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プロローグ 2話

賢者タイム


なろうって一番金かからない娯楽のように思える。

「俺に触るなぁっ!!死ぬぞ!!」


 一瞬だけ俺に剣幕に押されて、食堂内がしんと静まる。


「たわ言を...!」


 そう吐き捨てた男の一人が、曲刀を抜いて俺との間合いを詰める。

 当然鍛えてもいない一般人の俺には、その太刀筋を見切ることが出来ず、両腕で頸部と腹部を防御する事くらいしか出来なかった。

 刃物が接近する風圧を感じる。冷たい刃先が皮膚に触れるのを感じる。しかし次に来るはずの鋭い痛みを感じることは無かった。


 ーーカシャン ばたっーー


 脱力する持ち主の手から滑り落ちた曲刀は、俺の腕に小さな切り傷を作っただけであった。


「魔物だ... 」


 誰かが呟いた。


「人の形をした魔物だ!」


 それに呼応するように誰かが叫ぶ。悪意に満ちた無数の視線が俺に突き刺さる。


「違う、待ってくれ!そんなことをするつもりは無かった!」


 幾ら弁解しても無駄だと言うことは分かる。今俺にできるのは、可能な限りここの人達を刺激せずに、衛兵の到着を待つ事だ。


「俺はここを動かない!どうか落ち着いてくれ!触れなければ害は無いはずだ!」


 地面に両膝をつき、両手を頭の後ろに回して無抵抗であることを示す。それを見て周囲の人達も、武器を握り締める手を僅かに緩めた。

 中学か高校の頃であれば、問答無用でここを逃げ出していただろうが、今の俺は違う。故意では無いとはいえ、俺は三人の人間の命を奪った。

 ここで逃げるのは、轢き逃げと同じだ。原因が俺にある以上、責任を取るのは当然のことだ。


 ーーガタァン!ーー


 ドアを乱暴に押し開け、鎖帷子を纏った男達が食堂に入ってきた。衛兵のリーダーらしき人物が、この場に居合わせた男に歩み寄る。


「なんの騒ぎだ!犯人は何処だ?」


「その角で膝をついているアズマ人です」


 俺の方を見るなり、衛兵は木製の手錠を片手に、剣を抜き、大股で近づいてくる。


「ま、待ちたまえ衛兵どの!」


 俺に手を伸ばす衛兵を制したのは、ハモンドと呼ばれた男であった。


「どうかしましたか?それよりも遺体は見たところ外傷は無いようですが、毒殺ですかな?」


 頭を振ると、ハモンドは衛兵に事の経緯を簡単に説明した。


「つまり... 何かしらの器具を通してもこの男に触れるても死ぬ、と」


 普通に考えれば信じがたいことだが、そうとしか思えない変死体が三つも転がっていれば、嫌でも衛兵はハモンドの言葉を信じるしか無かった。

 眉を顰めながら、衛兵は手錠と俺を交互に見る。曲刀の事例からすれば、手錠を介しても俺の能力は発動しかねないのだ。


「あの... もし良かったら自分で付けますので、手錠をそこに置いてもらえますか?」


 周りを刺激しないように、柔らかい物腰で衛兵に提案すると、暫く考えて彼は手錠を俺の前に置いた。


「自分で手錠を付ける罪人がいるとはな...」


「俺も自分で付ける日が来るとは思いませんでした」


 手錠を閉めると、衛兵の1人の後について宿を出る。既に日は完全に沈み、衛兵達の持つ松明以外の光源は殆ど見当たらない。


「で、あんた名前は?」


 名前... か。思えばこの世界で俺はまだジョン ドゥ(名無しの権兵衛)だった。... ジョン ドゥ、か...


