なんにもない領地と、ついでに巨人の斧
何故かやたらと俺に対して好感度の高いマリー。彼女との旅は、なんというか妙な心境だった。
俺にとっても彼女にとっても悪いことではない。悪いことではないのだが……心中は複雑である。
もしも、筋肉ムキムキで超デカい男が好きだったらどうしよう。
もちろん、それはお姫様としては好みの男に求婚されて幸せ、となるのだろうが……。
勝手な話だが、そんなお姫様は嫌だった。
なんというか、こう、このお姫様の好みとはかけ離れた存在でありたい。それが俺の偽らざる願いである。
我ながら童貞臭い(非童貞)、押しつけがましい願いだとはわかっているのだが。
「ここがタロス王の領地なのですか?」
「魔王領はだいたいこんなものらしいぞ」
道なき道を歩いて行く。
道路を作るという最低限のインフラもないこの魔王領は、強いていえばガサゴソと踏み荒らしてできていく道が進むべき道である。
日本では誰も歩いたことのない道を尊ぶ習慣があったが、今にして思えば馬鹿馬鹿しい。
誰かが歩いている道は、つまりは誰かが舗装している道だ。
というか、日本人が道と呼ぶところは、誰かが一生懸命維持している道なのである。
こんな歩きにくい道は、道とは言わない。
「生憎、公共事業なんて戦争ぐらいしかなくてね。当然道もなければ橋もない。不便で野蛮でどうしようもないところさ」
「……そ、そうですか? 自然が豊かだと思いますが」
無理に褒めないで欲しい。一応、エルフの斥候装束に着替えたマリーは、俺が抱えて移動している。ある意味、さらった時と同じ状態だった。
俺に抱えられている彼女は、まるで人形の様だった。
俺の図体とは何の関係もなく、軽やかで可愛らしい。
なんというか、気品と可憐さがあふれている。
まあ、同じ服を着ているアンドラは、また別のものを感じさせるのだ。
こう、凛々しさとか、生真面目さとか、仕事のできる女というか。
「自然が豊かねぇ……」
「私は城や神殿で過ごしていましたから、新鮮です。私の行く森と言うものは、どこも人の手入れのされたところですから」
「新鮮なのは今の内だけだ、じきに飽きる」
三メートルを超える俺の上背よりも、流石にこの辺りの木は大きい。
広葉樹林というか、雑木林と言うか、手つかずの自然地帯は何というかムカつくぐらい広くて歩きにくい。
ジャングルのような熱帯地方の如く、足元に無秩序なほど背の低い草木がある、と言うわけではない。
しかし、とにかく木の根が地表に出ていて、歩きにくいのだ。
「食える木の実、とかもないわけじゃないが、品種改良も何もされてないからな……不味くて食えたもんじゃない」
もちろん、俺の言っていることの方が無茶だということは理解している。
縄文人にフランス料理を持ってこい、と言っても誰も叶えられないだろう。
その場合、悪いのは俺の頭だ。
「マリー、『巨人族』について知っていることはあるか?」
「……ダイ族に関しては……」
「人間は巨人族って呼んでるんだろう? それでいい、気を使うほどの相手じゃない」
「はい……巨人族は亜人の中でも最大で、人の二倍ほどもあり、鬼人族よりもさらに大きいとされています。防具を身に着けることもなく、獣の毛皮を服として、木を雑に加工した棍棒を使って戦争をすると聞いています。例外は貴方のように、王であるものは……『斧』を使うとか」
まあ、そんな知識しかないのは当たり前だ。だって、人間にとって巨人族とはそういうものだ。そもそも、国交がないから細かい社会形式など知り様もないし。
「彼らの文化に関しては、研究自体がされていません。おおよそ、洞穴などを利用しているだろうという推測ぐらいしか……」
「それであってる。俺だって、一人で穴にこもったしな」
哀しいかな、巨人族とはその程度の生き物なのだ。
なんというか……底が浅い。複雑な文化とか人間関係なんてない。
日本猿だってもう少し賢いと思う。
「とにかく野蛮で、体が大きくてケンカが強い奴が偉いと思っている」
「に、人間にもそう思っている方はいらっしゃいますよ?」
「全員だ、巨人族は全員がそう思ってる」
木漏れ日のなか、森林浴、というのなら俺も文化的な行為として喜べる。
が、村を回って猟をするという、なんとも原始的な行為に身を投じねばならない自分が嘆かわしい。
もっとこう、嫁さんに誇れる領地や領民であってほしかった。
「そ、そうですか……」
「気にしないでくれ、俺はマリーに一目ぼれをした。小さくてか弱い、綺麗な君の事が好きだ……うん」
恥ずかしい!
