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ハネ族の王権と、ついでに夫婦生活

「あらあら、色々と整ってきたわね」


 ヨル族の女王であるバラが、にこにこと笑いながらマリーに近づいていく。

 何が嬉しいのか、彼女のお腹をさすり始めた。


「これなら……もうしばらくで子供ができるわね」

「本当か」


 マリーやタロスよりも先に、シルファーが反応していた。

 よほど、己の子孫が続くのが嬉しいのだろうか。

 言葉に抑揚は乏しいが、しかし興奮は見て取れる。


「ええ、シルファー。混血の子を産むときは大抵、ある程度なじむ時間が必要だから……回数をこなしているようね」

「夫婦円満、それはなにより」

「バラ女王、魔王シルファー。余り立ち入るべきではないかと」


 下ネタを通り越したセクハラ発言に、ラッパ王が口を挟んだ。

 長命種の会話は、何というか心臓に悪い。


「娘だな、うむ、娘が良い。アトラスとリストの末が混じるのだ、健康な娘が生まれるであろう」

「あら、男の子の方がいいわ。それに、混血だなんて素敵じゃない」

「おい、二人とも、夫婦の生活に口を挟むな」


 やや語気を強めたラッパ。

 顔は平静だが、大分呆れているというか、怒っているらしい。

 今は彼だけが救いだった。頼むから黙らせてほしい。


「貴方も混血の子は好きでしょう? アンドラちゃんのお母さんとか」


 と、やや興味を惹かれることを口にするバラ。

 自分たちの護衛を専属で努めている衆長の名前が出たことに、マリーもタロスも驚いていた。

 今の言い方では、アンドラの母親は混血児の様ではないか。


「そうであったな、お前の妻は人間の親を持つミミ族だった」

「憧れるわね~~混血の男の子……」


 一方で多くの子を産んだであろうバラは、羨望の眼でマリーを見ていた。

 あるいは九氏族に嫁いだ人間の娘に、一種の羨望を抱いているのかもしれない。


「おい、いい加減にしろ」


 ラッパが冷たく、しかし荒々しく告げていた。

 それを受けて、これ以上はまずい、とバラもシルファーもマリーから離れた。

 怒らせてしまえば、数千年は根に持つような相手である。

 そんなのを相手に、必要もなく怒らせては人生の損失であった。


「さて、我が居城へようこそ。我が永遠の友の子孫たちよ」


 改めて、魔王の城の門の前で、魔王が皆を迎えていた。

 大きく手を広げて、その上で五人の王に喜びを示す。

 長命種の中でも格別に若く見えるカミ族の王は、少年の様な風貌に長命種ゆえの老齢さをかんじさせる振る舞いをしていた。


「タロス王以外は大分待たせてしまったが……うむ、感無量だ」


 シルファーは皆を城の中へ案内した。

 その巨大な石造りの建物を見て、ツノ族の若き王はきょろきょろと見渡していた。

 自分よりもさらに大きいダイ族の王でさえもゆうゆうと入れる、大きく複雑な構造の建造物。

 初めての体験に興奮しながらも、なんとか威厳を保とうと皆の後に続いていた。


 一方で、諸王はよく歩く道を沈痛な面持ちで歩いていた。

 なんというか、この城の主の真の力を目の当たりにしたからかもしれない。


「さて、ではこれより戴冠を行うとしようか」


 城の中枢である謁見の間。その玉座の前に立ったシルファーは、カミ族が使うには両手剣であろう魔剣を構えて、そのようなことを言った。

 黒く、淡く輝く剣。

 その光に当てられたように、一列に並んでいた諸王の中でオカカが前に出た。


「新しく、ツノ族の王となりましたオカカ、王権の武器をここに」

「うむ、ソボロの末よ。獄棍ドライを出すがいい」


 先日作られたばかりの、しかし二千年前に作られた武器と寸分たがわぬ新作。

 ツノ族以外では、ダイ族ぐらいしか扱えぬ、巨大な金色の金棒。

 新しい王は、先日魔王から送られたばかりのそれを、魔王に奉げるように膝を付いたまま持ち上げていた。


「良き王として、氏族を守り育むがいい。その一助として、この獄棍ドライを目覚めさせる」


 ただでさえ金色に輝く武器が、反射ではなく発光を遂げていた。

 まぶしいというほどではないが、銀色の光を放つダイ族の斧の様に確かな光を放っていた。


「さあ、他の武器も目を覚ますがいい」


 初代ユミ族の王サジッタに送られた念弓フィーア。

 今はエリア王の手にある緑色の弓が目を覚ました。


 同時にカタ族のカナブ王が額にまいていた鉢金、猛帯フェンフも目覚め、ツキ族のケンチュウ王が腕につけていた鏡の盾、鏡盾ノインも無色の光を淡く放っていた。


「……む、どうしたツミレ女王」

「~~あ、ああ、そうでした。申し訳ありません」


 唯一武器を出していなかったハネ族の女王も、慌てて自分の足を貫頭衣の中に突っ込んで探り始めた。

 何やら、服の中にしまってそのままだったらしい。


「それで、魔王様……本当にこちらが我が氏族に送られた王権の武器なのですか?」

「無論だ、一番苦心して作り上げた自信作だぞ」

「さようですか……」


 何やら気をもみながら、彼女は器用に足でつかんでそれを出していた。


「うむ、ゼクス。実に懐かしい」


 全ての武器が揃ったことで満足げな魔王と引き換えに、初めてハネ族の王権の武器を見た面々は、青く輝くそれを見て唖然としていた。

 確かにそれは、鳥の手足を持つハネ族にふさわしい、取り扱いが無難そうなものではあったが、他の武器に比べて余りにもデザインが酷かった。


「なぜこのような試練を我が氏族に……」


 実のところ、常に王権の武器を携帯していたのは、歴代のダイ族の王とバラ女王とラッパ王だけだった。

 だがどの氏族も、自分達の王が王権の武器を与えられている、と言うことは知っていた。

 しかし、意外にもハネ族だけはそれが例外なのだ。彼らは王権の武器を代々の王が引き継いでいるものの、それを王位を継がなかった者には知らせていなかった。


 理由は単純、恥ずかしかったからである。


「ツミレよ、お主の先祖であるツアゲに送った、雲枝ゼクスが不満か?」

「不満しかありません」


 それは、神ならぬ故に凡庸な目しか持たない諸王には、少々太いだけで青い木の枝にしか見えなかった。

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