王様の仕事と、ついでに哀しみ
魔王の城を出て自分の領地に帰ったツノ族の新しい王、オカカはまずあいさつ回りをしていた。
もちろん、半人に分類される氏族と違い、彼は長老衆に選ばれたわけではない。
だが、王になるということは各村を治めている長老たちと協力するということである。
氏族を余り好ましく思っていないタロスですら、困っている村があれば顔を出して食料を配ったりもめ事を治める努力を怠ったことはない。
ましてツノ族の者であることに強い誇りを持っていた若い王、オカカならばその行動はより積極的であり丁寧な物だった。
彼は各村を回り、その長老衆に歓迎されながら、最後に自分の村に錦を飾った。
今まで自分が歴代の王にそうしてもらったように、ヨル族の作った料理を抱えて、自分の村の者たちに魔王からの土産を振る舞ったのである。
そこまでやって、ようやく彼はダイ族の領地を目指すことになった。
道中金棒を使うこともなく、己の足で自分の領地を歩いたのは、ある意味では生真面目さからくるものなのかもしれない。
魔王曰く、王権の武器はみだりに使うべきではないという。
なるほど、先代のウメボ王はそんな方だった。
確かにこの強大な武器が無くとも、諸王と肩を並べていた、氏族から尊敬されていた。
なので、彼は道中の移動も王の仕事と思い、生真面目に各村を回り、その上でダイ族の領地を目指していた。
ミミ族の衆長チウホウからの案内を受けて、彼はツノ族の領地からダイ族の領地に入る。
植生にさほどの変化はなく、風景に特別な何かは映らない。
ツノ族の縄張りに有ってダイ族の縄張りに無いものなど、精々大きめの川魚ぐらいのものだ。
「ひぃえええ」
だが、十日ほど歩いてたどり着いたタロス王の屋敷には、些か以上に驚いていた。
流石に魔王の城ほどではないが、自分が住んでも余るような豪邸だった。
彼の妻が魔王の子孫だということは聞いていた。
なので、優遇されているということだろう。
思えば、他の王は配偶者を連れてこなかったのに、彼だけは妻を連れてきていた。
つまり、そう言うことなのだ。
やはり、タロス王はすごいな、という結論に達してオカカ王は庭付きの屋敷に入っていった。
事前にミミ族同士で連絡をしていたらしく、扉の前には何度見ても大きいタロス王が立っていた。
「よく来たな、オカカ王」
「なんの、俺の氏族が世話になったな、タロス王!」
見るからに機嫌がいい。どうやらシャケは無礼をしなかったようだ、オカカ王はとりあえず安心である。
年齢こそ変わらないとしても、先達に対して自分の氏族を押し付けてしまったのだ。この借りは返さねばなるまい。
「今日は泊まっていくがいい、酒もたんと用意してある」
「それはすまねえ!」
扉を開けて中に案内されると、そこにはこの屋敷での歓待を期待させてくれそうな、多くのヨル族が待っていた。
下品な意味ではなく、彼女たちの作る料理はおいしいのだ。その酒の味も格別である。
魔王の城にやや劣る程度の歓待ではあるだろうが、それでもツノ族の料理とは比べ物にならない味が保証されている。
別にツノ族の料理が嫌いと言うわけではないが、やはり美味いものが食いたいのは当たり前だ。
「オカカ王!」
「シャケか……ずいぶんいいもん食わせてもらったみたいだな」
流石に背が伸びたわけではないが、体つきががっしりとしていた。
おそらく、よほど沢山メシを食わせてもらっているらしい。
それはつまり、思った以上にお世話になっていたということに他ならない。
正直、彼がコツをまるで学んでいなかったとしても、これだけどっさり肉を付けてもらえば、そりゃあ強くなるだろうとも。
「すまねぇ、タロス王。この借りは必ず……」
「気にするな、なんということはなかった」
「いやあ、タロス王は本当にすげえお方だぜぇ」
口調はともかく恐縮しているオカカ王。
そんな彼に、如何にタロス王に良くしてもらったのか、と語るシャケ。
二人のツノ族を見送るダイ族の王の目は、一種の達観に満ちていた。
「俺の家に、体を洗ってないやつが……」
風呂と言う習慣を持たないツノ族の王が、十日ほど原生林を歩いていた体そのままで、自分の家を踏み荒らす姿に、分別のあるタロス王は哀しみの涙を噛み殺しているのだった。




