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文化の力と、半馬の集落

 牧歌的な風景、と言えばこんな風景なのだろう。

 ヒツジやヤギ、牛などが簡素なテントの周囲であくびをしている。

 もちろん、家畜とはいえ糞尿も垂れ流すのだが……足元で踏みつぶさない分には、それなりに許容できる臭いだった。

 ある程度は、家畜を清潔に保つという必要性を理解しているのかもしれない。家畜を乾燥した草でごしごしと拭っている女性も見受けることができた。

 昔見た遊牧民の生活を、そのまま彼らは送っているようだった。

 まあ、全員ケンタウロスなんだけども。

 半馬族が座り込んで牛の乳を搾っていると一種の奇妙さを憶える。

 なんか、大勢に無理があるような気がする。

 こう、人間の部分と馬の部分のつなぎ目が気になる。やっぱこれどう見ても人造生物だよな。普通に進化したらああならないよな。

 とは思いつつも、子供の半馬族が普通に鬼ごっこをしているところを見ると、そんなことを考えるのも無粋に思えてくる。


「あ、ヒゲナシだ!」


 ここでも子供たちからはヒゲナシ認定らしい。

 まあ、俺の場合一番の特徴って髭が無いことだしな。

 髭を生やしてないのは悪魔族ぐらいだが、悪魔族の場合見た目が子供だからだろう。そもそも、交流がほぼないし。


「申し訳ない、氏族の者が」

「気にするな、俺の氏族も似たようなものだ」


 俺がそういうと、くく、とおかしそうにエリア王は笑っていた。

 なにか思うところでもあるのだろうか、呆れているとか哀れんでいるとか、そんな感じではないようだが。


「失礼、先代のサジッタ王からはタロス王は常に周囲へ嫌悪をまき散らしていると聞いたものですから」

「そうだな、そのとおりだ」

「ですが、私が知る貴方は本当に穏やかな方だ」

「メザをどうしたのか見ただろう?」


 父親と兄を失った小娘をぶちのめした鬼畜外道だ。

 まともに殴り合う気もなく、一方的にいたぶっただけである。憎しみを受け止めるどころか、嫌悪感で突き放したからな。


「何をおっしゃいます、貴方は魔王様のご命令に従っただけでしょう。少なくとも、ある程度動きを止める程度にとどめたことは、とてもお優しいと思いますよ」


 そんなことは一切ない。

 まず確実に、俺はそんないい男ではない。

 それは過大評価というものだ。


「あの戦で多くの敵を葬ったダイ族の王が、身重になった妻の為にチーズを求めて訪れるとは……父君に伺ったとはいえ、そこまで献身的だとは」

「妻にはぞっこんでな……」


 妻にぞっこん、というのならそれはそうだと思う。

 俺は確かに、マリーに夢中で何かできないかといつも思っているのだ。


「そうですか……こういう時、どの氏族も男は無力ですな。私など、精々笛を吹く程度でして」

「笛か……」


 こういう時、文化の力を思い知る。

 文化は人の心を癒してくれるのだと、文化の飽和していた故郷を思い出す。

 大衆娯楽と蔑まれるものも、あるいは高尚とされる伝統芸能も、等しく人の心に潤いをくれるのだ。

 少なくとも今俺は、巨人族に誇るべき文化が無いことで心が荒んでいる。

 俺は彼女のために、食料を用意するのがやっとでいいのだろうか。

 もっと、彼女の為に何かをしたかった。


「笛に限らず楽器の技もヨル族はたしなむと聞きます。この際習ってみては?」

「考えておく……」


 なんというか、下手な手前を披露して恥をかくのが目に見えていた。

 それでは自己満足に終わってしまうのではないか。

 俺は彼女に喜んでほしいのだが、彼女に気を遣われたいわけではない。

 俺だってもう父親になるのだ、肩たたき券をわたして満足、では駄目だろう。


「まだ父親になったわけでもないのに、夫としてもまだまだ未熟だな……」

「ふははは、まだこれからですよ、タロス王」


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