二人の転落
別れにも色々な形がある。それが永遠だろうとそうでなくてもそれは辛いものだ。だが、生きていれば必ず別れはやって来る。それはただ、早いか遅いかだけの違いであり、また感じる方の気持ちによって捉え方は異なる。
T県G市田町、そこには仲の良い姉妹が居た。片方は背が高く、黒髪で右端の髪の毛を三つ編みにしていて、もう片方は背が低く、栗梅の髪をポニーテールにしていた。
名前は稲枝泉と稲枝岬、二人はとても仲が良く、周囲からも羨ましがられる程だった。
そんなある日、二人は父親の転勤でここを離れないといけなくなった。二人は展望台で町を眺めている。
「お姉ちゃん、私…、ここを離れるのは嫌だよぉ」
「岬…、」
岬は泣きじゃくった。
「また新しい町で友達作れば良いでしょ?」
「でも…」
「私達は前に進まなきゃいけないんだからね」
そう言っている泉だったが、実は岬以上にこの事を嫌がっていた。父親にも母親にも一応それは伝えたのだが、仕方がないと言われてしまった。
「ほら、もう行くよ」
泉はそう言って岬の手を引いたが、岬は動かなかった。
「お姉ちゃん…動きたくない!」
「えっ?」
足元を見ると、地面が崩れがかっている。そういう事だからかこの展望台には地元の人もあまり近づかなかったのだ。
「早く行こう!」
だが岬は言う事を聞かない。その時、二人の足場が崩れ落ち、真っ逆さまに落ちていった。
気がつくと谷底に居た。二人とも傷を負っていて、岬の方は目を開かない。すると、灰色のローブを纏った誰かが岬の元に近づき、何かをしている。
「えっ?」
だが、泉の方も意識が遠のき、そのまま何処かに引きずり込まれていった。
泉が再び目を覚ますと、そこは空が七色に輝く場所に居た。地面もさっきの冷たく硬いものと異なり、柔らかくなっている。泉は最初夢を見ているのだと思った、だがそれは違った。
「ここは…、」
少し歩くと、丘の下に町が見える。そこはどれも朱色の屋根がかかり、古代中国を思わせるような風貌となっている。
「凄く綺麗だな…」
すると誰かが泉の側にやって来た。
「お前…、現世から迷い込んできたのか?」
泉が振り向くと、そこには紅い花と蒼い星の模様が付いた茶色の衣を纏い、金色の冠と色とりどりの水晶の装飾を付けた青年が現れた。
「あなたは…?」
「俺は風見昴、そういうお前はどうしてもここに迷い込んだのか?」
「あっ、私は稲枝泉です」
昴は町の方を眺めていた。
「昴さん、でしたっけ?どうしてそのような恰好をしているのですか…?」
「ああ、俺は将来ここを治めるんだからな」
「はぁ…、」
「と言うのは置いといて、どうして泉はここに来たんだ?!」
「ここって…」
昴はため息をついた。
「まさか…、お前、ここが何処か分からないで来たのか?!
「えっ…?」
「ここは冥界だよ」
泉はしばらく沈黙した後、驚きの声を上げた。
「えええーっ?!」
「現世から来た人間は今すぐにでも連れ帰さなきゃいけないんだが…」
泉は辺りを見回した。
「そういえば…、岬は?!一緒に落ちたはずなのに…」
「ここに来たのはお前だけだが?」
泉は急に不安になった。
「そんな…、岬が…、今すぐ探さないと」
「探すのか?だが、お前生身の人間だろ?ここは危険だ」
「でも…」
昴は泉に手を差し伸べた。
「見つからないかもしれないが…一緒に探すか?」
「はい!お願いします!」
二人は一緒に歩き出した。
「泉は五年生なのか?」
「あっ、そうです。そして、岬は三年生です。」
「そっか…、俺もそんな時期があったっけな…」
昴は何かを見透かしたような目で泉を見た。
「お前…、『影』を連れてきてるな?」
「えっ…?」
泉は自分の影を見たが異変は無かった。
「かなり厄介だな…、本気で岬を探すのか?」
「はい!」
昴は止めようとしたが、泉の目は本気だったので、止めるに止めれなかったのだ。
「後戻り出来なくなっても知らないぞ…」
昴は泉から顔を背け、何かを考えてたいるようだった。