許可証と、ついでにバカ
ダッシュで走る俺は、道中オカカ王から事の次第を聞いていた。
シャケが闇討ちされ、怪我をしたらしい。
命に別状はないが、ひどい目にあったそうだ。
曰く、シャケは村で一番強いというメンタと戦い、勝ったとか。
俺の言ったように、一方的に殴ることもせず一撃で倒すこともなく、相手に殴られながらも殴り勝ったとか。
その後も難癖をつけてケンカを売りまくったり、或いは横柄な態度はとらなかったという。
ただ、村の中でのヒエラルキーが向上して、中々いい扱いを受けていたようだ。
それはいいことだ、嬉しく思う。だが、その一方で、それを快く思わなかった奴がいたようだ。
シャケは闇討ちされてしまったそうだ。
俺は、煮えたぎるものを感じながらオカカ王と一緒にダッシュしていた。
※
銀色の光を纏った俺と、金色の光を纏ったオカカ王。
二人で全力で走ったからか、ほんの一日でシャケの寝かされている村にたどり着いた。
相変わらず、整地された場所に建てられた竪穴式住居がある。
そこに嫉妬や羨望を憶える暇もなく、俺はその穴の中で寝かされている、額に簡素な毛皮を被されているシャケを見た。
「角を、おられちまった」
オカカ王は、自らも憤慨しているかのように、そう絞り出していた。
以前、魔王は自分の息子の尻尾を切っていた。それは悪魔族にとって、誇りある部分を切除されるという、去勢にも等しい行為だとか。
同じように、鬼人族にも角を折られるということがある。これも懲罰的な意味合いで、これをされると取り返しがつかないとか。
当たり前、と言うわけでもないが、鬼人族の角は生え代わるようなものではない。鬼人族の最大の特徴である角は、折られるとそのままなのだ。
鉄をも斬るという鬼人族の角だが、基本的に生物の一部であることは事実。
いくら硬いと言っても、焼けた鉄や石などを使えば、折ることはできるらしい。
「なあ、オカカ王」
俺は未だに眠っている、ボコボコにされたシャケの手を見た。
それは、俺の指導を信じてくれた、拙い指導を受けてくれた手だった。
「まあ、こういうこともある」
俺に比べて、小さい手だった。
少しでもいい暮らしをしたいと、向上心をもって俺を訊ねてくれた奴だった。
「聞いたと思うが、俺はこいつにこう教えた。勝ちすぎるなと」
おそらく、メンタはこの凶行に参加していないだろう。
そんなことをする理由がないからだ。
自分がある程度安定した状態にある、ヒエラルキーの上位に位置するものが、こんなことをするリスクを支払うわけがない。
おそらく、集団的な犯行ではあるが、短絡的な動機の筈だ。
そうでなくば、こんなバカな真似をするわけがない。
「こいつは、オカカ王、アンタにケンカを売って勝ったわけじゃない。村で一番のケンカ自慢と戦って、なんとか勝ったぐらいだ。それでも……気に入らないやつはいたんだろう」
今までシャケを下に見ていた連中、シャケ以外に下のいないであろう連中。
彼を下に見ることで安心していた連中が、腹を立てたのだろう。
なんで自分達よりも下の者が、二人の王と懇意になって、自分達より上位のメンタにケンカをして勝っているのか。
そう思うと、彼らは行動をせずにはいられなかったのだろう。
「分をわきまえて、ほどほどに勝てと俺は教えた……だが、コイツは村一番の相手に勝つことも許されないほど、分が低かったのか? 戦争に参加しないとか、すぐに逃げ出すとか、そういう奴だったのか?」
「違う、そいつは弱かったが、腰抜けじゃなかった」
世の中には、怖かったら逃げ出していいという奴もいる。
実際、それが許されることもあるし、戦って勝っても、いいことがあるとは限らない。
だが、この原始の村では通らない。
戦わないということは許されない。共同体を守るために、命を捨てて戦わねばならない。
嫌だとか怖いだとかで、投げ出すことは許されない。
誰もが命を捨てて戦っているのに、逃げ出すような奴は、自分さえ良ければそれでいいという奴は共同体にいられない。
そんな奴は、ケンカをすることも許されないだろう。
「悪いのは、襲った奴らだぜ……すまねぇ、こんなことになるとは、思ってなかったぜ。俺は、王として恥ずかしい……」
確かに、さぞ恥ずかしいだろう。
俺もきっと同じことを考えたに違いない。
これはない、なさすぎる。
確かに、俺はこうなることを恐れていた。
こんなバカをする奴が現れるのではないかと思っていた。
だがそれは家に鍵をかけるのと一緒で、一応念のため、程度の認識だった。
「まったく……俺はバカだな……だが、そいつらはもっとバカだ」
確かに、彼らは正しいことをした。
多少体術を習ったぐらいで、それなりに筋肉が付いたぐらいで、そんなに強くなれるわけがない。
寝込みを襲われても身を守れるとか、複数が囲んで襲い掛かってきても撃退できるとか、そこらの石で後頭部をブッ叩かれるとか、そう言う状況に対応できるわけがない。
俺の様に氏族から離れて暮らしているならともかく、皆に認められたいと思ったこいつは、それを警戒するべきだった。
まあ、しようと思っても無理だっただろうが。
こういうことは、一度企てられた時点で、どうしようもないのだから。
「オカカ王……いいんだな?」
「ーーーああ、かまわねぇ。ある程度筋は通すが……それさえ済めば、何をしてもいい」
「ああ、後悔させてやるさ」
殺人許可証が、一つの国家の最高権力者から発行された。
いいだろう、バカ共。してはならないことをしたのだから、その何倍もの後悔を味わうようなしてはならないことを存分に味合わせてやる。




