鉈と、ついでに格闘技
各村を一軒一軒丁寧に回り、鉈に関しても好評をいただいた挨拶巡り。
道中何度かトラブルもあったが、マリーが怪我をすることもなく、なんとか巡り終えることができた。
鉈が尽きたということで、一旦ユビワ王国に俺だけ出向く。
エンゲー女王に格闘技の使い手がいないか訊ねてみたが、生憎とその手の専門家はいないそうだ。
そりゃそうだ、滅亡寸前の国に、そんなもんいるわけがない。
「格闘技ねえ……」
「ああ、鉈なんだが皆に好評だったぞ。スパスパ切れるってな」
「そりゃよかった……まあ当たり前だけどな」
工房の前で、俺はアレックス君と相談していた。
鉈の使い勝手良かったことを伝えると、ずいぶん上機嫌になっているアレックス君。
女王曰く、最近は斧なども作ってくれているので、開墾がはかどっているようだ。
やはり、腕のいい職人というのは一人いると楽なのだろう。
彼もそこそこ満足そうだし、彼をここに連れてきたのは間違いではなかったようだ。
友人として嬉しい限りである。
「にしても、格闘技か」
「ああ、何か心当たりはないか?」
マリーの暮らしたバイル王国は、魔王領から離れすぎている。
加えて、彼女は箱入り娘でその手の事から遠かった。
エンゲー女王や他の住人にしても、情報の遮断された陸の孤島の住人である。世間の事にはとんと疎かった。
そこで、我が友アレックス君である。
諸国を営業回りする死の営業回り、デスマーチを敢行した意外な猛者。
怖いもの知らずともいうが、その辺りの経験が今は欲しいところだ。
まあ、半鳥族や森魔族に聞いてもいいのだが、半鳥族の場合上空からの情報だし、森魔族の場合情報が千年単位で古い可能性がある。
それに、余り他氏族に話を振りたくないのだ。国内問題、というか国内の文化に関して、他所の国に迷惑をかけたくないし。
「まあ、体術自体ないわけじゃないと思うが……道場とかジムとかがあったわけじゃなかったからな」
「ああ、やっぱりか」
当たり前だが、プロスポーツの存在しない世界で格闘技の指導者は、それこそ弟子から金銭収入を得ないと飯も食えない。
それはつまり、弟子側によほど金銭的な余裕がないと成立しない商売なのである。
格闘技って、基本ロマン以外にはあんまり使い道がないからなぁ。
もちろん、兵士はある程度習っているだろうが、その場合は門が広く開かれているわけではない。
それに、その場合の体術は武器を持っていることがある程度前提の体術になってしまうだろう。
第一、俺は安全な体術を習いたいのだ。戦場格闘技とか余りにも怖い。
「っていうか、どういう格闘技を習いたいんだ?」
「スポーツ化できるぐらい安全で健全な、急所狙いとか無い格闘技」
「逆に凄い話だな……」
そもそも、ノールールの格闘技など、客を喜ばせるためだけのものだ。
どんなに固く握りしめた拳も、素人のナイフには殺傷能力で大きく劣っている。
戦場に出て戦うこともある俺からすれば、態々無手で戦うのは剛人族以外にとって自殺だ。
ごく一部の英雄は別だろうが、そんなものを一般化できるわけがないし、多分同じぐらい努力するなら普通に武器使った方が強いし。
「第一、巨人族同士の格闘って普通に急所なしだしな」
「そうなのか?」
「やったらブーイングだ。特に王を決める戦いではな」
なにせ、仮に王になっても他の連中から袋叩きにされて即退位である。もちろん、玉座からではなく人生から。
何せ、文字通りタマナシになるのだから、そりゃあ一生恨まれる。
タマを潰すときは、タマを潰される覚悟がないと駄目だ。
というか、そんなことをしている暇があったら剣で首を切った方が早いしな。
「別に最強を極めたいわけじゃない、安全で安心が一番だろう」
「まあ、そりゃあそうだ。回復魔法も蘇生魔法もないしな」
すっかり歩けるようになった我が友は、違和感の残る己の足を撫でていた。
歩けない状態から歩けるようになったのだ、さぞありふれた日常に感謝しているに違いない。
正当防衛とはいえ、へし折ったこちらとしてはありがたい話だ。友の足を折った心の痛みも癒えていく。
「武術家の覚悟ってもんがないからな。普通に怒り出すぞ」
「そっちの方が嫌だな……」
「余計な怨恨はない方がいい、比較的でいいから安全な格闘技を習いたい。どうせ普通に殴り合ったって、死ぬときは死ぬんだからな」
「言ってもなあ……精々拳闘ぐらいだぞ」
アレックス君も早々都合よく知っているわけではないらしい。
まあ、そもそも武器屋を行脚してたんだしな。
早々都合よく、観光巡りなんてしてないか。
「そうなると……魔王様に相談か……あんまりしょっちゅう頼りたくないし、地道に自分の足で探すしかないか?」
「お前自分の事鏡で見たことあるか? お前がのしのし歩いてたら、それだけでアウトだろ」
「そんな奴を護衛にしようとしていたお前が言うな」
そっちに関しては、まあ当てがあるのだ。
どのみち、結果的には魔王の力を借りることになるんだが。
どっかに都合よく、格闘技の師範とかいないだろうか。
「そうそう、鉈なんだけどもっと作ってくれよ。あればあるほどいいからさ。さしあたり百本ぐらい」
「お前俺の事を何だと思ってるんだ? 無尽蔵に在庫があるわけじゃないんだぞ?」
「兵士に作るよりは少ないだろ」
「……うん、でもそんなには作れない」