顔を赤くして、背けてしまった。
滅茶苦茶恥ずかしいな、俺と言う存在が。
「だ、だから、その、気にしないでくれ」
「お上手ですね、タロス王」
目ぐらいしか見えないが、マリーは笑っていた。
髪も隠してあるが、それでも美人だとすぐわかる。
いいなあ、何故こんなに好感度が高いのかわからないけど、いいなぁ。
「それで、狩りはどのようにして行うのですか?」
「獲物の食べる植物の群生地がいくつかある。そこに出向いて、興奮して襲い掛かってきたところを叩く」
もちろん、言うほど簡単ではない。
逃げる獲物もいるし、群れで襲い掛かってくる獲物もいる。
そもそも、その群生地に定期的に現れるか、という話もある。
「ただ、今回はアンドラがいるからな」
「ご期待に添えるよう、努力いたします」
さて、言うまでも無いが狩猟で一番大変なのはクソが付くほど広い狩場で、獲物を効率的に見つけることだ。
ゲームだったら画面にマップが現れたり、或いはレーダーでもあるかのように敵の居場所が表示されるが……生憎と、現実はそうではないわけで。
特定の時間、特異ての場所に行けば必ずその獲物がいる、という世界ではないのだ。
「アンドラは森魔族、ミミ族だ。半狼族、ツキ族と並んで狩猟が得意でな、小さな野兎も見つけ出す」
「お戯れを……ダイ族やツノ族のように大物を狩れるわけではありません」
「そう言うな、こっちは基本力づくだ」
既に、数人のエルフ、アンドラの部下が獲物を探し始めている。
もちろん、野兎なんて捕まえる気は一切ない。そもそも巨人族は野兎なんて食べないし。
探すのは大物である。熊とか猪とか、そういう大物だ。そうじゃないと、腹の足しにもならない。
「む、先導しますので、こちらへどうぞ」
「音は立てていいか?」
「お気になさらず」
まあ、巨人族が走って音が出ないわけがないのだが。
エルフたちは人間から森魔族と呼ばれ、自分ではミミ族を名乗っている。
どんなに躰を隠しても、耳だけは出しているのは、その聴覚によるものだ。
今彼女がいきなり走り出したのは、単純に部下から呼ばれたからだ。
いわゆる可聴領域が違うらしく、エルフは他の種族に聞こえない声で叫んだり会話したりできる。あるいは、草笛などで呼ぶことも可能らしい。
その辺りは、別の種族と言うことと、今まで接点がなさ過ぎてわからん。
もちろん、伝聞である。巨人族に本も字も紙もないのだから。
「この先に獣道があり、大きな猪が数頭並んで歩いているとのことです」
「そうか、それは都合がいいな」
「あの……狩りというものは、弓矢などを使うと聞いたのですが」
と、もっともなことを言う。
だが、あいにく巨人族が弓矢なんて文明的な物は作れません。
というか、亜人全体の中で弓矢を使ったり作ったりするのは、ユミ族だけである。
あいつら、自分達の事をユミ族と言うだけあって、他の亜人が弓矢を使うところを見ただけでキレだしたりする。
その辺りに気を使って、ミミ族も吹き矢ぐらいしか使わない。
まあ、隠密性は高いと思うのだが、どう考えても不便である。
「大丈夫だ、ここいらの動物は非常に気性が荒いからな」
必要は発明の母と、人は言う。
仮に地面からにょきにょきと、完成されたパンが生えてくるならパン屋なんて成立しない。そもそも、パンを『作る』意味がないのだ。
同様にして、巨人族が棍棒だけを武器にして、投石さえしないのはそれなりの理由がある。
木々がうっそうと茂っているとか、そう言う問題ではなく……。
ひたすら単純に、この辺りの獣は非常に血の気が多いのである。
※
大きい猪がいると聞いて、さて、マリーはどの程度の大きさの猪を想像しただろうか?
