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旅路の途中

泉と昴は冥界のあらゆる所を見て回った。まずは町、それから火山や氷山、霊廟などを見て回った。だが、岬は何処にも居なかった。

「岬…、何処に居るの?」

「もういい加減諦めたらどうか?」

「いや…、」

泉は立ち止まって昴の方を見た。

「何としてでも岬を助け出す!」

昴は怪訝な顔をした。

「お前、自分と妹とどっちが大事なんだ?」

「それは…、」

泉は考えたが、再び歩き出した。

「一緒に落ちたはず…、それなのに、何処なの?」

二人はとうとう地の果ての世界にまで行きついてしまった。

「ここで魂は生まれ変わるんだ」

昴はそう言って、光の塔を指差した。

「魂は生まれ変わるんですね」

泉はそう言いながらも不安がよぎった。

「岬、まさか、生まれ変わったりしてないかな?」

「泉?」

昴は、自分ではなく、妹の方を心配する泉を心配していた。

「人間っていうのは自分を可愛がるはずなんだけどな…、お前は違うのか?」

「私よりも岬の方が可愛いよ」

泉の目には影がかかっていた。

「ご両親はどうなのか?」

「お父さんもお母さんも岬の方を可愛がってる」

「……本当にそうかと思うか?」

「えっ…?」

泉は考えたが、首を振った。

「私なんか可愛げない子だよ」

そう言って泉は再び歩き出したが、昴に止められた。

「お前…、これより先に行ったらお前も生まれ変わってしまうぞ!」

「でも、今だったら間に合いそうな気がするから!」

「間に合うも何も無いんだ!」

泉はなんとか振り解こうとしたが、諦めてしまった。



仕方なく二人は冥界へ戻って来た。

「こんなにも見つからないなんて…」

「冥界で大切な人を取り戻そうっていう話は幾つもあるんだがな、まともな話は聞いた事ないよ」

すると二人の背後に二つの怪の影が現れた。

「華玄と生きた子供が一緒に居るとはな!」 

「ハーポ、それとヨッタ…、この二人が同時に現れるなんてタイミング悪すぎかよ…」

冥府神霊の陽の上位級であるハーポとヨッタは二人に襲いかかった。

「お前の永遠の寿命を今すぐによこせ!」

「泉!今すぐに逃げろ!」

昴は霊水晶を泉に手渡して逃がそうとする。だが、ヨッタは泉に狙いを定め、触手を伸ばしてきた。

「『精神喪失』!」

泉はなんとか逃げたが追い詰められる。霊水晶は結界を張ったがすぐに破られてしまった。

「えっ…」

「お前の精神や記憶を全て消してやる…」

泉は目を閉じて歯を食い縛っていると、何かを切るような音が聞こえた。

「あっ…」

泉が目を開けると、そこには蜂の触覚のようなものが付いた少年が、剣を持って立っていた。

「昴様、帰りが遅いと思ったらこんな所に…」

「ヨクト!お前来てくれたのか!」

昴はその間、ずっとハーポの相手をしていた。

「無茶したら駄目だってあれだけ言ってるじゃないですか…」

「ヨクト!お前…、華玄に寝返ったか!」

二体は狙いをヨクトに変え、襲い掛かってくる。

「生きてる人間に手を出すのは元冥王の家臣としての誇りを捨てた怪がする事、お前らは俺以下なのか?」

「くっ…陰のトップだからと言ってそんな口を利くか!」

「『心身滅裂』!」

ヨクトは二体の攻撃を受け流し、一発の剣でそのまま全て返した。二体はこのまま消滅していった。

「大丈夫でしたか?」

「あいつらは寿命と精神を奪う能力がある、よく無事だったな泉?」

「あっ…、ありがとうございます…」

泉はヨクトを見てお辞儀をした。

「まぁ、俺の忠実たる下僕なだけはあるな」

「えっ…?」

泉は反応に困る余り固まってしまった。

「昴様、そろそろお帰りになられないと…」

「ああ、そうだったな、ただ、泉が…」

「泉?」

ヨクトは黒い表紙の本を取り出して捲った。

「それ、何ですか?」

「現世でいわゆる閻魔帳っていうやつだよ、死神に配られる死神の書と違って、確実な死しか載ってないし書き換える事も出来ない。」

「へぇ…」

「お前、名字は?」

「稲枝です、稲枝泉」

ヨクトは何かを探していた。

「稲枝…、泉の方は無いな。迷い子か?岬の方はあるんだが…」

「えっ…、載ってるって事ですか?!」

泉は一気に青褪めた。

「印が二つ押されてる…、執行されてなお且つ転生の準備もされたって事か、泉、岬はもうお前の所には戻らない。素直に諦めて現世に戻れ。」

「そんな…」

泉はその場に跪いた。

「残念だったな…、まぁ、自分が死んだ訳じゃないから…」

「私には岬が居ないと!」

「あっ…」

ヨクトは書を閉じて泉の方を見た。

「人の死を悲しむ、人間の悲しい性なのか…」

「ヨクト…、俺にだって人間の心っていうのが無い訳じゃないからな」

昴は悲しむ泉の背中をそっと擦っていた。



山奥の病院の病室で、誰かがずっとベッドで眠っていた。すると窓から灰色のローブを纏い、赤い目をした黒い髑髏の仮面を被った人物が現れ、それをじっと見ていた。

「空っぽだ…、まだ寿命は残ってるのに…」

その人は、眠っている人の身体に触れた。その時、扉が開く音がして医師と家族らしき人々が入っていき、ローブの人物は慌てて影に隠れた。

「丸一日経っても意識が戻らないなんて…」

「そんな…、戻って来て!」

母親らしき人物は悲しんでいる。

「子供を二人一緒に失ったら私達は…!」

父親の方は動揺を隠せないでいる。

「まぁ…、落ち着いて下さい、まだ死んだ訳ではありませんし」

医者は二人を必死になだめている。

「そんな…」

そして、何処かに行ってしまった。

「これ、絶対ただの病気じゃないよね…?」

隠れていた人物はそっと身体を動かしてみる。

すると、同じように窓から、今度は黒いパーカーを着た人物が入ってきた。

「お父さん?!」

二人は仮面とフードを外して話しだした。

「真莉奈、仕事か?」

「お父さんこそなんでここに…」

「仕事が思いの外早く終わったんだ」

二人は、実際の年齢の割には若々しい見た目をしており、兄弟だと言っても全然怪しまれないくらいだった。

「この子、身体に異常は無いのに目が覚めないらしくて…」

「そうか…」 

「まさか、冥界に…?」

智は考え込んだ。

「真莉奈、冥界に行ってくれないか?身体は俺が守っておくから」

「うん!空っぽの身体に別のものが入ったら困るからね、行ってくるよ!」

真莉奈はそう言って窓から出ていった。

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