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ショタフリ  作者: ひろきょ
8/19

ショウタのスクール・ライフ



 朝食を終えて、学校に行く準備が整った頃、インターホンが鳴る。

 「カイキ君、来たよ」

 学友の皆樹君は毎朝、翔太を迎えに来てくれる。

 「おはよう。いつもありがとうね」

 「おっ……おはようございます、お姉さん」

 彼は今年の四月に岐阜県から引っ越してきた転校生だ。サッカーのみならず、骨太な体格に恵まれているため柔道も習っている。

 翔太とはずいぶん違う個性的で明るい性格で、数週間で新しいクラスの頭領になっている。体育会系で不器用な所もあるが、責任感があり、情にも熱いことから特に男に受けがいいそうだ。

 「雨強いから、気を付けていってらっしゃい」

 「はい! ありがとうございます」

 (うちの弟とは違うかわいさがあるな……)

 「翔太、おはよう! 行くぞ」

 「うん……」

 「ちゃんと挨拶しなさい!」

 礼儀作法を両親に叩き込まれた私にとって曖昧な挨拶は許せない。翔太の頭を軽く叩く。

 「なんだよ。この暴力女!」

 「挨拶しなって。基本でしょ」

 「……おはよう、皆樹」

 「おう、おはよう。相変わらず姉ちゃん元気だな」

 「元気過ぎて、うざいよ」

 「誰のためを思って言っているのかわかってんの」

 さきほどの騒ぎで引きづっている翔太の女々しさに少し鼻息を荒くする。

 「いってらっしゃい」

 「「いってきます」」

 翔太は家の中では意気がっているが、外では大人しい内弁慶である。積極性に欠ける部分があったので、五年生のクラス替えの際、うまく馴染めるか心配していた。

 しかし、皆樹君がサッカーをしてくれていたおかげで、すぐに友達になり征夷大将軍のナンバー二の執権というポジションを自然に手に入れた。皆樹君には感謝している。

 私は車道側を通る皆樹君の自然なエスコートに感嘆しつつ、二人の姿を見送る。


 無数の細く長い雨が地面を忙しなく打ちつける。

 数百メートルの歩みを進めて、いつもの登校時に渡る大きな横断歩道の前で、ある女の子が待っている。――樹里である。彼女は器量がたいへん良く、男子に人気があるが、何人かの女子に嫌われている典型的なお嬢様っ娘だ。

 「おはよう! 翔太君」

 「おはよう」

 大きな笑顔での樹里ちゃんに翔太は照れもせず、小さな声で挨拶を交わす。

 「おはよう」

 挨拶をしてもらえなかった皆樹は自ら挨拶をする。

 「あっ――あんたいたの? おはよう」

 「見えていただろう? 俺と翔太の扱いが違いすぎるぞ」

 「冗談よ」

 そう言うとクスクスと笑いだす。湿気で淀んだ空気の中で、明るい会話が弾む。

 「ごめーん、待ったー?」

 「遅いぞ!」

 「あらヤダー。ご明太子っと」

 「おまえ……つまらないぞ……」

 友達がもう一人加わる、爽明だ。彼は完全に名前負けした面をしている男の子だ。爽やかとは縁遠い分厚い眼鏡のガリ勉の容姿をしており、かなりお姉だ。ちなみに彼は皆樹の忠実な家臣である。

 勉強において翔太の良きライバルでもある。翔太自身はさほど、相手にしていないが、爽明が張り合う形でこのチームに与している。

 毎朝、この個性豊かなパーティで学校に登校をする。

 学校までのおよそ十五分くらいだ。いつも、昨日のアニメやゲームの話をしたり、爽明のくだらないダジャレ大会に付き合わされたり、登校時間は退屈とは無縁の時間であった。

 

 学校に着くと、クラスの女子はもちろんのこと、翔太に好意を抱いている女子全員から黄色い歓声と共に挨拶の連投祭が始まる。

 下駄箱の周りには翔太をひと目見ようとわざわざ待ち構えている者もいる。それぐらい翔太は学校では人気がある。

 皆樹君はこの異常な光景に最初は戸惑っていたものの、人間とはどんな状況でも多くの経験を重ねれば重ねるほど、慣れてしまう生き物だ、今ではサッカーの試合前のセレモニーのように群れの中を掻きわけて進んでいく。

 唯一の女子の樹里ちゃんは、翔太との仲が良いことから数人の女子から嫉妬心で陰口を叩かれているが、気にしていないようだ。今日も女子の集団の何人かが、

(あの子――いつも翔太君といて何様のつもりよ……)