大きい犬程度だろうか、牛や馬ぐらいだろうか?
もちろん、俺はこの世界の猪に対して深く知っているわけではないのだが……。
生憎、この地方のデカい猪は小象ぐらいデカい。
俺からすれば見下ろす高さだが、明らかに体重は俺よりも重い。
それが五頭ほど、ウリ坊を連れて獣道を歩いていた。
その前に、斧を担いだ俺が立ちふさがる。
「こりゃいい獲物だ。少しは足しになるだろう」
RPG風に言うならば、目の前に暴れ猪が現れた! というところだ。
もしくは、目の前に巨人の王が現れた、というところか。
言うまでも無いが、この土地では巨人は普通に生息している現住生物である。
よって、猪たちにとっても、自分達を見下ろす変な二足歩行の相手も、知っている相手だった。
まず、大きな牙をだして、荒い息を吐いて、こちらを威嚇していた。
当たり前だが……大分臭い。
雑菌だらけの牙をむき出しにして、泥まみれの体を震わせている。
臭い。
こいつらが主食と言う時点で、巨人族の文化レベルが計れるというものだ。
まあ、こいつらばっかりと言うわけではないのだけども……!
「さあこい!」
斧を振りかぶって、逃げない意思を表明する。
すると、猪は猛烈な勢いで襲い掛かってきた。
それも、五頭の猪全部がである。
なんというか、猛烈な勢いで木の合間を縫いつつ突撃してくる。
言うまでもなく雑食性の猪たちは、俺を殺したら普通に喰うだろう。
全体重を、全力でぶつけてくれば、流石の俺も持たない。
しかし、此処は森の中。
流石に木々をなぎ倒すほど猪は無茶苦茶な生き物ではない。
木々をあらかじめ見ておけば、相手がどんなルートで動くかなど直ぐに解る。
「まず、一頭!」
そして、木々の中で微妙に動いて、一頭ずつしか突っ込んでこないように調整しながら……振りかぶった斧を、飛び上がりながら振り下ろした。
金属製の斧に、俺の全体重が込められる。
大抵の弓矢では射抜けず、剣や槍でも貫けないほど頑丈な猪。
その頭を、俺の一撃はカチ割っていた。
「次は……!」
もちろん、頭を砕かれれば猪も普通に死ぬ。
とはいえ、地球の常識で言えば残った猪たちは逃げるだろう。
だが、無駄に闘争心旺盛な猪たちは一向に逃げようとせず俺に襲い掛かってくる。
その猪たちを、巨人族の中でも狩りが上手と言われる俺は、軽々と頭を踏みつぶして回避しながら、一頭一頭頭を割っていく。
もちろん、他の巨人族はこんなことをしない。
数人で抑え込んで、死ぬまで棍棒でブッ叩くという原始人よりバカな作戦だ。
これが成立しているのは、ここいらの野生動物がRPGの敵並に、血気盛んで最後の一頭になっても逃げないからだ。
さほどてこずることもない。
数分であっという間に猪たちの頭を叩き潰し終わっていた。
「お見事です、タロス王」
と、音もなく現れるアンドラ。
ひと暴れした俺に、水筒まで差し出すあたり、仕事のできる女である。
「なに、バカの相手は楽だって話だ」
落とし穴程度の知恵も不要な狩りである。
そりゃあ巨人族も棍棒一つで生きていくだろう。
「見事な斧さばきでした!」
と、なぜかマリーは喜んでいる。
何が嬉しいのだろうか、俺にはわからない。
毛皮を着込んだ大男が、奇声を発しながら斧で猪を仕留めただけだ。
それの何が楽しいのだろうか。お世辞ではなく、彼女が本気で嬉しそうなことが、少し怖い。
平常な感覚として、ここは失神するべきではないだろうか?
