プロローグ 1話
前書き=賢者タイム
初投稿です。
本作は戦略や集団戦をメインに置いています。主人公無双はあまり期待しないで下さい。
鬱、グロ等ネガティブな要素多目、ほのぼの展開少なめです。
最低3日1投稿、1投稿4000字のペースで投下していく予定です。
プロローグの展開を飛ばしてもほぼ支障はありません。
5話の冒頭にプロローグの簡潔なまとめを入れていますので、忙しい方は是非そちらから読んでみてください。
追記:間違えました 最低3年1投稿 1投稿4000字(行けば奇跡)のペースで投下していく予定です。
「俺に触れると... 不可視の業炎に焼かれて死ぬぜ?」
中学の時によく口走っていたセリフだ。今思えばあの頃の俺は重度の中二病だった。
そのお陰で友達は一切できなかったし、軽いイジメも受けた。
「お、おい!人が倒れてるぞ!」
白目を剥いて倒れている王女を見下ろす俺の横で、誰かが叫んだ。
「あんた!この子に何かしたのか?おい、聞いてるのか!」
横からマタギ風の男が、俺の肩を掴んでくる。
ーーどさっーー
そして王女と同じく、兆候もなく男の全身から力が抜け、地面に倒れこむ。
「キャーッ!!」
異変に気付いた周囲の人達が、俺から離れていく。その目にあるは、不可解な出来事と俺に対する恐怖だった。
「衛兵を呼べ!こいつ何かおかしいぞ!」
どうしてこうなった。俺が何をしたっていうんだ。
俺は思い返す。ここまでの事の経緯を。
.........
......
...
あれはゴールデンウィーク初日のこと。いつも通りの出勤、サービス残業。バッグを片手に、薄暗い駅を出る。
いつもの蕎麦屋に入ろうとするが、案の定休みになっている。
仕方なく牛丼屋で夕食を済ませ、重い足取りで家路につく。
「...?」
道の先にある、街灯に照らされた自販機の前に、空き缶が立てられている。
誰かの悪戯だろう。そう思いながら横を通り過ぎようとすると、ふと懐かしい記憶が蘇った。
「ガキの頃... よく缶蹴りしてたな」
最後にやったのは、中学の時だったかな...
幼馴染と3人で、今じゃあアパートになってしまった小さな空き地で...
空を見上げる。光汚染で殆ど星の見えない都会の空、それでも微かに見える名も知らない星は綺麗だった。
缶の前で立ち止まる。思えばあいつらとももう10年は連絡を取っていない。
時々向こうから会う誘いが来るが、見て見ぬ振りをしていた。
ブラック勤めで、独身で、少し腹が出たくらいしか変化のない自分を、あいつらに見せたくなかった。
「クソッ」
ーーパカァンーー
歯を噛み締めながら、思い切り缶を蹴り飛ばす。安物の革靴に缶の残り汁が飛び散った。思わず舌打ちをする。
予想以上に長く宙を舞い、缶が着地する。
ーーパリィィィン!ーー
ガラスが割れる様な鋭い音が着地点から聞こえてくる。
思わず頭を上げる俺の目の前に映ったのはアスファルトの地面ではなく....... 鬱蒼と茂る木々であった。
「......へ?」
後ずさりながら辺りを見渡す。木、木、木。何があった。ここは何処だ。当然納得のいく答えは見つからない。
ーーゴツッーー
「って」
後ずさる背中が、背後の木に当たった様だ。
ーーガササッ ベチャッ!ーー
葉っぱと共に、頭上から何か湿ったものが突然降り注いた。
「ごっ!ごぼぼ!!」
粘着質なソレに顔を覆われ、息ができなくなる。手で取ろうとしても、ゲル状のソレを掴むことは出来ない。
「ぐ、ゔゔっ!」
ーーズルッーー
唐突に、ソレはずちゃりと不愉快な音を立てて頭からずり落ちた。
「ぶっはぁっ! はぁっ! げほっ おぇ...」
両膝を着いて喘ぐように呼吸しながら、気管支に入ったソレの一部を吐き出す。青臭くてネチョネチョした嫌な感触が顔と口内に残る。
「はぁ... はぁ... ふぅぅ...」
袖で粘液まみれの顔を拭い、地べたに這い蹲るソレを見下ろす。
葉っぱに似た緑色の... ゼリー状のもの。単細胞生物のアメーバを巨大化させたようなものだ。
形を崩しながら溶けていくソレは、ただ偶然木に引っかかっていた何かなのか、それともゲームやライトノベルでよく登場する『スライム』なのだろうか。
「うっ」
木々を見上げると、枝の間に、葉の色と同化した『スライム』達が何十体と隠れていることが分かる。
ここが何処なのかはともかく、早く離れなければマズい。そう思って立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
「うぁ... あ... 」
手足が痺れる。先程飲み込んでしまった『スライム』はなんらかの毒を持っていたようだ。
ーーズシャッーー
湿った土に倒れ込んでいく。ひんやりした土の感触が妙に心地良い。
「あぁ... ぁ... 」
意識が遠のく。俺は 死ぬのか。缶蹴ったら森に飛ばされて... 粘液まみれで死ぬのか...。
.........
