避妊文化と、ついでに困った王様
ユビワ王国の住人が移住を終えてから二ヶ月が経過し、建設的な行為が成果を上げていると、こちらも嬉しくなってくるものである。
エンゲー女王を始めとして、多くの人々が成果の見える行動に勤しみ、充実した日々を送っているらしい。
らしいというのは、半鳥族からの伝聞である。なにせ彼らの縄張りなので、上空からではあるが定期的な連絡のついでに教えてくれるのだ。
今の彼らは半鳥族の預かりであり、監督責任は殆どツミレ女王にある。
だが、彼らを招いたのは半分ぐらい俺であるし、おまけに余所者も一人放り込んだのだ。
その辺り、責任を感じるのも無理がない話である。
「ということで相談があるんだ」
「この国に残す物ですか……」
屋敷で休日を過ごす俺はマリーと一緒にお茶を楽しみながら、そんな政治の話をしていた。
なんだかんだ言って、彼女は俺よりも社会政策というものに詳しいだろう。
それに、こうした話は彼女にも知って欲しいし。
「大事なのは、俺がいなくても残ることだ。自主的に維持できるものを、この巨人族……ダイ族に残したい」
「素晴らしいお考えです……それに対して頼りにしてもらえるなんて、とてもうれしいです」
どうやらマリーも喜んでくれたようだ。いいことである。
とはいえ、じゃあ具体的にどうするか、となると一気に難しくなってしまう。
「とはいえ、俺もそこいらの事を考えなかった訳じゃない。色々考えた結果、何もしないことを選んだ」
「それはそれで正しいと思います。国民の事を考えない政策は、受け入れられるものではありませんから」
思い当たる節があるのか、マリーは沈んだ顔で頷いていた。
まあ、エリック君の事を思い出しているのだろう。
彼は典型的な野心家だったから、やむを得ない話である。
「例えば学校だ。人間の学問でも、魔人の学問でもどっちでもいいんだが、子供を集めて学校をしようと考えたこともあった」
「実行する前に挫折したのですか?」
「ああ、絶対に無理だ。紙がないとか、黒板がないとか、そういう問題じゃない。その学力を活かせる環境を用意できる気がしない」
ものすごい極端な話、彼らにパソコンの使い方を教えたとしよう。
パソコンも用意して、電気も用意して、教本も用意して……。
それで、彼らをどこに出しても恥ずかしくないIT戦士に育てたとしよう。
どこでその学習の成果を発揮すればいいのだろうか。
他の何を教えても同じである。
巨人族と言う氏族の社会には、そうしたものがまずないのだ。
教えたはいいが、しかし活かす機会がない。
そんな学校はまさに自己満足である。
「読み書き算盤さえ、教えてもなんの役にも立たない……」
「では、薬草の使用方法を教える、というは如何ですか? アンドラ、貴女達ミミ族なら教えられませんか?」
「教えることはできますが、反対です」
控えていたアンドラは、納得の回答をしてくれた。
俺もそう思うし、専門家が言うのだからなおの事だろう。
「まず、病気やケガの症状を診断しなければなりません。その上で適切な薬草を適切な量、相手の体重に合わせて調合する必要があります。極めて高度で経験を要するものであり、我らのやり方を教えるには寿命が短すぎる」
「それは……やはり難しいかしら?」
「誤った処方は、死につながります」
あっさりと凄いことを言う森魔族。でもまあ、そりゃあそうだ。森魔族は全部長年の勘で診断しているのだ。要するに、教えるように規格だっているわけではないのだ。
それを仕込むとすれば、とんでもない手間がかかるし……継承するにも手間がかかりすぎる。
都度ミミ族に師事するなら、彼らに最初から投げた方がいい。というか、彼らもそこまで暇ではないだろう。
「一応、ダイ族も結構プライドとかあるし……定着するというか、積極的に学ぼうと思ってほしいんだよ……」
「それは、難しいですね……」
「もうこの際、実用性とかどうでもいいんだ。そもそも文化って実用的なもんばっかりでもないし」
自己満足で終わる、というのなら、それはそうだと応えるだろう。
そもそも、氏族全体で見れば、今の生き方こそが最も正しいのだ。
仮に、彼らに衛生やらなんやらを教えたら、人口爆発が起きて獲物が全滅するとか、縄張り争いで村同士で殺し合いになるとか、人間の集落を襲いまくるとかろくでもない考えが止まらない。
もちろん、赤ん坊が死んでもそれが自然の摂理だとか、そこまで割り切っているわけではない。
ただ、変なことを教えてろくでもないことになったらと思うと、物凄い嫌な気分になるのである。
俺がクリミアの天使張りに全力で衛生や清潔を教えまくった結果、それが戦争につながるとか冗談ではない。労力に見合わないにもほどがある。
その場合は避妊法も教えねばなるまい。しかし、避妊というものは大変だ。それは俺も良く知っている。避妊具ってどうやって作るんだろう。
というか、他に娯楽がないから年中盛っているのである。避妊もくそもねえ。
そもそも、避妊の必要性を説くことが難しい。じゃあ何のために交尾するんだよって話だし。
俺も論理だって説明できる自信がまるでない。
避妊とはなんとも文化的で、文明的で、奥ゆかしいものだ。
「難しいですね……」
「だが、任期を無難に終えることばかり考えていては、余りにも救いがない。何というか……ダイ族が自分でどうにかできるものを作って残したいな……」
「ですが、私もお力になりたいです」
目を輝かせているマリー。
そうだな、どうせ王様をやるからには、ちゃんと頑張らないといけないよな。
「タロス王、政策の模索中失礼します」
アンドラが俺に声をかけていた。
何かに気付いたようであるが?
「魔王シルファーが、ラッパ王やバラ女王と共にお越しです」
「アポとれよ……」




