巨人族の村と、ついでに覚悟
現地を見てマーケティングをしようと言うアレックス君の提案はもっともだった。確かに俺が巨人族をきちんと見ていないことは事実だし、どのみち何かを啓蒙するなら深く関わらねばなるまい。
と言うことで、一旦情報を集めよう。村を回るのは王の仕事でもあるのだから。
ということで、マリーも連れていく。正直、彼女からの意見も欲しいのだ。
「ということでだ、マリ―。アレックスとも相談したんだが、とりあえず現地視察しようと思う」
「現地視察……」
現地視察、という言葉に恐れおののいているマリー。
アンドラもユリさんも、似たような感じだ。まあ、気持ちはよくわかる。
俺だって、俺以外の巨人族からクールビズとか言われたら困るしな。
お前ら半裸がデフォだろ。
「彼らが求めている物でもなく、彼らに必要な物でもなく、彼らが受け入れてくれる物を探したい。君の意見も欲しいんだ。それに、一回君にはダイ族の生活を見て欲しい」
「まあ……気を使っていただいてありがとうございます」
なんか、マリーは巨人族の生活を知りたがっていた。
見て楽しいものではないし、参加すれば尚楽しいものではない。
しかし、一度体験した方がいいだろう。無理解は理想の押し付けになってしまうのだから。
駄目になって帰ってしまっても、それはそれで仕方ないだろうし。
幸いこの屋敷の中では、彼女の暮らしはそう悪いものには思っていないようだし。
最悪、ユビワ王国にかくまってもらうこともいいだろう。
選択肢の多さは、いつだって心に余裕を持たせてくれるものだ。
とまあ、そんな理由で俺はマリーとアンドラを連れて、各村を見て回ることにしたのだった。
※
「おっ、タロス王じゃねえか!」
「なんだ、例の鉈か! ありがとうよ!」
「こりゃあいいぜ、握ってみろよ!」
何気に、巨人族が人間の道具を使いたがらないのは、体格が違いすぎて使いにくいからである。
実際、俺も食器を使ってて結構うまくいかなかったりするし。
子供用の食器、と思えば大体想像できるのではないだろうか。
さしあたり、と一頭の猪を運んでいる俺に巨人族の若いのが話しかけていた。
俺よりも若いので、幼いに分類されるのかもしれない。
「また獲物を配ってくれてるのかい、悪いねえ」
「今日は他の村の連中はいねぇな」
「そうか、鉈配るついでってか!」
新品の鉈を振り回して上機嫌である。
素人の打製石器と専用の金属器では、そりゃあ便利さが違うだろうしな。
村に一つしか配らないつもりだが、きっと重宝してくれるだろう。
もちろん、野ざらしにされてそのまま、と言う可能性もあるのだが。
物を大事にしない奴らだからなぁ……。
砥石の配給とその使い方ぐらいは教えた方がいいかもしれない。
「ああ、ついでにお前達の村でも見に行こうと思ってな。良ければ晩飯でも、と思っていたところだ」
「「「え?」」」
ものすごくびっくりしているガキども。
まあ、気持ちはよくわかる。
今までとことん村に立ち寄りたがらなかったし、立ち寄っても殆ど不機嫌だったからな。
なので、こうやって積極的かつ友好的な接触は驚いたはずだ。
というか、人間の嫁さんまで捕まえたし。みんなの前でお披露目もしたからな。
そりゃあ、普通は今まで以上に疎遠になると思うだろうさ。
「不満なら、この獲物と一緒に隣の村に行くつもりだが」
「いやいや、不満なんて、なあ?」
「おう、大歓迎だ!」
「こりゃあ歓迎だな!」
俺から猪を受け取ると、皆が意気揚々と村に向かって歩いて行く。
そんなに喜ぶことでもないと思うんだが。
「受け入れてもらってよかったですね」
とことこと、俺の足元についてきているマリー。
確かに、まあ悪いことではないだろう。しかし、それはそれでなんか嫌だな。
我ながら、理不尽極まりない話である。
「アンドラ、マリーが具合を悪くしそうだったら、その時は頼んだぞ。最悪、邸まで連れ帰ってくれ」
「受けたまわりました」
「……そんなに、危険ですか?」
「色々と不衛生なんだ。だから、君の健康を害するようなことには、極力気を使いたい」
はっきり言って、文明人には過酷すぎる環境だ。
生水や地べた……体を洗わない住人、汚臭……マリーを守らねばなるまい。
そして、俺も嫌だけど我慢せねば!
「行くぞ、巨人の村へ!」
「タロス王、貴方の氏族では?」
「そうだけども……」