......
...
意識が戻った。木々の間に射し込む木漏れ日が眩しい。
まだ僅かに痺れが残っているが、力を入れると体は動いてくれた。
ーーググッ ベチャァーー
起き上がろうと背中を傾けた途端、大量の粘液が背中からずり落ちる音がする。
上半身を起こすと、自分が小さな粘液の水溜りの中に居ることを気付く。
頭上に居た『スライム』達が、俺に覆いかぶさるように形を崩れている。
「うわぁ...」
立ち上がってみると、『スライム』の汁を吸い込んだ服が異様に重く感じる。
兎に角、ここから出なければ。『スライム』対策で、ジャケットを頭に被せて、俺は森を当ても無くさまよった。
どれだけ気を失っていたかは知らないが、ある程度疲労は取れている。
ーーカラン カラランーー
「ふぅん ふんふんふぅ〜ん」
小さな鼻歌と規則正しい金属音が近くから聞こえてくる。警戒しながら、俺は静かに音に発生源を追った。
極力音を立てずに、暫くその音を追い続けると、俺は一本の小道に出た。道と言っても舗装された訳ではない獣道である。
「うぉ!! なんだあんた、追い剥ぎか?!」
どうやら声の主が先にこちらを見つけたようだ。一瞬何を言っているか分からなかったが、訛りの入った英語のように聞こえる。
「待て!ノー!アイム ノット バッドパーソン!(怪しいものじゃない!)」
怪訝そうに俺を見つめると、大きな鞄を背負った男はゆっくりと短剣を腰に収めた。
「あんた... それ、ウッドスライムにやられたのか?」
ウッドスライム、俺を襲った粘液の名前なのだろうか。男の口ぶりからして、大して珍しいことではなさそうだ。
「イエス、イット ドロップ オン マイ ヘッド。(ああ、頭に降ってきた。)」
気の毒そうに俺を見る男だが、やはり一向にこちらに近づこうとしない。
折角現地人に出会ったんだ。どうにかして近くの人里まで案内欲しい。
「ユー ゴーイング トゥ タウン?(町に行くのか?)」
英語圏に留学した経験のお陰でリスニングは完璧だが、いざって時にこんなカタコトの英語しか口から出ない自分が恥ずかしい。
「町? 俺が目指してる村なら日が暮れる前に着くぞ。 ......付いてくるか?」
「イエス!サンキュー!プリーズ!(ああ!助かるよ!お願いします!)」
もうこうなったら伝われば良い。
「そうか、でもあまり近付くなよ?臭いが移る」
スライムの臭いのことだろうが、全身に付着しているせいで鼻がバカになっている自分には分からない。
「オーケー...」
フン、と鼻を鳴らすと、男は歩き出した。俺も彼の後ろに付いて、とボトボトと歩き出す。
「あんた、アズマから来たのか?この辺りじゃ中々見かけない顔付だな」
男は白人だが、アズマって場所に黄色人種が多いのだろうか。
「......」
流石に違う世界から来たかもしれない。とは言えなかった。暫く黙っていると、男は何かを察したように前に向き直った。
「ま、良いさ。詮索は趣味じゃないんでね」
.........
......
...