「ジェド。俺はジェドです」


 羊皮紙に何かを記入すると、衛兵は形式張った口調で俺に向かって話し出した。


「アズマのジェド、殺人および王族殺害の罪で貴様の身柄を預かり、これより最寄りの法廷がある都市、ロージェに移送する」


 4人の衛兵に囲まれながら階段を下りると、既にそこには檻を繋げた馬車が待機していた。


「入れ」


 檻に入る前から、何か嫌な予感がする。そして檻に足を乗せた瞬間、すぐさまその予感が的中した。


「隊長!馬が、馬がいきなり!」


 檻と繋がっていた馬がふらりと倒れ、息絶えてしまった。能力がまた発動した様だ。

 キッと俺を睨むと、隊長は他の衛兵達に新たな計画を伝える。


「馬が死のうが我々がやることは変わらん!徒歩でロージェまで移送するぞ。なに、五日もあれば着く距離だ。協和国衛兵の根性を見せてみろ!」


「「「はっ!」」」


 隊長のゲキに応えて、他の衛兵達はその場で背筋を伸ばし、声を合わせて呼応する。


 軽く装備を整え、俺達はここから北東に位置する商業都市、ロージェを目指すこととなった。


 .........

 ......

 ...


 クアルコを出て五日目の夜、俺たち一行はロージェの城門を見上げていた。アクシデント続きの旅だったが、それも今、終わりを迎えようとしている。


「色々とすみませんでした... 俺のペースに合わせて貰って」


「いいや... こちらが感謝したいくらいだよ。逃げなかった事をな」


 隊長のセリフに皮肉は込められていない。実際、逃げようと思えばいつでも逃げる事は出来た。何せ隊長は身柄を預かったと言っても俺に触れることすらできないのだから。


 ーーきぃ...ーー


 立派な城門が開くと思いきや、城門の端にある小さな扉が開いた。扉に扉が付いているのは、大型建築では案外よくある事なのだ。


「クアルコ衛兵長、ゴトーであります!罪人移送の件で参りました!」


 扉から出てきた金属鎧を着た兵士達の1人が一歩前に出て、兜を脱ぐ。


「ロージェ正門守護のコーエンである。ゴトー、罪人を野放しにするとは何事か!檻はどうした?」


「まだ伝書を読まれていないのですか?今回の罪人は少々特殊でして」


「戯言を、 おい!さっさと縛って監獄に連れて行け!」


 指示を受けた兵士が2人、俺に向かって歩いてくる。

 そしてなんの躊躇もなく俺に手を伸ばし始めた。


「やめろ!触ると死ぬぞ、本当だ!」


「コーエンどの!彼が言っていることに偽りはない!頼む、手を止めるように言ってくれ!」


 俺たちの言葉で手を止めた兵士たちを見て、コーエンは不快そうな顔をする。


「ゴトー、貴様罪人を庇う気か?さっさとしろ!」


 気圧された2人が俺に触れ... 崩れ落ちた。

 それを見て他の兵達は即座に剣を抜き、俺を取り囲む。

 突然の事態に、コーエンも取り乱しているように見えた。


「どうなっている!ロイ!イーサン!返事をしろ!」


「待ってください、触れなければ害は無いのです!どうかそのまま移送を!彼に反抗の意思はありません!」


 当然コーエンの耳にその言葉は届かない。部下を失った怒りを胸に、ジリジリと俺との距離を詰めてくる...


「コーエン様〜 法廷からですぅ」


 扉から人が飛び出した。見るとまだ幼さが残る顔付だ。バッグから黄色の蝋で封をされたスクロールをコーエンに渡して一礼すると、すぐ門内へと戻って行った。

 スクロールに目を通したコーエンは横目で俺を睨むと、剣を収めた。それを見た他の兵士達もそれぞれ剣を収めていく。


「ゴトー殿、移送ご苦労であった。これより先は我らが引き継ぐ。滞在許可が降りている、暫く休んでいくと良い。それと...」


 地に伏した2人の兵士に目をやると、察した顔でゴトーは頷いた。


「...... ジェド 付いて来い。妙な真似はするなよ」


 倍に増えた兵士達に囲まれながら、俺はロージェに足を踏み入れた。


 .........

 ......

 ...


