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泡だらけと、ついでに指導の理由

「あの、タロス王。貴方はどうして彼をお弟子に?」

「気に入ったからだ。中々言えることじゃない」


 俺はオカカからシャケと言う鬼人を預かった。

 向こうは大変申し訳なさそうにしていたが、俺としては好ましい話だったので受けることにしたのである。


 これが、憎い相手を倒したいとかだったら放置するところだが、怪我をせずにケンカに勝ちたいという程度なら、全く問題にならない。

 大分健全でまともで、手助けするには十分な理由だった。


 体術で重要なのは、高い攻撃力を持つ事よりも、むしろ防御だ。柔道でもまず受け身を習うように、殴ることよりも殴られないことが大事なのだ。

 もちろん状況にもよるが、怪我して勝つよりは怪我せず勝った方がいいに決まっている。

 自分の身を守るのは、重要すぎるほどの第一要素だ。


「大したことを教える気はないし、相手もド素人じゃない。少し鍛えれば成果も出るさ。それに、今後格闘技をダイ族に教えるにはいい練習になりそうだ」

「そうですね……その、私は貴方の素手の戦いを何度か見ましたが、本当に見事だと思います。とても、その、格好が良かったですよ」


 ううん、お世辞でも嬉しいものだ。

 やはり、人生には良き妻がいると違うものである。

 彼に素敵な嫁さんが来るように、俺も少しは頑張らねばなるまい。


「それで、タロス王はどんなとこに住んでるんですかねぇ?」

「魔王様から人間が住む用の家をいただいている。かなり大きいから、俺でも不自由はない」

「どっしぇえ……王ってみんなそんなことしてもらえるんですかい?」

「いや、マリーのおかげだ」


 よく考えれば考えるほど、マリーの事が好きすぎる魔王様。

 そうだよな、王になったぐらいで屋敷とそれを維持するための人員をよこすとか、普通ないよな。

 今回みたいな


「マリーは魔王様の子孫だからな、格別に可愛がられている」

「え? 魔王様ってカミ族ですよねえ?」

「カミ族と人間の混血が、マリーの先祖だそうだ」

「へえ……」


 まあ、情報の周知なんてこんなもんである。

 ダイ族に対しては大々的に広報したというか警告したのだが、他の氏族はそもそも他所の氏族の王が誰と結婚したかなど、そこまで詳しくは知るまい。

 俺だって、他の氏族の王がどう振る舞っているかなど興味もないし。

 というかまあ、その辺りの事があっさりわかる高度な情報社会の方が、ある意味異常だったのかもしれない。

 シャケが俺の所へ弟子入りしたのも、ただ偶然俺の噂を聞いただけの様であるし。

 そう考えると、縁と言う物の数奇さを俺は感じてしまう。

 昔の人は縁が全てだったのだなぁ。


「そろそろ俺の屋敷が見えてくる、だがお前には先にやってもらうことがあるぞ」

「メシでも狩ってこいと?」

「いいや、体を洗え」



「そんなに汚いっすかねっえ?」

「臭い」

「ええ~~?」


 マリーは既に家に入らせているが、男二人は庭で行水の構えである。

 これから俺は一時文明人になるんだ、という禊の意味も込めた命の洗濯だ。

 この儀式無くして、屋敷に入ることはできない。臭いからだ。


「まあ、安心しろ。お前ならすぐ病みつきになる」

「まったまた~~、体洗うのが楽しいとか、ないっすよぉ」


 確かにその通りだ。

 普段やらない習慣を押し付けられて、それで楽しいわけがない。

 君は正しいよ、俺もそう思う。

 だが、洗う相手にもよるのだから。


「お待たせしました、タロス王」

「よ、ヨル族?! ヨル族がこんなに?!」


 童貞っぽい動きで動揺する我が弟子、シャケ。

 そうだ、俺達を洗うのは、一族総娼婦たる夢魔族なのだ。

 それが集団で体を泡だらけにしてくる。

 一度は彼女達と結婚しようかと血迷うほどの、衝撃的な体験だった。

 きっと、彼も気に入ってくれるだろう。


「なんでこんなにヨル族が?! まさか全員タロス王の女?!」

「いいや、マリーのメイドだ」

「メイド?! なんかこう、くるものがあるなあ!」


 うんうん、実に期待通りの反応だ。

 俺もにやけているが、ユリさんの部下たちもにやけている。

 微妙にいやらしい振る舞いをしながら、俺達の体を洗い始めた。


「覚悟しておけ、シャケよ。これから毎日、家に入る前はこうして体を洗うことになるんだからな」

「……すげえ、やっぱタロス王はすんげぇんだぁ……」


 確かに、美人の女性に体を洗ってもらうとか、童貞の夢だったからなぁ。

 俺も浮気をするつもりは一切ないが、今は体を洗ってもらうことに、身を委ねていた。

 実際、マリーも今頃は体を洗っているだろうしな。


「タロス王、俺、一生ついていきますぜ!」

「それはやめろ」


 体の垢を落としながら、俺は傍らの男に何を教えるのか考えているのであった。


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