王の仕事と、ついでにどうしようもない奴ら
一部の者を除いて、これが来ると分かっていた。
一部の者を除いて、その一部の者を心底呪っていた。
連帯責任は、この時勢でも非情に強固に働くのだと、まるで分っていなかった。
「……」
金色の金棒を担いでいたツノ族の王は、何とも不機嫌そうにその村の中心に村の衆を集めていた。
朝から彼は無言で通しており、皆が集まってからすでに長い。
もうすぐ昼になるか、という時間で彼は口を開いた。
その重苦しい沈黙は、彼の怒りを顕著に表しているようだった。
「俺はなぁ……」
先日氏族の王になったばかりの、若い王。
黄色い肌の二本角、若い体に筋肉を満載した戦闘民族の王。
彼は、忌々し気に口を開いていた。
「王としてちゃんとやろうと思ってたんだぜ?」
どの村にも顔を出して、どの村にも自分の顔と名前と角の形を憶えてもらうつもりだった。
ツノ族の王として、恥じぬ振る舞いをしようと思っていた。
だが、その最初の仕事、というべきものを同族につぶされた。
それも、王の仕事を侵す形で。
基本的に、ツノ族の角を折っていいのは王だけである。
めったにないことだが、よほどのことをした時に、処刑に準ずる形で金棒でへし折る。
不朽の武器である金棒は、ツノ族にとってそういう使い方をされていた。
つまり、それほどにあってはならないことなのだ、角を折るということは。
この村の誰かが、してはならないことをしでかしてしまったのだ。
「で、こりゃあなんだ?」
面目丸つぶれ、どころの騒ぎではない。
オカカを王と認めない、ともいえるのだ。
つまりは、彼を王と認めた長老衆や魔王、もちろんオカカ本人を侮辱するものである。
これを放置すれば、それは王権を手放すに等しい。
それを理解している長老は、すっかり震え上がっていた。
一番してはならないことを、この村の誰かが実行したのだ。
それは監督責任を問われるものである。
もはや誰が犯人でも関係ない。王の機嫌を損ねた以上、今後彼や他の村から協力を得ることはできないのだ。
「舐めてんのか?」
そうした事情に思い至らずとも、犯人たちは青ざめていた。
もしばれたらどうしよう。
ばれないに決まっているけど、もしもの事があったら。
そう思うと、赤い肌も青い肌も黄色い肌も、すっかり震えて汗まみれだった。
「……ツナマ、エビマ、タカナ、コンブ、カラシ」
名前を呼ばれた面々は、驚愕しながら立ち上がった。
一人の漏れもなく、シャケを襲撃した面々の名前が全員呼ばれていたからだ。
五人の男たちは、一斉に言い訳を始めた。文字通り、命がけである。
「ち、ちがうんだ、オカカ王!」
「そうだ、何勘違いしてるんだ?!」
「ああ、なんで俺達を呼ぶ?!」
「おかしいって! なんで疑うんだ?!」
「他の村の連中かも知れないだろう?!」
「だまれぇ!」」
座り込んでいたオカカ王は、黄色い肌を赤く染めながら怒鳴っていた。
全身の筋肉が震え、痙攣している。
自分の氏族から、こんな恥さらしが出たことを嘆いているのだ。
「ミミ族から聞いた……お前ら、俺が来る前に森で色々話し合ってたそうじゃねえかよぅ」
ミミ族の名前を聞いて、五人は黙る。
確かに森の中に潜んだ彼らを見つけることができるのは、ツキ族の鼻ぐらいのものだ。
もしも隠れてさっきまでの会話を聞かれていたら、それこそ全てお見通しなのだろう。
「み、ミミ族を信じるのか?!」
「あんな何考えてるかわからない奴らを信じるのかよ!」
「同じ氏族の俺らを信じろよ!」
「そうだ、案外アイツらがやったのかもしれないぜ!」
「疑うのかよ、それでも王かよ!」
確かに、音声を記録されているわけではない。
仮に記録されていたとしても、それはねつ造だと言い張ることもできただろう。
科学的な捜査などできない時勢である。犯人の特定など不可能に近い。
「おい、長老」
「へえ!」
「そいつらが犯人だと思うかぁ?」
「もちろんでさあ!」
だが、そもそもその必要がないともいえる。
少なくとも、この村の誰かなのだろう。ならば、この村の誰かを罰すればいいのだ。
そして、それが見当違いであったとしても、村ごと制裁するので下手人は逃れることができないのだ。
「おい、長老?!」
ようやく、彼らは理解した。
自分達が疑われているということは、それが正解かどうかなどどうでもいいのだ。
少なくとも疑われている自分達以外は、体罰を受けることはないのだから。
「お前らに選ばせてやる」
もはや、五人を守るものは何もない。
彼らの戦術は実に合理的で適切で、味方に一切の被害が出ずに目的を達成できたのだろう。
だが、彼らは戦略を誤った。角を折って放置するのではなく、殺して遺体を隠すべきだったのだ。
そうすれば……多少はマシだったのかもしれないのに。
「俺にぶん殴られてから角をへし折られるか、逃げるかだ」
その言葉を聞いて、五人は迷った。
この状況で角を折られれば、自分はツノ族の中でも蔑まれるこの村の、その全ての苛立ちをぶつけられることになる。
何もかもお前達が悪いのだと、事実ではあるが、憎悪のすべてを込めて憎まれるのだ。
「逃げても追わないが……その時、俺はお前達の事を氏族だとは思わん」
「ま、まってくれぇ!」
「選べって言ってんだろうが!」




