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好感度が高い事や、ついでに領地を回る旅をすること

 我ながら、何ともちぐはぐと言うか、内弁慶というか訳の分からない状態になってしまった。

 まあ、実際色々問題もあったので、お二人に色々とお世話をしてもらったことに意味はあったと思うのだが……。

 さて、翌朝食事をしながら、俺は初夜を共に敗北したマリーと話をすることにしていた。

 というか、朝食である。


「タロス王、今日の御朝食は奥様の祖国の御料理を再現してみました。少々薄味で、量が足りないかもしれませんが……おっしゃってくださいね」


 と、ユリさんが申している。

 昨日絞られすぎて、まともに顔を視れない。というかマリーも同じ顔をしている。

 なんというか、会って即結婚、そのままベッドインというのは前時代感がある。やっぱ結婚式的な催しもした方が良かったかもな、と軽く後悔する。

 まあ、その場合巨人は絶対呼ばないけどな。

 あんな連中、よんだらろくなことにならない。

 俺との結婚で、自分の利益しか考えてないような奴らだ。

 まあ、俺も一目ぼれと言う名の拉致監禁からの結婚、ベッドイン……。

 考えるのはやめよう。

 とにかく、俺に合わせた大きさのテーブルに、子供用の椅子を大きくしたような、つまりは梯子付きの椅子に座ったマリーが隣にいる。

 夫婦での食事と言うわけである。


「では、いただきましょうか」

「ああ、そうだな」


 目の前には、スープの入った皿やら、パンが乗った皿があり……何とも文明的だった。

 魔王の城で食べるときは、文明人たる魔人が合わせるので、基本的に葉っぱの上に肉を乗せた物とか魚を焼いたものが並んでいた。

 味付けは男らしく岩塩である。まあ、火の通し方とかがプロなので、その辺りは上手なのだが……。

 さて、香辛料は流石に使っていないだろうか?まあ、そこはよくわからん。

 コース料理、というわけではなさそうだ。

 とりあえず、スプーンもフォークも一つずつしかないし……。


「それじゃあ少しずつ」


 手に収まってしまう大きさのパンを一応ちぎって少しずつ食べる。

 うん、パンだ。パンだなぁ……。

 王になってから、数回しか食べてないパンだった。人間の軍から奪って、あんまりおいしくないパンしか食べたことがない。

 巨人族は顎の力も強いのだが……それでも、こう、ぶっちゃけ不味いパンだった。

 農耕民族ではない巨人族はパンを焼くというか、そもそも穀物を食べない。

 肉と、時々野草だ。魚も食べないわけじゃないんだが……。


「焼きたてだな……柔らかくて美味しい」


 と、スープも飲んでみる。一応俺の手でも持てる大きさのスプーンだが……そうなると、流石に少し皿が小さい。

 うん、なんかこう、野菜を煮込んだものだ。具としては無いが、味はある。

 量は足りないが……文明の味がする……野菜万歳である。


 と、俺が食事に感激していると、隣のマリーがものすごく驚いていた。

 というか、ユリさんもアンドラも驚いていた。

 アンドラの顔はほとんど隠れてるけども、それでも驚いていた。そんな感じがしていた。

 理由は分かっている。


「タロス王……スプーンの使い方をご存じなんですか?」

「そんな、ダイ族が食器を?!」

「テーブルマナーをある程度理解している?!」


 レベルの低い驚愕だった。

 なんだろうか……哀しくなってきた。

 これというのも、巨人族、ダイ族がやたらと素手でモノを食っているからである。俺は悪くないのだ。

 いや、きっと誰も悪くない。

 俺だって、他のダイ族が食器を欲しがったら笑うだろう。

 あいつら、打製石器を使ってるんだぜ?

 未だに旧石器時代だよ!


「驚くのも無理はないが……まあ、一応な」


 照れながら言うと、三人は居住まいを正していた。

 まあ、一応俺が一番偉いので、こう、取り繕ったのだろう。


「というかだな、お前らじゃあなんで食器出したんだよ」

「その……一から使い方をお教えしようかと……」

「奥様との距離を縮めようかと思いまして」


 要らん気の使い方だった。

 いや、彼女たちは悪くないとわかっているのだけども。


「それで、アンドラ。魔王様からご返答は?」

「今朝、ハネ族に手紙を渡しましたので、しばらくは待っていただくことになるかと」

「ふん、そうか……」


 その手紙になに書いた? ナニをだろ? 知ってるよ。

 まあ、ゲームでもあるまいに、そんなパパッと都合よく仕事が舞い込んでくるとも思えない。

 であれば、やれることはやるべきだろう。

 というか、今から手を打っておかないと、色々間に合わない。


「じゃあ俺はしばらく屋敷を留守にする。マリー、新婚早々で申し訳ない……いや、違うな、色々と急に環境が変わって混乱しているだろう。しばらく体を休めて欲しい。なに、ここらの気象はそう激しくないからな」

