁の四面に勝利の合図である黒旗が風になびいていた。
当然だろう。正直に言うと、ラインクラードは一人でも砦を攻略できた筈だ。それなのに兵を使ったのには、何か理由があるのだろう。
「行こう、これはまだ始まりにすぎない」
(ホリョ コロシタラ タノシソウ)
脳裏の声がどんどん自重しなくなっている。 いや、多分これが俺の本音なのだろう。また無意識のうちにあの笑みが顔に出ている。
急いで顔を無表情に戻すと、ワッガルは前を向いたまま小声で呟くのが聞こえた。
「ラインクラード様の心情が少し分かった気がするよ... お前の目は、あのお方にそっくりじゃ...」
黙ったワッガルの隣で、俺は黙々と歩き続けた。ワッガルの言葉に疑問が残ったが、多分どう問いかけても答えは得られないのだろう。
.........
......
...
砦に入ると、東門付近にある広場に、降参した人間達が手足を縛られ、集められていた。
不思議と軽装備の兵達に負傷者は少なく、逆に重装備の者達の多くは目を潰されていたり、無残に切り刻まれた顔から血を流していた。
「ご苦労 であった」
「圧勝の様だな」
防壁の角には数十の死体が積まれているが、コボルトらしきものは見当たらない。
「ラインクラード様の予想通り、逃亡中の人間の指揮官らしき人物を始末しました」
片膝をつき、ワッガルは首を垂れる。落ち着いて話そうとしているが、その声は興奮で震えていた。
感情の有無が分からない地元素はともかく、コボルト達は皆同じく興奮しているのだろう。
今散々自分達を虐げてきた人間どもに、遂に一矢報いることができたのだから。
「さて、これからどうする?」
腕を組んで防壁に登るラインの後ろで俺は問いかける。
「まずは 勝鬨だ」
そう言うと広場に集まる地元素とコボルト達の方に向かって、ラインは砦全体に届きそうな大声をあげた。
「諸君! 勝利 である! 諸君らが もたらした 完全なる 勝利 である!!」
簡潔な言葉だった。だがその分、皆の脳裏に鮮明に『勝利』という言葉が焼きついた。そしてそれは自分達が勝ち取ったものであると。
束の間の静寂の後に、歓声が上がった。甲高い声で叫ぶコボルト達、両の拳を空高く掲げて打ち付ける地元素達。
広場中を包む歓声の中、ラインは俺に向き直ると、いつもの無機質な声で語り始めた。
「戦は 将の ものでは ない 兵達の ものだ」
砦内の損壊状況を見ると、ラインクラードが一人で暴れた様な形跡はない。
おそらく錆で扉を封じたくらいの事しかしていないのだろう。
「如何なる 武具よりも 自信と 欲望が 兵を 強く する」
広場の魔物達の目を見ると、そこには人に対する憎悪以外の、新たな光が灯っていた。
自分達は人間に勝てる。自由を手にすることができる。言葉で表すのであれば、それは希望の光とでも言うべきものだろう。
「ジェド お主は 統べる 者の 目を している 故に 我は お主に その術を 伝える」
ラインクラード、俺は彼のことが分からない。
彼は俺が想像する魔物とは、あまりにもかけ離れていた。
憎しみや私怨でなく、まるで使命であるかのように、己の故郷を焼く。俺はそんな彼に、どこかで惹かれているような気がした。
.........
......
...