と、わざと聞こえるように言っているが、ポーカーフェイスを保つ。

また、爽明もしばし彼女たちの標的の的になる。

(何よ、あのオカマ……いつもべったりして気持ち悪い)

「ちょっと! そこのあんた聞こえているから! お黙り!」

 爽明はオネエ独特のプライドがあり、不条理だと感じることに対しては、女でも男でも容赦なく噛みつく。

先日も他のクラスの男子から「ジェンダーを超越し者」と揶揄されて、追いかけ回したあげく、殴り合いの騒動まで起した。そういった部分ではたくましい男の部分を持ち合わせた人物である。空手の黒帯を持っているため、最近は怖がって誰も爽明の性に突っ込む者がいなくなっているが……。

 四人は三階にある教室に向かため階段を登り始める。

「爽明、あんなの放っておけよ」

皆樹は諭す。

 「わかってるわ! あの女、時折うるさいのよ。たまにはいいじゃない、ガツンとね」

 「ちょっと自分を抑えることを学んだら?」

 樹里はそっと助言をするようなだめる。

 「そうねぇ……ごめんなさい私こんなんだから……」

 「……爽明はそのままでいいんじゃない? 僕は全然気にしてないよ。ここにいる二人もそうだけど」

 翔太も涼しい顔して言い、爽明を落ち着かせる。

「ありがとう……わかった、あんた私のこと好きでしょ?」

 「あり得ない」

 「そう照れなくてもいいわよ」 

 「これ以上口を開くなら、お前をここから突き落とすぞ」

 「もう、やだぁ……冗談よん」

 「お前の冗談は友達であってもきついぞ」

 「……不条理だわ」

 爽明はこの言葉を多用する。自分の不条理な言動にはお構いなしに……。

 

 三階まで辿り着く頃には少し息が荒くなっていた。僕たちは五年一組で、階段を上がってすぐ右に曲がった所に教室がある。

 「「おはよう」」

 風華ちゃんと真彩ちゃんをきっかけ一斉にみんな挨拶をする。

 自慢ではないが、僕のクラスは皆仲が良い。爽明のような異端児でも普通のクラスメイトとして受け入れている。

 これは皆樹が皆をまとめてくれているおかげかもしれないし、僕が言うのも変だが、翔太の仲良しな子だという認知によるものかもしれない。

 「ちょっと、風華! あんたんとこの姉さん、また私のことブツブツ言ってたわ」

 「ごっ……ごめん、爽ちゃん。ちゃんと言っとくから」

 「なんで、あんたはこんなにいい子なのに、姉はポンコツなのかしら?」

 「バカな姉でごめんね」

 「フフフ……気にしてないから、別にいいわよ」

 このように爽明も他のクラスや学級と違い、一組の生徒とは親密な関係で繋がっている。

 僕が変に気を遣ったり、根回したりしなしてくもいいクラスづくりが出来ていると感じている。学校での主人公はある意味爽明と言えるかもしれない。


 始業のベルが鳴り、担任の先生が入ってくる。今年赴任してきた、新米先生の小島先生だ。あだ名は「ドッスン」である。力士のように太っている訳ではない、全体的にゴツゴツしていて、女と言うよりも男のように勇ましく貫禄があるため、そう呼ばれている。

 顔は整った美人で、うちの姉のように、飾り気のない人で、僕は嫌いではない。

 「みなさん、おはようございます。連絡事項がいくつかあります……」

 「先生、今日の体育の時間は何するの?」

 体育大好きっ子の皆樹が五時間目のこともう尋ねている。

 「――そうねぇ、何かしたいことある?」

 「フットサルがいいな」

 うちの学校には珍しくフットサル用のボールやゴールがある。

 「今日は雨だし……みんなはどう?」

 教室が騒がしくなり、各々の希望を先生にお願いする。

 「はい、はい……そんなたくさんは出来ないからなぁ……じゃ、今日はフットサルで」

 「やったぜ! 先に言ったもん勝ちだな。よかったな、翔太」

 皆樹は嬉しそうだ。お互い地元の少年サッカー部に所属しているので、僕も嬉しい。

 「やだー、フットサルじゃなくてダンスが良かったのに……」

 爽明は、あからさまに悔しがって、次回の時にでも、とおねだりをしている。

 いつもの日常が始まる。僕は学校では大人しい性格だけど、友達やクラスメイトが個性豊かで陽気なので居心地がいい。その反面、心のどこか寂しさを感じる時がある。

 ――僕はここでは、本当の姿をさらけ出せずに、殻を被ったような存在かもしれない。


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