それから俺たちは時々会話しながら、森の中を歩き続けた。吹き抜ける風は爽やかで、木漏れ日は優しく暖かかった。
男の名前はセオードで、町を渡り歩きながら品物を売る行商人だそうだ。
「お、見えてきたぞ。漁村のクアルコだ」
小高い丘を超えると、夕日に照らされた入江に沿って並ぶ地中海風の建物は、何故か幻想的に見えた。
「イッツ ビューティフル...(きれいだ...)」
「だろ?親父の故郷なんだ。パルフィッシュが特にうまいんだよ」
雑談しながら村に入り口近くに着くと、セオードは重たそうな鞄を下ろし、大きく背伸びした。
「んじゃ、俺は飯でも食って宿を探すが、あんたはどうするんだ?」
正直この身なりじゃあ村に入りづらい。せめて服くらいは着替えたい。
「...キャン アイ セール ディス?(これ 売れるか?)」
カバンからノートパソコンを取り出し、電源を入れる。
「何だこれは?!この鮮やかな光は!」
適当に画像などを表示させたりして、セオードの興味を引く。
「ディス イズ コンピュータ。ユー ワント ディス?(パソコンって言うんだ、欲しいか?)」
ダウンロードした動画に見入るセオードはキーボードを叩いたりしている。この不思議な機械にかなり興味を持った様だ。
「...... 100Bでどうだ?」
『ベイン』がこの世界(国?)の通貨単位のようだ。
「1000B」
確実に買い叩こうとして居るだろうが、まずは様子見だ。
「500Bでどうだ?」
反応が薄い、もっとふっかけて問題なさそうだ。
「2000B」
これでもセオードは顔色ひとつ変えないが、商人をしているならば顔に出ないのは当たり前だろう。
「1000Bで買おう」
もう一押しは行けそうだ。
「1500B」
軽く頷くと、セオードは財布のひもを解き始める。
「分かった... 1500Bで買おう」
かなり買い叩かれているだろうが、背に腹はかえられない。少なくとも宿代くらいにはなるだろう。
銀色のコインを15枚俺の手に載せるとセオードはパソコンを大事に布で包み、鞄に仕舞う。
「さて、お客さん。何か買いたいものはありますかな?」
金を手にした瞬間、俺に対するセオードの態度が変わった。
粘液まみれの不審者を見る顔から、大事なお客さんに向ける笑顔へと変わっていった。人の顔ってこんな鮮やかに変わるんだな......
「エニー レコメンド?(何かオススメは?)」
「そうですな... ちとお待ちください」
笑顔を崩さずに、鞄から折り畳まれた紺色の服と、皮製だが履きやすそう靴を取り出す。
「まずは服と靴ですかね。お客さんの... そのスライムを付けたままですと周りへの刺激が少々強いかと」
「...... ハウマッチ?(お幾ら?)」
「靴と合わせて500Bになります。最低価格です」
こいつ、最初からこれを売りつけて1000Bで済まそうとしてるな。
かと言って買わない訳にもいかない。実際今でも全身がヌメヌメしていてお世辞にも快適な状況とは言いがたい。
「ハー... オーケー」
「お買い上げありがとうございまぁす!」
金を受け取ると、セオードは鞄を背負い、そそくさと村に入っていった。
彼はボロい商売をしたと思っているだろうが、あのパソコンの電池が切れるのも時間の問題だ。どれだけ買い叩かれても、騙したのはお互い様って所だ。
村の近くにある小川でスーツを一通り洗い、先程購入した服一式を身につける。
紺色で統一された上着は通気性が良く、ズボンは動きやすさを重視した緩めの長袖になっている。
靴に関して特筆すべき点はないが、革製品とは思えないくらいに柔らかく弾性があり、すぐ足に馴染んだ。
「さてと...」
海へと沈みゆく夕日を眺めながら、カバンにスーツを無理矢理詰め込み、俺はちらほら灯りを燈す漁村へと向かった。
.........
......
...
