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ケンカの極意と、意外な盲点

 さて、ケンカであるが留意すべきことがいくつもある。

 端的に言って、後遺症が残るような怪我をしてはいけないし、後遺症が残るような怪我をさせてもいけない。

 ある意味では、これが一番重要である。


 言うまでも無いが、この世界に回復魔法も蘇生魔法も万能薬もない。

 もしかしたらあるかもしれないが、それに期待することが間違っている。


 今目の前にいるゴリアテはこの村の有望な働き手であり、仮に彼が死んだり大怪我をした場合、ようやく安定してきたこの村の暮らしが一気に悪化する。

 それを避けるために、彼には最悪でも気絶程度に収まってもらう必要がある。


 故に、なんかのマンガやアニメみたいに『あれ、やりすぎちまった』とか『え、これぐらい普通だろ』とかそんな風に過剰な攻撃をしてはならない。

 もちろん『これが実戦だったら、お前は死んでたな』とか『気を抜くな、お前が仕掛けてきた戦いだろう』とか、変に残虐な真似をしてはならない。


 かと言って、背中を向けて逃げ出すこともできないし、ガードを固めて受けに回ることもしてはならない。

 俺は王なので、正々堂々真正面から戦って勝たねばならないのだ。


 では、向かってくる相手に対して、俺はどうすればいいのか?

 何度も言うが、俺は別に古武術をやっていたわけでもないし、格闘技をやっていたわけでもない。

 だが、巨人族に生まれた者として、ケンカの経験は実に豊富だ。

 加えて、格闘技というものがあるということ、それ自体は知っている。

 だからこそ、こういう時にどう戦えばいいのかはちゃんと想定している。


「っは!」


 俺がゴリアテの顔にたたきつけたのは、張り手だった。

 もちろん、俺に相撲の経験はないし、相撲そのままの体勢と言うわけでもない。

 多少踏み込んでいるが、腰を大きく落としているわけでもない。

 巨人族の中でも一番大きい体格を活かして、向かってくる相手を押し返していく。

 重く打つのでも、鋭く打つのでも、沢山打つわけでもない。押し返す。


「こ、この!」


 刻むような軽いジャブでは、全体重をかけてぶつかってくる相手を押しとどめられないし、間合いを詰められるとリーチの差が活かせない。

 かと言って、走ってくる相手に勘で距離を測って殴る、という行為もそれなりにリスキーだ。

 だからこそ、押し込む。とりあえず、相手の足を止める。踏みとどまらせる。

 単純に俺の方が大きく、単純に俺の方が重い。だからこそ、俺が押し込んでいけば相手は足を止める。

 どうしようもなく、顔をガードする。


 これが殺し合い、素手で相手を殺す、となれば相手の頭を抑え込みつつ両目に親指を突っ込んで失明させる、という手もある。

 だが、そんなことをすれば、彼は働けなくなってしまうし、村から苦情が来るだろう。

 だからこそ、ここでは、ローキックである。


「ふん!」

「いでぇ!」


 やや遠い間合いのまま、腰の入ったローキックを外側から叩き込む。

 頭をガードし踏みとどまっているので、そのままきれいに入る。

 習得が難しいハイキックとか、蹴り脚の起動が変わるなんちゃら蹴りとかは必要ない。

 ミドルキックで胴体を狙ったり、ハイキックで頭を狙った場合、打たれ強い巨人族は蹴った足をつかんでしまうだろう。

 格闘漫画の登場人物であれば、つかまれた足をそのままに、軸足一本で飛び上がって反撃、と言うこともできるだろうがそんなことを練習してもうまくいかなかったらそのままである。

 なんでそんなことを練習しなければならないのか、指導者もいないのに。


「ふん、ふん、ふん!」


 左右の足を、内側から外側から蹴っていく。

 もちろん、場合によっては折れることもあるだろう。

 だがそれぐらいなら添え木でもしておけば、ある程度は治る。


 してはいけないのは、組技で関節を極めて、そのまま折ることである。

 そうなったら、一生不自由なままだろう。そんなことをすれば、恨まれないとも限らない。

 殺し合いならともかく、衆人環視の戦いでそんなことはする必要がない。


「い、いっでえ!」


 赤くはれた足が、力を失って震え出した。

 本人も闘志が萎えてきている。

 良い傾向だ、もう一押しで倒せるだろう。


 ここで、金的攻撃をすることもできる。

 だが、そんなことをしたら、まあ言うまでもあるまい。

 思いっきりぶん殴って倒して、頭を踏みつけたり蹴っ飛ばしたりもできる。

 だが、そんなことをすれば流石に死ぬだろう。そこまでする必要はどこにもない。


 結果的に死ぬのは仕方ないが、やりすぎて殺してしまうのはアウトだ。

 なので、フック気味に掌底を頭にたたきつける。体重を込めて、重く打つ。

 張り手の様に押す打撃ではなく、倒すための打撃だ。


「うあ……」

「おら」


 ふらついたところに、腹部への前蹴り。

 それだけで、ゴリアテはあっさりと尻餅をついていた。


 スリップかダウンかは審判次第だが、生憎この戦いに審判はいない。

 よって、俺はこれ以上こじれる前に、彼へ背を向けてマリーの所へ向かった。


「ま、まてよぉ……」

「もう止めろって!」

「ありゃ強すぎる!」


 まだ負けてないと立とうとするガキ大将へ、取り巻きの同世代が集まって押しとどめた。

 意地だけで戦おうとするのは結構だが、もう体がもつまい。

 そして、仮にここから大逆転をしたとしても、そのダメージは翌日以降も持ち越すだろう。

 だからこそ、周囲の大人もゴリアテを止めていた。


 チキンっぽい戦闘だが、俺が一方的に攻撃し続けていたので、はた目には圧倒的な力でぶちのめしたようにしか見えないだろう。


 これが俺が巨人族の王になった、ケンカの基本である。

 体格が優れているのなら、体重が重いのなら、手足が長く、筋肉が満載なら、態々危険な行為をする必要はない。習得が難しそうな技を使うこともない。

 習得が簡単な技を、失敗しても問題ない技を、普通に使って相手を倒す。


「どうだった、マリー。多少は見直したか?」

「その、タロス王、その体術を教えればいいのでは?」

 

 その発想はなかった。

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