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ブラムト侵略編 2話

賢者タイム


書き溜め分が終わってしまいましたので、少々投稿時間が不規則になると思います。

投稿後すぐ読みたい方は是非ブックマークしてください。(バレバレ宣伝)

 地平の果てまで続く丘の上に築かれた砦。

 その防壁に寄りかかってうつらうつらしている番兵のカインの顔に、一筋の朝日が差した。


「獣人どもめ... 大軍は愚かゴブリン一匹いないじゃないか」


 愚痴をこぼしながら、カインは近くの水瓶(みずがめ)に貯められた生ぬるい水で顔を洗う。


「皮を剥いでマフラーでも作ってやろうかな...」


 昨日の夕方に転がり込んできた獣人が、魔物の軍勢が押し寄せているなどと抜かしたせいで、カイン達は夜襲に備えて一睡も出来なかったのだ。


 ーーゴゴゴゴ...ーー


 動かしてもいないのに、瓶の中の水が波紋を作っている。


「......ん?」


 怪訝に思ったカインは不意に頭を上げると、朝日に照らされた砂丘の麓に、不自然な砂煙が立っていることに気付いた。

 そして塵埃の隙間から、一際目を惹く真紅の鎧を纏った異形の者が姿を現した。


「て... 敵襲、敵襲だ!鐘を鳴らせぇ!!」


 .........

 ......

 ...


 大型の地元素を率いて、ラインクラードは先陣を切った。何の計略も無い、言い換えれば無謀とすら感じ取られる正攻法だった。

 それなのに、俺はこの突撃が失敗するイメージが湧かなかった。


「行っても無駄死にするだけだぞ。騎士様達と違ってわしらは脆い」


 どんどん離れて行くラインの背中を見つめる俺に、ワッガルが語りかける。

 昨日の様な見下した態度でなく、ワッガルはあくまで対等の存在として俺に接してくれている。


「分かってる。俺は自分がすべき事をするだけだ」


 夜明け前にラインが俺に語った作戦を思い出しながら、俺は近くの岩陰に向かって、ゆっくりと歩き出した。


 .........

 ......

 ...


