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問題点の洗い出しと、ついでに縁談

「おら出来たぞ、ダイ族用に鉈を二十本だ」

「ああ、悪いな。今度熊でも持ってくるよ」

「現物かよ?!」

「仕方ないだろう、ウチは通貨経済を導入してないんだから。一応すぐにでも食べられるように、加工してから持ってくるよ。っていうか、この街の刃物の原料って、俺がミッド平原から回収してきてる兜や盾とか剣なんだが」

「材料持ち込みしてるからにしろとか、お前鬼か?!」

「巨人だよ」

「いやそこはダイ族だ、でいいじゃねえか」


 俺には少し握りが小さいかな、という程度の大きさの鉈を、我が友アレックス君に作ってもらった。

 見た感じ大変頑丈そうで良い。一応、錆びにくくしてほしいとは頼んだ。どうやって加工したかまでは知らないが。


 対価は通貨ではないのだが、そもそも完全に人間社会から隔離されたこの街で、今後通貨がどの程度の意味を持つのだろうか。俺にはわからない。

 おそらく、税収は年貢で賄われるのではないだろうか。

 一つの街で使うために、態々通貨を鋳造するとか手間すぎるしな。


「でも、お前さ、税収もないし不信任案も元老院もないのに、なんでそんなに精力的に働くんだ?」

「リコールやクーデターがあるからだ」

「……そりゃそうだ」


 長老衆ともなると、働かなくていい、とかそういう扱いになる。

 だが、王とは現役の働き手なので、全く働かないと物理的に襲い掛かってきて、ぶっ倒される。

 仮に任期を終えても、体が弱ったあたりで報復されることもあるのだ。

 もちろん、法律らしい法律のない原始の社会では、罰の基準などない。

 法律を守る必要はないが、法律が俺を守ってくれるわけではないのである。


 昔は法律とは上の人が押し付けてくるものだと言っていたり、なんでそんなものを守らなきゃいけないのかと思っていたが、実際に法律のないところに来ると自分の身は暴力で守らないといけないわけで。

 そして、暴力とは人数である。社会の中で生きていくには、法律が無くても他人に気を使って生きて行かねばならないのだ。

 そして、法律を悪用されて搾取されたり、或いは法律を破って搾取される側の人間は、法律が無くても搾取されるのが当たり前である。

 法律は弱者のために存在する。もちろん穴が多いのは事実だが、だとしてもないよりはだいぶマシなのだ。


「ところで相談なんだが、巨人族の為に何かこう、残したいと思ってるんだが……その辺り、何か案とかないか?」

「すげえざっくりしてるな……」


 そんなこと言われても、と言う顔をしている我が友。

 確かに、俺だってそんなことを言われたら困る。

 自分で言うのもどうかと思うが、相談内容が漠然としすぎているし、そもそもこいつは生産職で会って政治職じゃないし。


「ダイ族でも維持できるもの……文字が無くても何とかなる……あるのか?」

「ないか?」

「だってお前、文字も数字もないところで、正しく知識が伝承されるのかよ」


 確かに、それは言える。なにせ字がない、紙がない、粘土板がない、パピルスがない。そんな状況で何を教えても、曖昧というかいい加減な伝聞にしかならない。

 アンドラも言っていたが、細かい数字として基準を平均化しないと、誰でもできる学問にはできないのだ。


「……楽器でも作るか? いい加減でも困らないだろう」

「太鼓でもなんでも……作ったとして、曲は?」

「どっちも作れないか……」


 別にバイオリンとかピアノではなく、それこそ太鼓やら笛やら、比較的簡単そうな楽器を作るとしても、まず俺達が作れない。

 それを巨人族に教えたとして、作ってくれるかわからない。

 っていうか、曲とか歌とか作らないといけない。

 思いのほか、音楽は文化として上等なようだ。


「実際、俺ができることがあるか、って話だしな」

「お前、なんか教えられることあるのか?」

「……ケンカ?」

「蛮族だな」


 実際、俺が他人に何かを教えなくてはならない、と言うのはハードルが高い。

 仮にこれから習うとしても、それをさらに他の巨人族に教えないといけないわけで。


 逆に考えて、俺が教われるレベルの事じゃないと、巨人族が覚えられるわけもない。

 果たして、それは可能なのだろうか?

