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現世への帰路

泉はエクサと話を続けていた。

「お前は、岬本人よりも未練が強いんだなぁ」

「うん…」

エクサに踏まれ、岬の影は苦しんでいる。

「岬本人はあんまり未練無かったぜ?」

「あの…、離してくれませんか?」

エクサは首を振った。

「駄目だ、これは泉を、そして岬を苦しめてるものなんだ」

「岬は現に今この場で苦しんでいるではないですか?!」

エクサは分かりやすくため息をついて、諭すようにこう話しだした。

「今の泉の気持ちで岬を苦しめているっていうなら、泉はどう思うか?」

「えっ…?」

泉は今までそんな事を考えていなかった。



「岬ちゃんの魂は、私が送り出したんです」

真莉奈は両親の前でそう明かした。

「私が説明して、連れて行ったので何とか地縛霊化は免れたんですがね…、岬ちゃんよりも泉ちゃんの方がよっぽど応えたようで…」

「そうだったのでしたか…」

「あの、泉ちゃんってそんなに岬ちゃんの事が好きなのでしたか?」

二人は顔を見合わせてこう答えた。

「はい、泉は何よりも、誰よりも岬の事を大事に思っていました…」

「そんなにですか…」 

真莉奈は考え込んだ。

「泉ちゃんのこれからの為には何としてでも現世に戻らないといけない、だけど…、こればっかりは死神である私にも手出しは出来ない。自分の力で戻って来ないと…」



昴とグルーチョは激戦の最中だった。

「華玄…、大罪人である汝が生きてる人間を庇うなんてな、序にあいつの魂も奪ってやろう」

グルーチョは冥界の扉を塞ぐと、昴に向かって全方向に鏃を飛ばした。

「くっ…『冥土の流星群』!」

昴は流星群を繰り出して鏃を燃やし、一気に近づいた。

「汝ごときの力で我に敵うものか」

グルーチョは昴から離れると、泉に向かって攻撃を放った。

「『紫炎の弾幕』!」

昴は先回りをして攻撃を受けると、グルーチョに向かって火を繰り出した。 

「『火神円舞』!」

泉はようやく前に向かおうとした。エクサは必死にもがこうとする岬の影を引き止めている。

「泉!影は俺が引き止めている。お前はちゃんと生きろ!」

「あっ…」

「お前が岬を大切にしていたように、お前を大切にしてくれる人はきっと居る!だから…、その人を大切に守って生きていくんだ!それが、きっと岬にも届くはずだ、岬だってこんな事は望んでないはずなんだ、だから…、行くんだ!」