 賑わう夜の街を抜け、俺は教会の裏にある石造りの建物に入れられた。地下に続く階段の先にあったのは地下牢だった。収監されている人達は皆、俺に目を合わせようとしない。

 そして囚人の多くには、動物に似た耳や鱗を持っていた。


「明日の昼に罪の審議が行われる。それまではここで待機して貰う」


 他の何も無い牢よりも、俺が入れられた部屋はマシな場所であった。薄い毛布と、用を足すバケツも用意されていた。


「分かりました。... あと2人のこと、すみませんでした」


「... あれは私の判断ミスだ。君の忠告を無視した私に非がある」


 そう言うと、靴を鳴らしてコーエン達は牢を出て行った。する事がない俺は取り敢えず牢の壁に背中を預け、カビ臭い掛け布団に座った。


 ーーコツ コツ コツーー


 コーエン達が居なくなって暫くすると、今度はヒールに似た足音が近付いてきた。

 俺の牢の前で足を止めたのは、修道女に似た服装の女性であった。


「貴方がジェド、ですね?」


 柔らかな声が、静かな牢の中で響く。俺が頷くのを見て、女は目を細めて笑みを浮かべる。


「『お願い』が有って参りました... 明日の裁判、問い掛けに対して全て『はい』と答えて頂けますか?」


 端麗な顔付きの修道女が俺に微笑みかけている。しかし俺の顔はますます強張る一方だ。

 止めどない悪意を叩きつけられている様だ。人間が、これ程を悪意を放つことができるだろうか。


「貴方には感謝しているのですよ?貴方は民の求める『仔羊』になるのです」


 仔羊?こいつ、何を言っているんだ?それよりもこいつ、本当に人間か?


「『はい』ですよ? 良いですね? ウフフ...」


 俺の答えも聞かないまま、女は踵を返して、歩き去って行った。


「何なんだ...?」


「『お願い』を聞いちまったな。ククク...」


 向かえ側の牢からの嗄れた声に反応して、俺は頭を上げる。


「そこの君、あの女を知ってるのか?彼女は誰なんだ?!」


 思わず語調を強くしてしまう。


「審議の間に立ってみれば分かるよ... きっと分かる」


 ククク と気味の悪い笑い声を発する男に不快感を抱く。

 それから何を聞いても、男はただ不気味に笑うだけであった。しかし男の言葉を、俺はどうしても狂人の妄言とは思えなかった。


 .........

 ......

 ...


「これより罪の審議を開始する」


 ホールの中央に立たされた俺に、無数の視線が集まる。

 俺の罪状などが書かれたであろうスクロールを開き、初老の裁判長(?)が口を開く。


「罪人よ 名はジェドであるな?」


「はい」


「ではジェドよ、お前はクアルコのヨハンを殺害した罪を認めるか?」


 俺の横に座っていたマタギ風の男のことだ。


「...はい」


 観衆達がざわめき始める。


「ブラムトの使節 バータムを殺害した罪を認めるか?」


 俺に斬りかかってきた男だ。


「はい」


「ブラムト第三王女 メルダを殺害した罪を認めるか?」


 ホールの騒めきが一気に大きくなる。


「はい」


 騒めきに混ざってバッシングも僅かに聞こえてくる。


「ごほん、静粛に」


 騒めきが少し落ち着くが、その代わりに周囲からの視線が余計痛く感じる。


「続けよう。 ジェドよ、お前が犯した殺人は故意によるものか?」


 勿論、そんな訳はない。そもそも俺から他人を触ろうとしたことすらない。


「はい」


 ....... え?

 今俺、なんて言った?

 ホール内が一気に騒めき出す。


「では、お前はアズマからの刺客なのか?」


 そんな訳はない、俺はそんな国知らない!


「はい」


 急に牢の出来事を思い出す。あの女、俺に何か暗示をかけたのか?!


「では全ての罪を認め、相応の罰を受け入れるのだな?」


 だめだ、口を閉じろ!これ以上はマズイ!

 この裁判、完全に仕組まれている!


「はい」


 口を塞ごうとしても、指先が動かない。

 ホール内の空気は沸騰し、全方位から悪意に満ちた言葉を浴びせられる。違う、と弁明しようにも、俺の声は罵声にかき消される。


「では、罪状を言い渡す.......」


 頭の中が真っ白だ。裁判長の声も、罵声も遠く聞こえる。


 焦点が合わない目で客席を眺めていると、あの女が目に映った。


 彼女は笑っていた。牢の中で俺に向けたのと同じ笑顔で......


狂者タイム


やっべぇwww 大人しく捕まっちゃったよ社畜くんwww

もう何コレwww 全然チートしてないじゃんwwwwww


次回 ジェドくんこの世界の人間に愛想を尽かす!


ps:ジェドって名前はP.ARMY リスペクトだよ

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