「おい、鐘が聞こえなかったのか!敵襲だぞ!」


 カインが大声を上げながら駆け込んだのは、この砦の守備の要、熟練の魔術師達が集まる礼拝堂であった。


「......」


 カインの声が耳に入らない様に、魔術師達はただ目を閉じ、祈りの言葉をぶつぶつと続けている。

 太陽を信奉するブラムトの魔術師達は、陽が昇るときと沈む時、20分に渡る祈りを毎日欠かさず行なう戒律の元に生きている。


「頼む!今回は矢でどうにかなる相手じゃなんだ、元素(エレメンタル)が居るんだ!手を貸してくれ!」


「...」


 カインに胸ぐらを掴まれても、魔術師は一心不乱に祈りを唱え続ける。

 彼女らは何があっても祈りをやめないと知っていて、ラインクラードは襲撃をこの時間に決めたのである。


「くそっ!」


 そう吐き捨てると、矢筒を担いでカインは乱暴に礼拝堂の扉を蹴ち開け、走り出ていった。



「どうだった?!」


 防壁に駆け上がったカインは矢を放ちながら、隣の名も知らない弓兵の問いかけに答える。


「だめだ!あの女ども、自分達の命よりもお日様を拝む方が大事らしい!」


 東の防壁に集まった100人近い兵達が、止まることなく矢を放ち続ける。それでも突撃する地元素達の勢いは削がれるどころか、増している様にすら見えた。

 既に丘の中腹まで進行してきた地元素を盾にして、その後方にかなりの数のコボルトが待機しているのが見える。


「狼狽えるな!すぐに重装兵が出る。角度をつけて背後のコボルトを狙うのだ!」


 危機的状況を打破すべく、指揮官のハカンが直々に指揮を取るべく防壁の上に登った。


「ハカン様、魔術師達は?!」


 ーーズガァン!ーー


 何かを答えようとするハカンの目の前に高速で飛来した岩塊が着弾し、防壁全体が大きく揺れた。


「投石だ!地元素どもが岩を投げてきやがるぞ!」


 カインが指差す方を見ると、後列に居る少し小柄な地元素達が、砂の中から岩石を持ち上げては、砦に向けて投擲を始めていた。


 ーードォン!ーー


 ーーグチャッーー


 不幸にも岩の下敷きになった兵士に構う暇もなく、ハカンは扉の前で待機している全身を金属鎧で固めた戦士達に号令を下す。


「重装兵、全隊出陣、魔物どもを一匹たりとも近付けるな! 開門!」


 命令を聞いて門衛の二人が二枚開きの重厚な金属扉を押し始める。


「...... どうした、早く開けないか!」


「と、扉が動かないんです!」


 それを聞いて何かを思い出した様に防壁から体を乗り出し、扉の外側を見たカインの顔色は、みるみる青ざめていった。


 ーーギシッ ーー


 扉に手を当てながら、紅の鎧の魔物 ーーラインクラードーー は、その兜の奥で揺らめく虚ろな目でカインを見上げていた。


「ひぃ!」


 情けない声を上げながらカインが尻餅をつくと同時に、門衛の方から甲高い悲鳴が聞こえてきた。


「錆びる!錆びて取れねぇ!何だこれはぁ!!」


 異常な速度で金属扉を赤茶けた錆が覆っていく。扉に触れていた門衛のガントレットにも、錆が生じ始めた。

 必死にそれ外そうとする門衛だが、ガントレットの裏側にまで広がった錆が棘の様に肉に食い込み、痛みに耐えかねた門衛は悲鳴を上げながら地面に転がった。


「取ってくれ!だれかこれを取ってくれよぉ!」


 救いを求める門衛に手を伸ばす者は居なかった。ガントレットと繋がる鎖帷子まで錆は侵食を続け、やがて門衛の全身は錆に覆い尽くされた。


「ォ、オ゛..... ア゛ァ...」


 微かに痙攣する鎧の隙間から、絶え間なく血が滲み出ている。身動きすら取れず、自分の鎧という棺に囚われた門衛は、想像を絶する痛みの中で息絶えた。


「クソ、北門だ!北門から迂回するぞ!」


 そう叫んだ誰かの声は、少し震えていた。

 しかし降り注ぐ投石を避けながら北門へ移動すべく、重装兵達が入り込んだ連絡通路には、更なる地獄が彼らを待っていた。



「押すな!倒れたらどうするんだ」


 狭い通路を二列で並びながら進む重装兵達の鎧がぶつかり合い、ガシャガシャと金属音が響き渡る。


 ーートンーー


「お、おい。今足元をなにかが通ったぞ」


 咄嗟に足元を確認した重装兵の一人の目に、醜いコボルトの笑顔が映った。


「イギギギギ、ギギクア!」


 耳障りな声を上げると、天井に張り付いたコボルト達が、一斉に吊るされた油灯を切り離した。


 ーーガシャン!ボゥッーー


 重装兵の兜に落ちた灯油がメラメラと燃え上がるが、重装兵達は動じる素振りを見せない。


「ククク... 鼠どもめ、我らがこれしきで怯むとでも?」


 ブラムト砂漠に注ぐ日光から身を守るため、重装兵の鎧には、強力な耐熱魔法がかけられている。

 他国の兵が鎧を脱がざるを得ない灼熱の中でも勇猛に戦う重装兵達によって、この砂漠の小国は守られてきたと言っても過言ではないのだ。


「ギギギ... イィッ」


 しかしまるでこれが想定内である様に、コボルト達の顔から醜悪な笑みは消えない。


「薄気味悪い奴らだ... とっとと突き落せ!」


 そう言って兵達はウォーハンマーをコボルト達に向けて振り回すが、狭い通路の壁にハンマーが当たってまるで狙いが定まらない。


「ちっ、ちょこまかと!」


 器用に壁を蹴りながら攻撃を避けるものの、コボルト達は一向に攻撃を仕掛けない。まるで何かを待っているかの様に。


 ーーシュゥ...ーー


 兵達の肩や頭上で燃えていた炎の勢いが弱まり、徐々に室内は闇に包まれ始める。


「ま まさか.... おい、早く行け!こいつらのことはいい!ここから出るんだ!!」


 コボルト達が待っている『もの』に気付いた兵の一人が、焦った声で前の人を急かす。


「だから押すなよ!前が詰まってんだ!」


 ーーフゥ...ーー


 最後の炎が燃え尽きると、完全なる闇が通路を包んだ。


「なんだ?!見えないぞ、どうなってる!」


 コボルト達が油灯を落としたのは、単純に明かりを消すためであった。只でさえ人が詰まって動きづらい狭い空間内で、更に視界まで奪われたとなると、どれだけ優秀な兵でも抗う術はない。


