レッツ・カレー・パーティー
6
家に着く頃には、すっかり日が沈み、黒闇が町を覆っていた。
「ただいま」
翔太が帰ってきた。今晩は友達を連れてくるようなので、少しそわそわしている。
「おかえり。みんないらっしゃい」
私は精いっぱいの愛想の良い笑顔で迎え入れる。
「「おじゃまします」」
「今晩は、お初にお目にかかります。翔太君の友達の神埼聡明と申します」
「はじめまして、聡明君。いつも翔太と仲良くしてくれてありがとう」
「まぁ、素敵なお姉さま。顔も翔太くんに似ていて美人ですわ」
「あんまり似ていないって言われるだけど……聡明君もかわいいね」
姉はオネエ系の聡明を、すぐに受け入れた。しかも、何のためらいもなく。絶対に少し引くと思っていたけど、なんでも受け入れるお母さんのようだと翔太は感じた。
「今日はごちそうになります」
「皆樹君もいつも翔太と遊んでくれてありがとう。樹里ちゃんもあがって」
普段、反抗ばかりしていて、釣り上った目や眉間にシワを寄せた顔しかみないが、友達の前で穏やかな笑みを向けている姉はいつもと違っていて、少し新鮮だ。
(外面いい顔しやがって……そうだ……)
三人はスリッパを履きリビングルームに通される。
「ご飯もう少しでできるから、テレビかゲームでもして待っててね」
私は急いで五人分の夕食の支度に取りかかる。カレーだけでは物足りないと、見栄をはるために大学の帰りにスーパーに寄っていた。
(惣菜を買ってきておいて良かった……皆樹君良たくさん食べそうだし……)
「翔太~、ちょっと手伝って……ってどこに行ったの」
「自分の部屋に行くって言っていました」
と言いながら、樹里さんが手伝おうとする。
「お客さんにそんなことさせられないし、座っていて、樹里ちゃん」
「いえ、いつも家では手伝っていますので……お皿並べますね」
「あ、ありがとう」
(なんて素直でいい子なの……妹がいたらあんな感じなのか……)
「翔太、どこ行ってたの? 手伝いなさい」
「わかったよ……そんな偉そうに言うなよ」
「翔太くん、家では私の弟みたいだね」
突然、樹里ちゃんが思い出し笑いをする。
「樹里ちゃんも弟いるの?」
「はい、私が何か言う度に、反抗してきます。さっき翔太君と同じように」
「何だよ……俺はお前の弟みたいにガキじゃないから……」
男のくだらないプライドが翔太の頬に紅を注す。
「ごめん、そんなつもりじゃないから、私のはバカ丸出しって感じだし」
「どこも一緒だね」
「……うっ、うるさいな」
翔太はこの話を遮るように、私と樹里ちゃんの間を通り抜け、残りの食器を取りに行く。
樹里ちゃんは少しまずそうな顔をしていたが、私が微笑むと、安堵した表情を見せる。
「からあげだー。姉ちゃん作ったの?」
「う……ん。カレーだけじゃ寂しいかもって思って買……作った」
近所のスーパーで買った総菜だけど、姉として背伸びがしたかったので、つい嘘をついてしまった。
「本当に?」
「ほっ……本当だから。私の料理の腕知っているでしょ?」
「まぁ、いいけど……」
翔太は気付いているようだった。
「さぁ、みんなご飯ができたよー」
「「はーい」」
皆樹と聡明もテーブルに着く。今日は父の席に翔太、母の席に私が座って食べた。
いつもより多くの人数で食卓を囲む。非常に賑やかで楽しい。
翔太は家では心配になるぐらいな我儘な性格で友達ができるか不安だったけど、学校でこんなに素敵な学友に囲まれて学校生活を送っている姿をイメージすると顔が緩んだ。
責任感が強く、礼儀正しい皆樹君、個性が強いが、自分を持っている聡明君、そして、しっかり者でやさしさ溢れる樹里ちゃんと翔太にはもったいない友達だ。
この子たちが奥手な翔太を支えてくれていることが、何気なく話している会話でも感じることができる。それと同時に、ずっと友達でいて欲しい母のような願いを自然と持つ。
(それより男の子の足って、なんでこんなに臭いんだろ……三人集まると強烈だわ)