泉は岬の影から離れて走り出したが、現世へ繋がる扉は開かない。

「華玄と一緒にお前の生きてる魂も奪ってやる!」

だが、グルーチョの猛攻撃は直ぐ様昴に跳ね返されてしまった。

「お前の好きにはさせねぇよ」

「くっ…、華玄の分際で!エクサ!何故裏切った?」

「裏切るも何も、俺は冥王様の仰せのままにするだけさ」

「華玄が冥王の名を名乗るとは…!資格もないのにそのような真似をするな!」

「資格はあるよ」

昴は赤色の水晶を取り出した。

「冥水晶…!何処から奪った?!」

「奪ったんじゃない、造ったんだよ、これが俺の力だよ、冥水晶…この力を放て、『神化』!」

何処かからガラスが割れるような音がしたと思うと、昴の衣装は赤地のものに変わり、装飾も増えていた。

「冥府神帝•昴…、ここに降臨!」

「くっ…、華玄…まだ戦う力が残ってるのか」

「『日輪円舞』!」

昴は鎌をグルーチョに向かって振り上げた。

「だがそれも月輪様や日輪皇子から奪った力、華玄の力でなど決してない!」

「それはどうかな?」

昴は空中に投げると、形状が変わり、より豪華なものへと変わった。

「俺は華玄でも月輪でもない、風見昴だ。俺は俺自身の力で強くなっていく!」

昴は鎌を手に持つと、もう一度振り上げた。 

「冥府神鎌•六連(むつら)、これがその鎌の名前だよ」 

「まさか新たな鎌を創り上げたというのか?!『追尾鏃』!」 

グルーチョは更に攻撃を繰り出していく。

「泉!お前は行け!」

「でも、扉が…!」

その時だった。泉が持っている霊水晶が光だし、空間が歪んだ。

「そこを通れば戻れる、お前は色んな人の力を借りてきた。だが、最後に決めるのは、その一歩を踏み出すのは自分の力なんだ、それだけは誰にも変われない!」

「昴さん!」 

「……言ったろ?俺は負けねぇって」

昴の鎌はグルーチョを突き抜けた。

泉はそれに背中を向け、涙を流しながら歪みの中に駆け込んだ。泉と一緒に歪みは消えてしまった。

「己…、人間を逃したか!」

「俺はお前と違うんだよ!」

昴の目は黄金の光りを放つ。

「『日月双輪舞』!!」

グルーチョはその衝撃に耐えきれず、そのまま消滅していった。

「これで冥府神霊との戦いは終わったか…」

昴はエクサの方を見た。

「昴様!やりましたね!」

「エクサ、岬の影は?」

エクサはいつの間にか本来の影の怪の姿になっている。

「泉と一緒に消えたようです」

「そうか…」

昴は冥界の扉を見た。グルーチョを倒した時に封印は解かれている。

「泉、ちゃんと帰ったのかな」

昴はエクサと一緒に王宮へと戻って行った。



泉が目を開けると、病室のベッドに横たわっていた。

「泉!やっと目を覚ましたのね!」

泉の両親は、それに気づくと泣きながら喜んだ。

「でも、岬は…」

「あなたが生きてるだけで嬉しいわ」

「そっか…」

泉は、さっきまでの出来事と今の事の差がありすぎて、あの冥界に居た事はひょっとして夢なのだろうかと思い始めた。

「心配かけて、ごめんなさい…、私、岬が心配過ぎて変な夢の中に居たの…」

「夢じゃないよ」

二人の間にひょっこりと真莉奈が現れた。

「真莉奈さん!」 

「そういえば岬ちゃんを送り届けた時、岬ちゃんも泉ちゃんを心配してたな…、一人で大丈夫なのかなって」

「えっ…?」

真莉奈は泉の頭に手を乗せた。

「でも、今のあなただったら大丈夫そうだね」

「そうですか…」

泉は真莉奈を見つめた。

「死神ってもっとおどろおどろしいものだと思ってました」

「まぁ、人によるかもね、私はずっとこれだけどね」

真莉奈は三人に向かってお辞儀をした。

「あの、本当にありがとうございました!」

「私は仕事を果たしただけだよ、それじゃあまたね」

真莉奈はそう言って窓から帰って行った。

「私はこれからも生きていくんだ、誰かの為に、自分の為に、岬の分まで、岬が居ない世界で…。」

青空が異様な程に眩しかった。



智はウォルと話していた。

「へぇ…、真莉奈はあんだけ強いのにずっと実務担当なんだな」

「まぁ…、真莉奈もそれをのぞんでるしな…」

ウォルは不思議そうに思っていると、智の方を向いた。

「なぁ、ずっと考えてた事があるんだけどさ」

ウォルは何を思ったのか、智の口を覗き込んだ。

「…何?」

「お前、犬歯というか牙が鋭いよな?」

「茂さん程じゃないけどな…」

するとウォルは、智の耳元でこう囁いた。

「お前…、人の血吸ってただろう?」

「えっ…」

智は困惑の余りこの事を誤魔化しきれなかった。

「死神の中にはたまに人の何かを奪う事が出来る奴が居るんだよなぁ、その為だけに人に近づくのは禁止されてるけど。人間の中にはそのイメージが強い奴も居るらしいぜ」

「へぇ…、そうだったんだ」

「俺は魂のエネルギーを吸収する事が出来るんだ。魂を奪うだけなら他の死神でも出来るがな」 

「それでたまに魂喰ってたんだ…」

「魂そのものじゃなくて、その中のエネルギーだけどな。それを吸収する事で自分の霊力に出来るんだ」

「へぇ…」

智は妙に納得していた。

「で、それと同じように智も他人の血を吸う事でその人の霊力を奪えるのさ、お前…、誰の血を吸ったんだよ?」

「えっと…、母さんと…、後、玲奈か…」

「は?!お前人間襲ってたのかよ!」

「ウォルだって玲奈襲おうとしてただろう…?」

「あれは冗談だよ」

智は昔の事を思い出していた。

「そういえば…、昔噛み癖があって…、よく母さんを噛んでたなぁ…もしかしてあれからか?」

「へぇ…、死神は母親の霊力を吸収して産まれるって言うが、まだ吸い足りなかったのかよ」

「俺はどちらかというと父さんの力の方が強いけどな、だから母さんは…、可愛い子は噛みそうになるからやめとけって言ってたんだよ。人格を装っていた時はそうでも無かったのに…、玲奈達と出会って、茂さんに噛まれてから、再発してしまった」 

「そうなのか…、そういや玲奈さんも能力こそ無いが霊力の持ち主だったよな?ただ、真莉奈が産まれてからはなくなったけど」

「もしかして…、俺が吸血した時、玲奈は苦しんでるんじゃなくて、むしろ楽そうにしてたんだよ。あの狂気の時といい玲奈は自分の霊力を負担に思ってたんじゃないか?」

ウォルは考えていた。

「そうかもな…、母親の霊力から産まれるっていうなら真莉奈もそうしているはずなんだよなぁ、だから…極論を言えば智や真莉奈の為に玲奈はあれだけの霊力を持って産まれたのかもしれない」

