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62 地図

「そうと決まれば、早速先に進みましょうか」

「え? でも、まだ地図を描き写せてないんですけど……」

「私達が一緒に行くのだから、必要ないでしょう?」

「あ、そっか……」

 あたしは紙を片付けて、出立の準備をする。と言っても、背負子を背負うだけだ。

「でも、2階になんて、秘密にできる隠し部屋がよく見つかりましたね?」

「それはフォリントスのお陰ね」

「フォリントスさんの?」

 意味が判らなくて首を傾げた。

「フォリントスが探査魔法で見つけたのよ。壁の中や地面の中を探査できるのは、私の知る限りではフォリントスだけよ」

「それは凄い!」

「それと、ここが行き止まりで二重底みたいになっているのも大きいわね。殆ど誰も見向きもしないみたいだから」

 広さは精々6畳間程度でしかない小さな部屋だ。

「じゃあ、ここを始めて見つけたのが皆さん?」

「そうでもないわ。ここを見つけた時、死体が有ったから」

「死体!?」

「『死体』じゃ語弊があるだろ。有ったのは、着けていただろう装備と小さな魔石だけだ」

 レクバさんが補足してくれた。

 だけど魔石とは、いよいよ意味が判らない。

「魔石? 人なのに?」

「その時まで私達も知らなかったのだけどね。魔力の強い人が死んだら魔石を残すことが有るそうなの」

「ほんとに!?」

「ええ。その人の遺品の手記に書いていた事なのだけど、『魔法士が死ぬと大きな魔石を残す』って流言が蔓延して魔法士が狩られる事件が相次いだことが有ったらしいの。そして、その人も命を狙われてここに逃げ込んだのですって」

「そんなことが……」

「それで、その人の遺品を調べてみたら服から落ちたのよ。とっても小さな魔石がね。米粒ほども無かったわ」

「そんな小さな魔石のために人を殺すなんて……」

 誰が何のために流したのかを知ることはできないけど、とんでもない流言だ。

「酷い時代も有ったものよね」

「だけど、人にも魔石が出来るなんて始めて知りました」

「それ自体は不思議ではないわよ?」

「そうなんですか?」

「兎や熊みたいな動物も、虫も、植物だって魔物になることがあるのだから、人が魔物になることも有るでしょうね」

「そう言われれば……」

「だけど、完全に魔物になったらのなら、人の姿を保つのは難しい筈よ」

 そう言えば、兎や熊も巨大化していた。もしかして人も巨大化してしまう?

「オーガみたいな巨人の魔物は、人が魔物化した成れの果てとも言われるわね」

「なるほど」

「まあ、オーガは生殖できるから、今となっては本当に人の成れの果てかどうかは判らないけどね」

「えーっ」

 真剣に聞いていたのに、最後にすかされた気分だ。

「くすっ。人が完全な魔物になったらどうなるかまでは判らないけれど、それ以外は本当のことだから安心してね」

「判りました」

「そろそろ出発するぞ」

「あ、はい」

 話が長くなってしまって、レクバさんが焦れていたようだ。

 準備が完了すると直ぐに隠し部屋を出る。警戒しながら出るのかと思ったら、彼らは周囲の状況に全く頓着しなかった。

「あれ? 周りを確認とかしなくて良かったんですか?」

「攻略できてもできなくても、ここに戻ってくることはもう無いからな」

「でも、食料が足りなくなった場合とかは?」

「そこまで時間は掛からないさ」

「地図が無い階で時間が掛かりませんか?」

「地図は直ぐ描ける」

「私の探索魔法を使えば簡単よ」

「はいっ?」

 身体も使って首を90度傾けた。

「私が風魔法を使って通路の探索を、フォリントスが土魔法を使って隠し部屋の探索をするのよ」

「役割分担が有るんですね」

「そ。だから問題ないわ」

「こうなると判っていたら、こんなに食料を持って来ることも無かったのに……。ままなりませんね」

「やけに大きな荷物だと思ったけど、食料だったのね」

「はい。米とか干し肉とか」

「米って貴女、水や火はどうするの?」

「普通に魔法?」

 4人は目を丸くした。

「そんなことをしたら、魔力が直ぐに無くなるじゃない」

「あー、あたしはそんな経験無いんですよね。お店の商品を作る時に魔法を使ってたけど、魔力が減った感じはしまませんから」

「嘘でしょ!? あ、でも、それなら納得もできるわね……」

 ミクーナさんは何やら考え込んだ。


「こうしてみんなで歩いていると、ピクニックをしているようで少し楽しいです」

「こんな薄暗い迷宮でか?」

「はい。もう何年も、誰かと一緒に出掛けるなんてこと有りませんでしたから」

 最後は高校生の時だったかな? もう忘れてしまうくらい昔だ。

「毎日の生活で忙しくしている間なら、そんなこと思い出しもしないんですけどね」

「忙しければどうしてもな」

「だけどこうして生活が壊れてしまったら、思い出したくないことばかり思い出してしまいます」

「まだやり直しは利くんじゃないのか?」

 首を横に振った。

「直ぐには無理です。クーロンスでお店を開いて直ぐの頃はほんとに辛かった。お客さんが全く来ない日が続いて、お客さんがたった1人だけの日が続いて……。それで薩摩揚げとチーカマを売るようにして、それで漸くお店が繁盛しそうになった頃にその希望が壊れて。お店を開いてから10ヶ月を過ぎた頃でした。それでこの町に来て、今度はお店を開いて2ヶ月を過ぎた今日、また壊れて。もしまたお店を開いたとして、今度は一体何日で壊れるのかな? 1週間? それとも1日?」

 ほんとはまたお店を開きたい。だけど、砂で作ったお城が波に掠われるように壊れてしまう気がする。こんな気分のままで開いても、上手く行くとは思えないんだ。

「何でこうなっちゃうんだよぉぉぉ!」

 あたしの叫びが迷宮に木霊した。そしてそれから暫くの間、迷宮に響くのは5人の足音だけだった。


「すみません。お見苦しいところを見せてしまって」

「いや、構わんさ」

 それからまた暫くの間、迷宮に響くのは5人の足音だけになった。

「ところで、もう外は夜の筈ですけど、今日は何処まで進みます?」

「明日になると追っ手が掛かるかも知れないから、夜を徹しても進める所まで進みたいな」

「じゃあ、少し急ぎたい感じですね」

「そうだな」

「皆さんはどのくらいの速さで進めますか? 例えば、30階まで何時間で行けるか、とか」

「時間? ミクーナの魔法を使えば30階までだったら3時間くらいだが……」

「それなら、それでお願いできますか? あたしは後ろから付いて行きますので」

「大丈夫なのか?」

「勿論です」

「判った。もしはぐれたら、うろうろせずにじっとしていてくれ」

「はい」

「それでいいな? ミクーナ」

「いいわよ」

 ミクーナさんが4人に風魔法を掛けた後であたしにも掛けようとしたけど、それは遠慮した。

 そして、レクバさん達4人が走り出すのに合わせてあたしも走り出す。


「はあ、はあ、はあ……。息一つ乱さないなんて、代理人さんはやるわね」

「あはは……」

 走り出してから3時間ほどが経って、29階の隠し部屋でミクーナさんは荒い息を吐いていた。

 あたしは余裕過ぎて申し訳ない感じ。

「この隠し部屋も2階のと同様に安全地帯になっているから、眠っても大丈夫だ」

 そう言いながら、きっと男性3人で交替の番をするのだと思う。彼らがそうする必要は無いのだけど、ここはお言葉に甘える形にしておこう。


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