 それと比べて洞窟に住むコボルト達は夜目が効く上、小ぶりな体で自由に重装兵達の間を動き回れる。

 地元素の投げる岩石と共に砦に侵入し、コボルト達の本領を最大限に発揮させるこの策を練ったのもまた、ラインクラードである。


「何か頭に登ってきたぞ!」


 ーーガシャッ ブスッーー


「ギャァ!見が 目があああ!」


 暗闇の中で、コボルト達は兵の鎧や兜の隙間に細い金属の釘を突き刺している。


 ーーガタッ ドスッーー


「おい!どうなってる!」


「来るな、来るなぁ!!」


 ーーカァン ガキィンーー


「武器を振り回すな!味方だ!」


 ーーガスッ ドサッーー


「いてぇよぉ 死にたくねぇよぉ!」


 鎧がぶつかり合う音、悲鳴、怒号、コボルトの嗤い声が狭い通路の中を埋め尽くしている。この連絡通路は、既にコボルト達による殺戮の檻と化していたのであった。


 .........

 ......

 ...


「ハカン様!重装兵はまだですか?!」


 砦のすぐ下まで迫った地元素の大群を見て、弓を放って逃げ出す兵が出始めている。

 北門から迂回しても3分あれば十分移動できる距離なのに、5分経過しても重装兵達は現れない。


「ハカン様?!」


 カインが振り向いた先に、既にハカンはいなかった。砦内の兵を囮に逃げるつもりなのだろう。


「畜生...... チクショォォォォ!!!」


 絶叫しながらも、カインは弓を構え、矢を放ち続ける。例えそれが無意味な足掻きと知っていても......


「とまれぇぇ とまれよおおおおお!!」


 防壁に残っているのは、もうカインだけであった。彼には、死んでもここを離れるわけには行かない理由があった。

 この砦から西に行ったすぐの場所に、カインの村がある。魔物達がこの砦を占拠すれば。王城に向かう途中に必ず通る場所だ。


 ーーズシン... ズシン... ーー


 地元素が一歩近づく度に、砦を揺らす地響きが大きくなる。恐怖に震える手で弓を握りしめ、カインは矢筒に残る最後の矢を魔物に向ける。


 ーーガッーー


 遂に城壁に到達した地元素達は、それぞれの手で防壁を掴む。

 その衝撃大きく城壁が揺れ、カインは姿勢を崩して倒れた。その反動で明後日の方向に打ち出された矢は、偶然にも地元素の背後にいたコボルトの脳天を貫いた。


「クーペ、シェイ... 許してくれ。情けない父さんで...ごめんな...」


 まだ明けたばかりの空を仰ぐカインの目から、涙が一筋流れ落ちた。


 ーーギギギ ガシャッ ガシャッーー


 大きな影が、カインを覆う。

 目を開けると、紅く錆びた鎧を纏う魔物はカインを見下ろしていた。


「貴様 だけだ 勇敢な 者は」


 そう言ってカインの前で腰を下ろした鎧の魔物の横を、何十ものコボルト達が走り抜けていく。砦内を掃討するつもりなのだろう。


「我は ラインクラード 貴様 名は」


「... カイン」


「では カイン クーペと シェイ は 見逃そう」


「え...?な 何で...」


「貴様が 命を 賭して 護ろうと した 者達 だろう」


 それを聞いて、カインの瞳から大粒の涙がこぼれた。

 悔しさや安堵、様々な感情が渦巻いて、涙という形を取ってカインの眼窩から(あふ)れ出たのであった。


「あぁ... クーペ、シェイ... これで... 俺は...」


 静かに目を閉じたカインの胸に手を当て、ラインクラードが静かに呪文を唱えた。すると小さな赤い結晶がその手に集まり、やがて透き通った深紅の球体となった。


「戦士よ 敬意を...」


 ピンポン玉大のブラッドオーブを鎧の中に入れると、ラインは静かに立ち上がり、砦内部を見渡した。


 戦意を失った衛兵達の大多数は投降し、砦から逃げ出した者達を追う者は居なかった。この灼熱の荒漠が、彼らに引導を渡してくれると誰もが知っていたからだ。


 戦の大局は決した。

 魔物達にとって最初の勝利が、静かに訪れたのであった。


 .........