「そっか…」

智は玲奈の事を考えて寂しくなった。

「でもさ、やっぱり玲奈さんは可愛いと思うぜ?か弱いからなんか虐めたくなるし」

「ウォル…、気もちは分かるけど…、玲奈に手を出すなよ?」

「冗談だよ、だけど…、俺達と違って人間の寿命って短いんだよなぁ」

「うん、もうすぐ玲奈は…。分かってるよウォル、俺は玲奈の最期を見届けて送るよ」

「そっか…、まぁ頑張れよ」

智は立ち上がって玲奈が待つ家に帰って行った。



「ただいま〜」

智が家から帰って来ると、玲奈は仕事をしていた。

「お帰り、智さん」

智が青年の姿である一方で、玲奈は年を負いシワも増えていた。

「これが多分遺作になるんだろうな」

玲奈は筆を置くと片付けをし始めた。

「いつ死ぬかは死神である俺でさえも分からないよ」  

「…そっか、」

玲奈の周囲はすっかり片付けられている。

「玲奈は死ぬのは怖くないんだな、梨乃さんだって、勤だってそうだった…、普通人間は死ぬのが怖いとか言うのに…」

「私は…、死に方にもよるけど、死ぬのは全然悪くない事だと思うよ」

「…そっか、」

玲奈は布団の中に入った。

「俺も色んな人の死を見届けて送ってきたけどな、ここまで心構えをしている人は初めてだよ」

「それは智さんだってそうでしょ?」

「えっ…?」

玲奈は智の頬に手を触れた。

「智さんはずっと私の事を送り届けるって言ってたよね?」

「ああ…、そうだよ」

「それじゃあ、今から送ってくれない?」

玲奈の手が智から離れると、そのまま眠るように息を引き取った。そして魂が実体化すると、智の側についた。

「玲奈、行こうか」

智は魂のランタンを取り出すと、夜道を照らし進んで行った。 



智は玲奈とずっと無言で進んで行ったが、ようやく玲奈が口を開いた。

「送る時っていっつも無言なの?」

「ああ、普段は未練とか、後悔は無いのかとか、死んだ時の話を聞く事が多いかな」

「そうなんだ、死神ってそういう事を聞いてくるんだね」

智は玲奈の別れが辛くて、中々顔向けが出来なかった。

「智さん?どうしたの?」

「あっ…」

智は玲奈の方を向いた。

「なんだろう、普段はそんな事全く思わないのに…、なんか辛いな」

すると智は玲奈の頭に手を置いた。

「『無念の想起』」

二人の頭の中で、今までの思い出が走馬灯のように駆け巡った。

「玲奈…、ちゃんと送り届けないとな」

二人は霧の中を進んで行った。

山を超えてしばらく行くと、冥界に入り、三途の川の船着き場に辿り着いた。

「シェイル、後は宜しくな」

シェイルは舟を止めて玲奈に近づいた。

「智さん…、今まで本当にありがとう!」

玲奈は智を抱き締め、泣きながらも笑っていた。

「俺、玲奈と出会えて…本当に良かった!」

智も泣きながら笑っていた。

「それじゃあ、元気でね」

玲奈はシェイルの舟に乗ると、手を振っていた。

「君と同じように、君のお祖父さんやお祖母さんも乗せたものだよ」

「へぇ…、そうだったんですか」

「君達は本当に幸せそうだね、僕は普段訳ありの魂しか乗せてないからね、その人達とは全然違うよ」

「お祖父ちゃんも、お祖母ちゃんも、最期は笑ってたな…」

船は岸に着くと、玲奈はそのまま光の塔へと行ってしまった。

そしてシェイルが智の所に戻ると、智は嗚咽を漏らして泣いていた。

「智、まさか死ぬのが辛いのか?」

「死神だって…、愛する人が亡くなった時くらい泣かせてくれよ…」

智は地面に伏して泣き叫んでいた。

「寂しいんだな…、大丈夫さ、僕だっているからな」

シェイルは智にそっと近づき背中を擦ってやった。

「智、俺だって居るぞ」

ウォルも智の隣に来る。

「シェイル、ウォル…ありがとう」

智は三途の川を見つめていた。

「玲奈…、出会いは最悪だったけど別れは最高だった。玲奈と出会えて、一緒に居れて、本当に幸せだった、ありがとう……」

水面は光り、三途の川には幾つもの舟が行き交っていた。



そしてしばらく経ったある日、王宮には大勢の人が集まっていた。王室には冥府神霊達が一斉に跪き、王座に続く道を作っている。

「ようやくですね、昴様」

昴は赤地に紅い花と蒼い星の模様に金の縁取り入った衣を身に纏い、黄金の冠を被っている。六つの水晶で造られた装飾は輝きを放ち、それが永遠のものであるかのようだった。

昴は群衆に目を向けると声高らかにこう言った。

「さあ、冥界に集いし者たちよ、そして現世や鬼界、神界で生きる者たちよ!時は満ちた、混沌は終わり、冥府を統べる者は再び現れた!」

群衆は一斉に歓声を上げた。

「俺は風見昴、あらゆる物を統べる若く青い星、そして永遠を自らのものとする絶対王であり絶対神だ!」

昴はそう言い放つと王座に座った。

今まで冥王が不在の中、再び玉座は埋まった。そして、冥界の歴史は再び動き始めたのであった。

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