「ああ、アンドラ。近くにいくつか村、洞穴があるはずだ。男連中を集めてくれ」
「承知いたしました」
こういう時、本当にこう、できる部下がいると楽ができる。
アンドラが軽く口元を動かすと、それに合わせて散開してたエルフたちが離脱していく。
俺一人だったら、まず猪を探すにもそれなりに時間が必要で、更にはそこから各村の連中を呼ぶ手間が必要だ。
さらに言えば、連中は分け合うという精神が著しく欠如しているからなぁ……。
「これから巨人族、俺の氏族の連中が来るんだが……いいか、口を開いちゃいけないぞ?」
「……妻と紹介してくれないのですか?」
「そういう問題じゃないんだ、頼むから黙っていてほしい」
ほどなくしてアンドラの部下に導かれて、各村から四人ほどの男たちが現れて……。
結果二十人の巨人族が猪を前に喜んでいた。
「いやあ、流石タロス王だ!」
「ああ、こんな大物をくれるなんて、太っ腹だ!」
「さすが、戦争でも大活躍しただけの事はある!」
ひげ面で、くっさい息をして、そんな連中を目にしてマリーがやや驚いていた。
すまない、マリー。俺の氏族って基本こんな奴らだから。
比較的若い連中、戦争に参加しなかった子供も、既に髭を伸ばし始めている。
要するに、そういう風習なのだ。
まあ、その辺りは別に許せるのだが……。
「それじゃあ、俺達はこの一番の大物を!」
「まて、それは俺達のものだ!」
「何を言ってやがる! それはだな!」
と、猪の取り合いを始めていた。
もちろん、誰かに譲るという精神は持ち合わせがない。
「俺の村が一番子供が多いんだ!」
「俺の村が一番近いんだよ!」
「俺の村は働き手が死んじまったんだぞ!」
「俺の村には腹がでかいのが何人もいるんだ!」
「俺の村だってケガしてる奴ばっかりなんだよ!」
げんなりするような言い合いが始まった。
もちろん、止めなかった場合は殴り合いぐらいにはなるし、村人総出でちょっとしたケンカになることもある。
もちろん、巨人の喧嘩なので、死人だってでる。
「お前ら、ミミ族の前でみっともない真似をするな」
まず一喝する。
とりあえず、俺とケンカをするつもりはないのか、全員黙った。
「働き手が一番死んだ村が、デカいのを持って行け」
「や、やったぜ!」
もちろん大岡裁きをするつもりなど一切ない。
俺はとりあえず、一番戦死した村を優先した。
「ちょ、ちょっと待ってくれや!」
「ああ、そりゃあんまりだぜ!」
「タロス王! ウチだってしんどいんだ!」
「アイツらばっかりずるいだろ!」
なんというか……情けなくなってくる。意気揚々と一番大きい猪を運んでいく村の連中を羨みながら、他の村の連中は俺に抗議していた。
流石に、目の前で一番大きい獲物を持っていかれれば、腹が立つのだろう。
「なるほどな、残りは要らないと?」
まだ取り分は残っているが、彼らには不要なのか、と臭わせる。
流石にこれ以上減ってはたまらないと、再び黙っていた。
「どれも大してかわらん。ただし、取り合いをするならこれは他の村に持っていくか、俺が食べるぞ」
そうすごんでやると……ようやく猪を抱えて、彼らは帰っていった。
※
「悪いものを見せたな」
その日の夜。薪を囲んで、俺はマリーに謝っていた。
今日の晩御飯は、さっきの猪の子供、ウリ坊である。これはアンドラたちが捕まえていてくれていた。
肉の量は少ないがそれでも数が多いので結構な量で、巨人族が俺一人である以上、そんなに問題にはならなかった。
「刺激が強かっただろう?」
「そ、そうですね……ですが、民衆も、人間もああやると聞いています」
それはそうだろう。
別に俺だって、人間は高潔で完璧で、いついかなる時も冷静かつ理性的に振る舞えるわけじゃないと理解している。
特に、この時代では俺みたいに考えている奴の方が希少で奇特だとわかっているのだ。
「そうだな、衣食を足りて礼節を知る……自分だけじゃなくて、子供や妊婦が腹を空かせてたら、そりゃあ思うところぐらいあるだろうさ」
という一方で、控えているアンドラを見る。
こいつら森魔族が、そんな風に取り乱したり見苦しいところを見せるとは、余り思えなかった。
というか、そうなったらいよいよ幻滅であるのだが。
「仕方ないのは分かっている。なんだかんだ言って、気が立ってるんだろうさ」
「エリックのせいですね……」
聞いたことのない名前が出てきた。
人間だろうが、誰だ?
