エリア王と、ついでに見分けの話
「じゃあね~~! ヒゲナシ王!」
俺はどうして自分と他の巨人族を見分けることができたのか、朝方別れる時間になってから理解して、赤面しながら野山をかけていた。
子供は何時だって残酷なものである。
礼儀としてケンチュウ王に挨拶をしようとも思ったのだが、生憎とこの周辺にはいない、というか基本旅をしているので特定の場所に住んでいないらしい。
探そうと思えば探せるが、時間がかかりすぎるので諦めることにした。
何分こっちには身重の妻がいるので、余り長く屋敷を留守にできないのだ。彼女を思う気持ちはもちろんあるし、それと同じぐらい魔王が怖い。別に王の仕事というわけでもないし、早めに済ませるに限る。
俺は銀色に輝きながら朝焼けの草原を走っていく。それにしても、使う機能はダッシュばかりで困る。
まあ、アクションゲームだと大抵、ガードやチャージよりもダッシュの方がよく使うから仕方がない。
この大陸の総面積がどれぐらいかはわからないが、それでもかなり広い筈だ。そこを十日以内で往復するとなるとダッシュはもはや前提である。
そもそも、そんなところで変に意地を張っても仕方がないし。
「まあ、風情が無いのは当然か」
非常に今更だが、ダッシュ中は風の影響をほぼ受けない。
当たり前だ、仮に俺が時速百キロで走っていたら、それこそ風速も相応のものになる。
新幹線や飛行機の様に空気抵抗を考慮した体形をしているわけで無し、風の抵抗を受けていたらまともに目を開けることもできまい。
速度域によっては、大気との摩擦もあり得るしな……。
なので、車や新幹線に乗っているとの体感的には変わらない。
もちろん自分の足で走っている自覚はあるのだが、なんというかルームランナーと変わらない感じだ。
もちろん風景の移り変わりは感じるのだが、乗馬やバイクのような楽しさは無いだろう。
まあ、どっちも生前経験などないのだが。
※
そんなことを考えながら、数日間走り続ける。
すると家畜が食べたであろう、上の部分がなくなっている地帯が見えてきた。
間違いなく、この近くに家畜がいるのであろう。
とはいえ、その近く、というのがどの程度近くなのかはわからないが。
上空に半鳥族でもいれば狼煙でも上げるところだが、生憎と上空にその気配はない。
さて、どうするかと思っていると……。
「お久しぶりですな、タロス王」
緑色の閃光を伴って、俺のダッシュに並走してくる騎兵が見えた。
文字通り人馬一体のケンタウロス。半馬族、ユミ族の王、エリア王だった。
どうやら向こうが見つけて、こちらに声をかけてくれたらしい。
なんともありがたい話である。
これで大分時間がかからずに済んだのだから。
「助かった、エリア王。実はユミ族に頼みがあってな」
俺は銀色の光を収めて、足を止める。
エリア王もそれに合わせて足を止めてくれていた。
下半身が馬ということもあって、大分背が高い半馬族の中でもエリア王は大分大きい筈だ。
しかし、それでも流石に俺の方が大きい。自然と彼を見下ろす形になる。
「ほう……どのようなご用件で?」
「マリーが、妻が妊娠してな」
「それは良かった、慶事ですな」
なんか、祝いを催促しているような形になってしまった。
というか、客観視するに手土産も持たずに妻が妊娠したことを告げたら、それはどう考えても催促である。
言うまでもなく、九氏族は子だくさんで王の場合は特に多い。
なので、俺も他の王から妻が妊娠したという話は聞かない。一々報告しないからだ。
俺の場合はマリーが魔王の子孫なので、その報告をアンドラがしただけの事だ。
もしかしたら、というかエリア王も普通に奥さんが妊娠しているという可能性もあるしな……。
だとしたら大変申し訳ないところである。
気分が浮かれて大分軽挙をしてしまったようだ。
「とはいえ、身重の妻にできることなどそうないからな。それで父に聞いたところ、ユミ族のチーズが喜ばれたと聞いてな」
「はっはっは! そうですか……ではお分けしましょう」
「すまん」
「いえいえ、お気になさらず! 先日の結婚式では私も御馳走になりましたから」
ああ、そう言えばそうだった……。
でも、あれはあれで魔王が用意したもので……。
俺の心中はやはり申し訳ないの一言である。




