半狼族と、ついでに今後の目標
人間が半人と呼ぶ氏族は、どれも明らかに人間離れしている。意図的としか思えないほど、人間の要素を半分持っているからだ。
一応、人間と子をなせるのだが、どう考えても霊長類ではない。
野人はまだわかる。おそらく、小型犬と大型犬ぐらいの差しかない。
イルカとクジラが概ね同じ種族であるのと同じで、あるいは家猫とライオンが大雑把に言えば同じなのと一緒で、あるいはゴリラと人間が同じ、というのと一緒だろう。
魔人連中は確かに体格こそ人間と大きく変わらない。しかし、寿命がなく老化が無い、という点は極めて異なっている。
はっきり言って、動物の域を大きく逸脱した生命であるのだろう。
だが、どう考えても半人はおかしい。明らかに人為的な進化を、あるいは改造を受けているとしか思えない。
人間とは進化の分岐点が異なる鳥類の特徴をもつ半鳥族、はまだいい。
手足の数が一対多い半馬族など、どう考えても進化の過程がおかしい。
そして……オオカミや犬が二足歩行できるように進化しました、という半狼族が人間と子をなせるのもおかしな話だった。
半狼族と人間が個を成した場合、人間にしては牙が鋭く鼻が利く子供か、手足の末端がより人間に近い半狼族が生まれるという。
「ひゃああ! うめえ!」
「新鮮な肉だあああ!」
「こりゃあたまらねえぜ!」
今俺の前で半狼族が俺の焼いている肉を食っている。
半狼族は基本夜行性で、他の氏族と行動を共にしない場合は昼寝て夜行動する。
体格が人間とそう変わらないこいつらは、野人と違ってしょっちゅうがっつり食べなければならない、というわけではなく、ある程度絶食しても元気だそうだ。
とはいえ、テンションが上がっているとすげえ顔をしながらすげえうまそうにメシを食っている。
どうやらこの一帯は半狼族の縄張りで、半馬族の縄張りはまだ遠いそうだ。
「タロス王、こりゃあ旨いぜ!」
「ああ、最高だ!」
「んんめえええ!」
焼けた肉の匂いに惹かれて集まってきた二十人ほどを相手に、俺はもう一頭ほど獲物を狩ってきて振る舞っていた。
まあ、縄張りを通り過ぎるのだから、これぐらいはしておいた方がいいだろう。
俺には正直、こいつらの顔の見分けなど付かないのだが、向こうは銀色の斧を抜きにしても俺だと見分けがついたようだ。
っていうか、臭いでも憶えられたのだろうか。こいつら、見るからに犬だし。
それにしても、何というかこいつら本当に旨そうに食っている。なんでただ焼いた肉を食っているだけなのにここまでテンションが上がるのだろうか。
おかしい。俺とマリーの時、ヨル族の料理を食っても新旧の王はそんなにリアクションをとらなかったと思うのだが。
「おうおう、タロス王!」
「あんときゃ世話になったな!」
「死ぬかと思ったぜ!」
集落から持ってきたらしき酒を、俺に注いできた。
やはり、前の戦争で生き延びた連中は俺に感謝しているようである。
思えば、鬼人族もそんな感じだったし、こいつらも礼を言いそびれていたのだろう。
なんとも義理堅い連中である。
「俺も世話になったからな、気にするな」
少なくとも、こいつらのことなんて少しも考えていなかったしな。
ただ自分が助かるために最善を尽くし、結果としてこいつらも助かっただけだ。
ツンデレでもなんでもなく、あの状況でそんなことを考える冷静さなどあるわけがないし。
おおよそ、巨人族や剛人族が重装歩兵に近い役割を持っているのに対して、半狼族は軽装歩兵の役割を持っている。
一瞬だけなら半馬族さえ抜き去る敏捷さで剣を手に、集団で敵に切り込んでいくスタイルはまさに狼だ。
体重が軽いので馬力は出ないのだが、装備が貧相な人間なら瞬く間にズタズタである。
そんな彼らの助力もあって、俺はあの包囲網を突破できたのだ。
「そんなに気にすることじゃない」
こうして、生物として優れている巨人族の中でも、最も優れた肉体の持ち主として、色々考えさせられる。
やっぱ、限界が近い。
今が限界で、此処から先は頓智や素人の喧嘩殺法だと無理が出る。
エリック君やアレックス君は野心家として実績と名声を求めた。俺は両方持っている。これ以上増えることは無いだろう。
財産は嫁入りとしてもらったし、女は正直もてあましている。今俺が欲しいのは、確かな実力だった。
荒野って褒めてもらえることも確かに嬉しいが、それよりもなによりも、他人に教えらえる力だった。
もちろん、今はそんなことよりも半馬族のチーズが欲しいのだが。
「タロス王!」
「ん」
そこには、テンションが上がりつつも俺に尊敬の目を向けている子供と、感謝の目を向けている母親がいた。
「ありがとう!」
「ああ」