 なんか、改めて無理難題な気がしてきた。

 俺が頑張ればいいというものではなく、巨人族が自主的に頑張りたいと思ってくれないと意味がないわけで。


「料理はどうだ? こう、多少美味しい料理の作り方とか」

「鍋がないしなぁ……土器ももらいもんだし……下手に野草を料理に組み込むと、面倒なことに……っていうか、料理したがるか?」

「それってもう、原始人どころか野生動物じゃねえか」

「多分、分類的にも似たようなもんだし」


 問題を整理しよう。

 俺が巨人族に残したいことは、巨人族単体で維持管理できるものでなければならない。

 それにはいくつかの条件がある。


一 道具が必要な場合、その道具を巨人族が作れる。

二 文字や数字が無くてもある程度問題なく伝承できる。

三 巨人族が興味を持って、自分から積極的に習う事柄。

四 習得にも実行にも、そんなに時間がかからない。


 一は技術レベルの問題だ。巨人族は旧石器時代レベルなので、そこを一気に上げるとなるととことん難しい。

 二は精度の問題だ。医学などその典型で、『正しい知識』が多少でも歪むと薬も毒にしかならない。

 三は心理の問題だ。他の氏族とも付き合いのある巨人族は、それでも自分たちの生活を満喫している。そこに余計な物は組み込みにくかろう。

 四は時間の問題だ。あんまり長期間にわたる作業は、夜になるとすぐに寝る連中には負担が大きい。


 真面目に考え出すと、やっぱり文明って偉大なんだなって……。

 先人の積み重ねに感謝しつつ、しかし積み重ねてない先人にがっくり来ます。


「分かってたことではあるが、難しいな……」

「もう諦めたらどうだ? 正直、俺だって他人に刀の作り方とか教えられる自信ないし」

「お前、それでよく出世する気になったな……」

「ーーーだな」


 出世するということは、下に人がつくということで、きっと弟子入り志望者が続出するだろう。

 でも弟子には何も教えません、じゃあ意味がないわけで。

 ひたすら自分で作り続けて、上から命じられて休むこともできなくて、いくら給金をもらっても使う暇がない。


「……ブラックだな」

「社畜だな」


 俺とアレックス君は、アレックス君が目指していたものを理解してげんなりした。

 多分、彼が目指していたハーレムなど、夢のまた夢。きっと、女の子とイチャイチャする暇などない。

 結局、替えの効かない個人というは、必要とされた場合とんでもなく忙しくなるのだろう。

 第一、超一流の武器職人で、技術の伝承ができないなら、それこそ死ぬまでこき使われるだろうし。備蓄の為に。


「過労死も文化なんだな……」

「嫌な文化だな……」


 そう考えると、生産職がチートで出世すると面倒なだけなのかもしれない。

 というか、よほど好きじゃないと成立しないよな。

 嫌になってもやめさせてもらえないと思うし。


 結局、魔王様のおっしゃる通り、戦争の道具を生産して名を上げても、それは汚名であり栄光は無いんだろう。

 こうして田舎で包丁職人やって、それなりにいい生活ができれば、それが良いに違いない。


「もうぶっちゃけさ、お前一回ダイ族の村を回ったらどうだ? 疑問点とか解消しないといけない点があるんじゃないか?」

「そればっかりだからな……」


 正直改善しないといけない点が多すぎて、手の打ちようがないのが現状である。

 だが、それでも諦めるよりはマシだろう。

 それに、丁度用事もできたことだし。


「それじゃあ、鉈を配るついでに実地調査することにするよ。ありがとな」

「ああ、俺の鉈の方こそなんか意見があったら教えてくれ。それから……」

「なんだよ」

「ヨル族の女の人、一人でいいから紹介してくれ」

「……」

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