憂鬱と、ついでにノリノリ
各氏族の王たちは、憂鬱と言う言葉を知らずとも、憂鬱な感情のままに魔王の城へ向かっていた。
もちろん、長い時間在位している側近の二人の王は、カミ族の無大さや一種の残酷さを熟知しているし、ある意味では共感している部分もあるのだろう。なにせ、この大陸を開拓する前からの付き合いなのだから。
おそらく、他のカミ族ともバラ女王もラッパ王も、或いは彼らの氏族も、カミ族とそれなりに付き合いがあって耐性があるのかもしれない。
しかし、初体験した者たちの心は一つ。
知りたくなかった、そんなこと、である。
一度は自分が持っていた武器を目の前で壊されたネギミが一番痛感したことであるが、王権の武器がどれだけの効果を発揮できるとしても、それは作った魔王シルファーが凄いのであって、諸王が凄いわけではないのだ。
王権の武器の強化よりも、魔王に会わずに済ませたいという感情が大きい。
だが、彼からの招集を断る度胸もない。
五人の王は嫌々ながら、何とか前に進んでいった。
「ああ、皆さま! お待ちしておりました!」
いつものように、仰々しく大げさに、自分の翼を広げて喜びを表現するツミレ女王。ある意味当然だが、彼女は連絡などを請け負うハネ族なので、一切の案内なく誰よりも先に魔王の城へ赴くことができる。
だが、いつもは城の中で待機していたり、塔の上で風を受けていたりする。しかし、今回は律儀に門の前で待っていた。
いつも楽しそうな彼女であるが、今回は心細さを感じ取ることができていた。
「魔王様の御業を見てから我が心は嵐の中の一粒の雪の様。あちらこちらへ飛んで行ってしまいます。この大空の如き魔王様のお力に比べれば、我が翼など舞い落ちる木葉の様……」
詩的と言うか、劇の様な振る舞いに、大抵他の氏族は呆れるばかりなのだが、今回ばかりは極めて同感だった。
誰がどう考えても、魔王様に会いたくない。
少なくとも一人では会いたくないのだ。
「文明って怖いな……理屈のわからん道具って、マジで怖い……それを作れる奴が怖い……特に躊躇なく使う奴が怖い……」
マリーを連れているタロス王は、そんな誰にも通じない呟きをしていた。
ただ、怖いという一点においてのみ、誰もが賛同していた。
と言うよりは、彼のお気に入りであるマリーが、どうか魔王の機嫌を取ってほしいと祈るばかりである。
「ねえ、ちょっと手を握ってくれないかな~~」
「それは少々恥ずかしいものが……」
ツキ族のケンチュウ王は、余りにも不安すぎて色々と毛並みがしぼんでいる。濡れた犬のように痩せて見えていた。
そんな彼に縋られた同期のエリア王は、ユミ族の誇りに賭けてそれを断った。心細いものがあるのは、認めざるを得なかったが。
「やべえよ……」
長命種である魔人を除けば、随一の古株であるカナブは青ざめながら一言つぶやいている。端的ではあるが、全員の総意だった。
今の彼は、もしや自分はカエルにでも変えられてしまうのではないか、と言う懸念があったのだ。
実際にその道具を使用するかどうかはともかく、その道具が存在しない可能性も、その道具を作れない可能性も、誰にも否定できなかった。
「おお、諸王がおそろいで! 待たせちまったみたいで悪いなぁ!」
一番の新参者、ある意味幸運な男が胸に期待を膨らませて現れた。
野人特有の髭面で、金色に輝く金棒を背負った若いツノ族が現れた。
その眼には、諸王が失っている未来への希望が輝いていた。
「メザの件もそうだが、魔王様や他の王には色々悪いと思ったぜ!」
メザ、可愛そうなメザ。
確かに罪深かったが、あそこまで酷いことをされねばならないほど罪深いのだろうか?
あんな、尊厳を奪われねばならぬほどに彼女は罪を犯しただけなのだろうか。
「彼女は父と兄を失って悲しんでいました……それは特別なことではありませんが、大事なことです。それを主張する方法こそ間違っていましたが……」
マリーは嘆きが止まらない。
自分の先祖の恐ろしさが、留まるところを知らなかった。
正しく魔王なのだと、メザの名前を聞いただけで思い出してしまう。
既に、彼らを案内したミミ族は下がっている。
ここから先は王の領域であり、そこに踏み入れることは許されない。
挨拶を希望したシャケも、チウホウによって止められている。
ここは魔王の領域。
もしもこの場にいないもので、この城に赦しなく踏み入れられるものがいるとしたら。
それは、人間の覇者である聖剣の所持者だけだろう。
「ふふふ、懐かしいな」
そして、魔剣の製造者が現れた。
「聖剣がないのは残念だが、二千年を超えて尚、絶えた血はない」
少年の如き笑みで、尻尾を揺らめかせながら城の主が皆を迎えていた。
二人の王をそばに置き、カミ族の王にして魔王であるシルファーが堂々の登場を遂げていた。