「先日の戦争を仕立てた、私の婚約者です。おそらく、もう生きていないでしょう」
え、居たの婚約者。
まあ、居ても当たり前だけど。
少し驚く話だった。
「あの人は野心家でした。森魔族や半鳥族の目を掻い潜る作戦を提案し、諸国をまとめて貴方達を支配し、亜人の領地を得ようとしたのです」
なるほど、そりゃあまあ、そういう奴がいないとあんな連合軍は起きないのか。
ふと、エルフたちを見る。皆がやや昂っているようだった。
おそらく、出し抜かれたことに腹を立てているのだろう。
「私には難しいことは知らされていませんが、諸国もそれに賛同し魔王軍を滅ぼそうとしました」
倍以上の数に囲まれる。そんな最悪の状況だった俺達も、人間から見れば最高の状況だったのだろう。
「ですが……私はさらわれ、更には私の護衛を務める諸国の貴族の子女も……いえ、言うことではありませんでしたね」
「気にすんな、どっちもどっちだ」
大体こっちの指揮を執っていた魔王の息子にしても、似たような心境だったのだろうし。
「エリックは失敗しました。私の婚約者であること以外、なんの後ろ盾もない彼です、今頃責任を取らされているでしょう」
命一つじゃ足りないだろうな。
電気椅子とかギロチンとか、そういうお優しい処刑方法ではないのだろう。
じわじわいたぶるどころか、全力で痛めつけてから殺そうとするはずだ。
いや、どちらかと言うと全力で痛めつけてその内死ぬとか、そんな感じだな。
「まあ、仕方がないとはいえ人道的じゃないな」
もちろん、亜人だろうが何だろうが、侵略して支配しようとしたんだから当然の帰結だろうけども。
もっとも、こっちだって人間を相手に略奪とかしてるから偉そうなこと言えないし。
「怒らないのですか?」
「別に? こっちもそうだが……どうせ皆戦争がしたかったんだろう?」
彼女が言ったように、諸国の王様方も戦争をしてもいいと思ったんだろうさ。
そうでなきゃ、エリックってやつが煽っても、誰も応じなかっただろうさ。
全員じゃなくても大多数が戦争をしたいと思った。それだけのことだ。
「俺達だって、防衛だけじゃなくて略奪も視野に入れてたさ。だから追撃したんだ」
戦争なんてそんなもんである。
そして、そんなもんが原因で、巨人族も大分死んだ。
だから気が立っている。
「達観する気はないが……エリックって奴を一々怒ったりしないよ。強いて言えば、君がそいつのことを好きなのかってことさ」
そいつがどんな奴だったとしても気にしないが、惚れていたのならそれはとても嫌なことだった。
なにせまあ、その場合マリーは演技か尻軽と言うことなのだから。
「いいえ、彼は……魔剣を得ただけですから……正直、嫌悪さえ感じていたのです」
魔剣か、なんともファンタジーな設定である。
剣から火が出るところとか、俺は見たこともないのだが。
精々俺の斧同様に頑丈で切れ味がいいぐらいなのだろう。
「タロス王」
「なんだ?」
「貴方は、ご自分の斧の曰くをご存知ですか?」
そう聞く彼女の目は、とても真剣だった。