 ......

 ...


「速く、もっと速く!!」


 知らせなくては、早く本国に侵略を知らせねば... そう思いながらハカンは馬に鞭を打つ。

 砂上を走る為の魔法が付与された蹄鉄の所為で、馬の速度はかなり制限されているのだ。


「ハカン様、あれを!」


 砂漠を抜ける為の秘密の隧道、なんとかここまで辿り着けたことに、ハカンは安堵の息を漏らす。


「...?」


 目を細めてよく見ると、人間らしき影が隧道の前に立っている。


「どうしますか?ハカン様!」


「構うな!退かぬなから轢いて通るのみ!」


 隧道へと近づくにつれ、人間の姿がはっきりと見える様になった。


「...狂人か?」


 隧道の前で仁王立ちする片腕の男は、その手に鎖を絡ませ、じっとこちらを見据えている。


「貴様そこをどけ!止まる気はないぞ!!」


 確実に声が届く距離であったが、男はその場を離れる素ぶりを見せず、腕に絡めた鎖をゆっくりと振り回し始めた。


「ええい!ならば死ぬがいい!突っ込め!」


 突進する二頭の牡馬に向けて、男は鎖を鞭の様にしならせ、容赦無く馬の頸部に向けて打ち付けた。

 この程度で訓練された軍馬が怯むとでも思っているのなら、やはりこいつは狂人なのだろう。


 ーーガガガガ ガシャァァンーー


 突然、馬達が骨を抜かれた様に無力に崩れ落ちていった。そして動力を失った馬車の車軸が折れ、そのまま横転した。


「う、うぅ... 一体何が...」


 流血する額を抑えながら馬車から這い出ると、すぐ目の前で片腕の男がこちらを見下ろしてながら笑っていた。

 その笑みを形容できる言葉が見つからなかった。少なくとも、マトモな人間にできる顔では無かった。


「ハカン様!私の後ろに!」


 側近のムークが剣を構えながら二人の間に割り込んだ。


「... 一つ聞いておきたいんだが」


 話を続けようとした隙を逃さず、ムークが男に斬りかかる。

 その剣先が男に触れた瞬間、さっきの馬と同じく、糸を切られた人形の様に白目を剥いて、ムークは地に伏した。


「ヒィッ!」


 情けない声が口から出てしまう。本能が教えてくれている。この人間の様な『何か』に触れてはいけないと。逃げねばならないと。


「ラインクラード って名前、聞いたことある?」


 名状しがたい笑みを浮かべながら、男の形をした者が近づいてくる。


「ラインクラード、知ってるぞ!大戦の時我が国を裏切った騎士のことだ!情報なら何でも話す、頼む!」


 命乞いしながら必死に後退りするが、男との距離は縮まる一方だ。


「いや、今ので十分だよ」


 そう言って男は、笑みを崩さずに手を伸ばしてくる。その腕に巻きついた鎖がジャラジャラと不快な音を立てる。

 目の前のこの指に触れれば、私は死ぬのだろう。何も感じずに、あの馬の様に、ムークの様に、何の過程も経ずに、死という結果に辿り着くのだろう。


 そう思うと、ハカンは瞳を閉じた。


 もう2度と開く事のない 絶望に満ちた瞳を......


狂者タイム


ぴゃあああああああああ もぉおぉぉおぉおぉライン様まじイケメン キシドー精神マックスじゃねえか!!(自画自賛) ひとまず名も無き砦の攻略は完勝でおわりっ! カインくんの矢に倒れたコボルトくん(シムダと命名)に祈りを捧げよー


ラーメン



次回は砦の後片付けと侵略ルートとか練るぜ!

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