海沿いの道を歩きながら、宿と食事ができる所を探す。ひんやりした夜風と淡い潮の香り。海なんて何年ぶりだろうか。
埠頭から網を担いだ男がこちらに向かって歩いてくるのが見える。
「エクスキューズ ミー(すみません)」
がっちりした男がこちらに気付くと、潮焼けした顔を近付けてくる。
「あ?見かけねぇ顔だな、旅人か?宿ならそこの階段を上がって突き当たりの所だ。今日は混んでると思うがな」
訊かれてもいないのに答えるを見ると、そこそこ旅の者が訪れる場所のようだ。
「クラウテッド?(混んでる?)」
無精髭を弄りながら、男は藻類が絡み付いた網を肩に担いだ。
「あぁ、隣国の使節団が到着したようでな。まあ、満室って訳では無いと思うが... 取り敢えず行ってみなよ」
「オーケー サンキュー」
男に言われた通りに、石で舗装された段差を上がっていく。夕日が海に消えていくと同時に、長く伸びていた自分の影が薄れていく。
「はぁ... はぁ... ここか」
数百何の段差を登り切り、やっと宿らしきものを見つける。
岸壁を削って作られた様な風情ある宿の前に立つと、扉の隙間から賑やかな談笑の声と、食欲をそそる海産物の香りが漂ってくる。
ーーカタンーー
「いらっしゃーい!泊まっていきます?」
両手で料理を運びながら、女将らしき人物が俺に声をかける。甘酸っぱいトマトと芳ばしいガーリックの香りでどんどん空腹感が増す。
「イエス、イズ ダイニング フル?(はい、食堂は一杯ですか?)」
「カウンターなら空いてるわよ、さ 入って入って。夕食付いて一泊100Bよ」
料理を置いて俺に向かって手をかざす所を見ると、先払いの様だ。
銀貨を受け取ると、女将はこちらにどうぞ、と言いながら俺をカウンターの隅に座らせると、水を置いて去っていった。
品書きがないのを見ると、出される料理は決まっている様だが、今の俺にとってはそれが一番だ。分からない料理を選ぶ手間が省けるというものだ。
「そうだ!この運河が開通すれば遂に我が国にも遂に水路による運搬が可能になる!此度の交渉、何としても成功させねばなるまい!」
背後で誰かが熱弁している様だ。異世界なら怪物の討伐とかじゃ無いのか、と思いつつ、声の方に耳を傾ける。
「ははは!ハモンド殿の話術に掛かれば商会の連中もイチコロですぞ!......それにしても」
「あぁ... 我が国の利益のためとは言い、王女を地方の商人に嫁がせるなど...」
チラッと後ろを見ると、窓際で退屈そうにしている女性に気付く。
わかりやすい言葉で形容するとしたら、身体的な美を敷き詰めた様なアラビア系の踊り子。清純と言うよりは、妖艶と形容した方が良い女性で、正直苦手なタイプだ。
「はぁいお待たせ、すぐパンとスープ持ってくるね!」
置かれた大皿の中のトマト煮を頬張りながら、男達の話に意識を集中させる。
「ところでセオード様はまだ見つからんか?あの方の放浪癖はいつ治るのやら...」
国交を担う者達に敬語で呼ばれるとは... 俺が思っているより、セオードは凄い人物何だろうか。
「ねぇ」
耳のすぐ横で声がする。驚いて声の方に振り向くと、王女の唇が、鼻の先に着きそうなほど近づいていた。
「さっき私のこと見てたでしょ?」
咄嗟に目を逸らすが、視界の端で微笑む彼女はジリジリと顔を近づけて来る。
口の中身を無理矢理呑み込もうと、咀嚼の速度を上げる。
「今夜、暇?」
王女の細い指が、ゆっくりと俺ののど筋を撫でる。
「ぁ...」
ーーガタンーー
唐突に、何の予兆も無く、王女は糸を切られた人形のように崩れ落ちた。
「え... は?」
女は、呼吸しているようには見えなかった。俺がやったのか?彼女が何をした?貧血?心筋梗塞?脳溢血?救急車は?
訳が分からなかった。色んな事を考え過ぎて、オーバーヒートした脳が、逆に冷静になってきた。
考えることを二つに絞り込む。
俺が何をしたか、原因は俺にあるのか。
.........
......
...
「衛兵を呼べ!こいつ何かおかしいぞ!」
運んでいる皿を放り出して、青ざめた女将が宿を飛び出していく。
「動くなよ!?貴様メルダ様に何をした!」
食堂の隅に居る俺を囲い込む様に、男達がナイフやフォークを構えている。中には武器を抜き、俺に向けて構える奴まで居る。
「答えぬか!何が目的だ!まさかサバタスの刺客...!?」
遂に脳は答えを割り出した。
冷や汗が背筋を伝っていく。
フル回転した脳から、フレーズが続々と浮かんでくる。留学時代の言語感覚を完全に取り戻した様だ。
唾を飲み込み、俺を囲う男達に目を合わせる。
これ脅迫でも、虚勢でも無い...
これは警告だ...
逆らえば恐らくお前達はその現実に直面する事になる......
「俺に触るなぁっ!!死ぬぞ!!」
後書き=狂者タイム
読んでくれてあああありがとぅ
君に一言言っておきたい事がある
まそっぷ