広場で宴を開いたコボルト達とは別に、俺は礼拝堂に入りきれなかった捕虜達の収容場所を探して砦を散策していた。
ーータタタ...ーー
微かに、聞き覚えのある足音がした。音がした方を見ると、一瞬だけベージュ色の尻尾らしきものが通路の角に消えるのが見えた。
捕虜の中に例のキツネ頭が居なかったのを思い出し、俺は息を殺して獣人の後をつけた。
「はぁ... はぁ...」
足を引きずりながら、獣人は砦の奥へと進んで行く。逃げるのが目的では無いらしい。
ーーガタッ ーー
兵舎の床板を外すと、獣人は地下へと続く梯子を降りていった。もし砦の外に繋がる通路だと厄介なことになる。
ハシゴの側に駆け寄って足をかけようとするが、片手しかないのを思い出して、俺はそのまま下に飛び降りることにした。
ーースタンーー
綺麗とは言えないフォームで着地した俺の目の前で、獣人は懸命に扉の鍵穴にピッキングツールを挿し込んでいる。
「止まれ」
ーーカチッーー
俺の声と同時に、扉の鍵が開いた様だ。
俺の存在に気付いた獣人は扉の奥にあるなにかを守る様にして扉の前でダガーを構えた。
「自分で手を縛れ、殺すつもりはない」
落ち着いた口調で彼の足元に縄を投げるが、キツネ頭は牙を剥いてダガーを構えたままだ。
「頼む、彼女らだけでも逃がしてくれ!」
彼女ら...?この扉の先にキツネ頭の雌がいるのか。
「縄を拾って両手を縛れ。話はそれからだ」
開いた扉の隙間から、怯えた視線を感じる。ここは地下牢なのだろうか。
「うあああああ!」
俺の目が扉に行っている隙を突いて、キツネ男がダガーを構えて突っ込んできた。
側から見れば俺は片腕がないひ弱そうな人間なのだから、キツネの行動に特に驚きは感じなかった。
「それが答えか」
俺にダガーが届く前に、キツネ男は崩れ落ちた。
俺はさっき投げた縄の先端を軽く踏んだのだ。その縄は俺の装備という扱いになり、それを踏んだキツネに呪いが発動したのだ。
いわば即席トラップの様なものだ。
「ヒッ」
キツネ男が倒れるのが見えたのか、扉の奥で小さな悲鳴が聞こえた。
死体を跨いで扉を開けると、割と広い部屋に雌の獣人達が、互いに抱き合って震えていた。
「......予想外だな」
雌のキツネというよりも、キツネ耳を生やした人間の女性に見える。
部屋に漂う匂いからして、砦の兵達の慰み者にされていたのだろう。
「イヤ... 来ないで!」
言われなくても近づくつもりはない。突然掴みかかってきて匂いを移されたら困る。
よく見ると壁際にも数人の獣人が蹲っているが、その目からは生気を感じることができなかった。
「この砦は我々が占拠した。お前らはこれから我々の捕虜だ」
「待って、私達は人間に捕まってたの!被害者なの!」
「魔物に人間の道理が通じると思ってるのか?」
「そ そんな...」
確かに彼女らは被害者だ。だが同情する気はない。無関係だろうと俺らの情報を漏らした獣人と同じ種族だ。
捕まればあの性欲がヤバそうなコボルト達に弄ばれるか、更に酷い仕打ちを受けることになるだろう。
(シンダホウガ ラクダロ?)
「... そうだな」
小声で呟くと、片膝をついて俺は獣人達に向けて手を差し出した。
「これ以上辱めを受けたくない者はこの手に触れろ。苦しみのない死を与えてやる。 捕虜の扱いは分からないが、我が軍にはコボルトが200匹以上居る事だけは伝えておく」
コボルトのことを聞いて女達の顔がすぅーっと青ざめるのが分かる。
やはりコボルトは『ヤバイ』のだろうか。
「ぁ... ぅ...」
俺の話を聞いて、壁際にいた女がフラフラと立ち上がった。破れた衣服から恥部が見え隠れしているが、目が死んでいる女はそれを気にせず俺の方に近付いてくる。
ーースッ ドサッーー
迷い無く俺の手に触れ、女はふらりと地面に倒れた。
「キャァァ!」
逃げ場がない女達はただ悲鳴を上げて震える事しか出来なかった。
なるべく彼女らを刺激しない様に、静かな声で俺は続ける。
「俺はここを動かない。どうするかはお前ら次第だ。3分後にここを出てお前らのことを報告する。それまでに決めろ」
残酷にタイムリミットを告げる俺から目を逸らしながら、女達は嗚咽を漏らした。
重苦しい時間が、薄暗い地下牢の中でゆっくりと流れていった。
結局、殆どの獣人達は羞恥より死を選んだ。
残されたのは明らかに心が壊れた一人と、勇気を出せずに牢の隅で震えながら泣いていた幼さを残す少女だった。
(ユカイ アア ユカイダ!モット モット!)
一際大きく響く脳裏の声に逆らいながら、俺は少女に歩み寄る。
「俺がした事は他言無用だ。話したら... 分かるな?」
そう言ってほんの少し手を伸ばすと、涙でぐしゃぐしゃの顔で少女は必死な顔で何度も頷いた。
女達の瞼を丁寧に閉じると、形容し難い不快感を胸に、俺は地下牢を後にした。
.........
......
...
「そうか 牢に 捕虜を 入れて 女は コボルトの 相手を させよう」
司令室で地図を眺めるラインに事の顛末を報告すると、予想通りの答えが返ってきた。
「先程 話した こと 覚えて いるな」
ラインが言っていた自信と欲望。これはコボルトの欲望を刺激するためなのだろう。
『勝てばこんな事が出来る』という欲望が湧く。それがコボルト達の戦う理由となり、力となるのだ。
「分かっているさ」
そう言って司令室を出ようとするが、扉の前でふと足が止まった。
あの少女の泣き腫らした顔が脳裏を横切る。
湧き上がった感情は、決して同情などではなかった。
(オレガミツケタ オレノモノダ!)
脳裏の声が俺の気持ちを正確に代弁してくれる。さっきから感じていた不快感の正体、それは満たされない独占欲だった。
コボルトに俺が見つけたものを奪われたくないのだ。他人におもちゃを渡したくない子供の様な感情だ。
「......」
この幼稚な考えを口に出せず、黙ってドアノブに手を掛けた俺の背後から、ラインの声が聞こえた。
「1人だけ だ」
思わず振り返ると、ラインは相変わらず地図に顔を向けながら、羽ペンを動かしていた。
「貪欲は 悪い こと では ない だが 欲に 飲まれる な」
「... ああ」
司令室を出ると、俺は足早に牢に向かった。
.........
......
...
キツネ耳の少女を牢から連れ出したものの、どう扱えば良いのかがよく分からなかった。
コボルト達が羨ましそうな目でこっちを見ているが、残念ながらいかがわしい事以前に俺はこいつに触ることすら出来ない。
「名前は?」
消えそうな声で少女は答える。
「......セピア」
毛色に因んだ命名なのだろう。実にシンプルで分かりやすい。
しかしセピアにはイカスミという意味がある。これからこの娘をイカスミ呼ばわりするのかと思うと、少し複雑な気持ちになった。
「セピア、お前は今から俺の従者だ。難しく考えないでいい、俺の側で俺が命じたことをすれば良い」
なるべく優しい口調で話しているつもりなのだが、セピアの震えは止まらない。涙を我慢して噛み続けていた唇から、ツーっと一筋の血が流れ落ちた。
彼女の反応はごく自然だ、触れただけで命を奪われる男の従者になるなど、常に頭上にギロチンをぶら下げられている様なものだ。
「... 今日は休め。この部屋は好きに使って良い」
そう言って部屋から出た途端、部屋の中からセピアの泣き声が聞こえてくる。
(コノコ イツマデ モツカナ...)
少し複雑な気持ちになった俺とは違い、脳裏の声はいつに増して愉快そうであった......
狂者タイム
なんか前回の予告とぜんっぜん違うこと書いちゃったけどゆるっしてええええっっひゃああああああああああああああああ↑↑↑(^ω^)
あとシリアル的な奴でフルグラってのがあるんだけど、アレ牛乳なしでおやつ気分で食えちゃうから困る