「お仕事……失礼ですが、タロス王はどのようなお仕事をなさるんですか?」


 と、マリーは結構驚いて聞いていた。

 そうだよね、巨人族の王様が各地巡って何するって話だよね。

 税金とかないし、内政もないし、道路もないし、やることないと思うよね。


「領地を回って、狩をして、大きな村に獲物を渡すんだ」

「何時もそのようなことをされているんですか?」

「まさか、今回の戦で、大分働き手が死んだからな。当座だけでも持たせないと、他所に迷惑をかける」


 言うまでも無いが、巨人族の縄張りとは一種猟の縄張りである。

 つまり、居住権以上に、漁業権ならぬ狩猟権が大事なのだ。

 それが何を意味するかと言えば、人口密度が低いということである。


 懐かしき魂のふるさと、日本。

 そこでは町と町が殆どくっついていて、家と家の間に市の境界があるぐらいだった。

 だが、ここはそういうことがない。

 かなり広い領地を、相当歩き回らないといけないのだ。

 そうしないと、まず隣の村にもたどり着けない。


「こう見えても……ていうか、まあ、何歳に見えるかわからないが、俺は王になってそこそこ長い。他に憶えることもないから、村の位置は大体憶えている。縄張りごとに獲物を狩って、配るんだ」


 今回の場合、獲物が減っているのが問題なのではなく、狩猟できる大人がいないのが問題だ。

 だから現地に俺が赴いて、狩をすればそれなりには村に食料が行きわたる。

 不平不満を多少逸らすことになるだろう。


「結構長旅になる。数カ月は巡ることになるだろう」

「そんなにお広いのですか?」

「違う、数カ月食料の当てがないからだ」


 別に巨人族の狩りなんて、と馬鹿にすることはできるだろう。

 確かに、巨人族の狩りは棍棒をもって追い回すだけの単純な狩りだ。

 だが、それは野球がバットを振るだけの簡単な仕事と言うに等しい。

 獲物が大きければ命の危険もあるし、まず獲物を見つけるところから話が始まるのだ。


「魔王様から仕事をもらえば、ハネ族とかミミ族が各地に色々運んでくれるし、大きければ取りに来させるからな。だからそれまで我慢だ」

「……大変なお仕事なのですね」

「ああ、狩猟民族はそんなもんだ」


 また驚いた顔をしている三人。

 そうだよな、そもそも農耕民族を知らないと一々狩猟民族とは発言しないよな。アイツら農耕って言葉も知らないし、下手したら狩猟って言葉も知らないぞ。


「巨人族の縄張りは、年中獲物が取れるぐらい動物が多くてな。まあ、逆を言うと危険な動物も多いんだが、狩りの腕があれば食うに困ることはない。戦争に行かなかった長老衆や、子供も狩りをしているだろうが、流石にそううまくはいかないだろう。しばらくは俺が頑張らないとな」


 そう言って、壁に飾ってもらった斧を見る。

 およそ、唯一と言っていい巨人族の文明的なものだ。

 もちろん、もらいものだが。


「ということでだ、マリー。暇だとは思うが……この家の外に出ない分には、問題ない。欲しいものがあったらハネ族にでもミミ族にでもヨル族にでも、好きなものを頼んでくれ。代金的なものは俺が働いて返すから」


 さて、彼女はどうあがいても囚われの身である。

 担ぎ出された戦場で、彼女はいきなり巨人にさらわれた。

 そして、巨人とエルフとサキュバスに辱められ、今もこの屋敷の中にいる。

 巨人は去るけども、それでも彼女は独りぼっち。

 さぞ暇だろう、俺だったら耐えられるかどうか。


「では、お願いがあります」

「何なりと言ってくれ。故郷に帰る以外の、その多くを叶えたい」

「領地へお連れしてくれませんか?」


 え?

 話聞いてたの、この子。

 なんでそんなに前向きなの?


「なんにも面白いことないぞ?」

「かまいません」

「臭くて汚くて、嫌になるぞ?」

「タロス王もそうなのでしょう?」

「……なんで?」

「私は貴方の妻なのですから!」


 いや、巨人族の王って、そんないいものじゃないし。

 その妻に、そんな大した義務ないし。

 なぜそうも一生懸命になるのか、これがわからない。

 前向きなのは嬉しいけど、本気でそんなに面白いものじゃないと思うんだが。


「よろしいではありませんか、タロス王。いずれは奥様も他のダイ族と触れることがあるのでしょうし」


 ユリさんが柔らかく笑っていた。

 おっかないな……。

 なんというか、逆らえない。

 というか、イイのだろうか。

 下手をすると、他の巨人族が怒って襲い掛かってこないだろうか?


「心配だ……」


 無論、悪いことではない。

 俺だって、せっかくの嫁さんとイチャイチャしたい。

 なんか俺と結婚することに対して前向きだし……。

 でも、本気でいいことないんだが……。


「如何ですか、タロス王。奥様のお披露目も兼ねまして……」

「それは駄目だ、向こうは宴をするぞ。そんなことをしていたら他の村が飢える!」


 というか、俺は巨人族の酒も料理も大嫌いなのだ。

 なまじ体が頑丈なので、大抵のものが食えるのだ。

 その分様々なことに対して無頓着なのである。

 それなりに理解がある魔人でもきついのに、全く知らない人間が行けばどうなるか。


「ぶっちゃけ、村にだって立ち寄りたくない。ダイ族の奴らと来たら、臭くてかなわない」


 まあ、俺もダイ族なわけだけども。

 三人とも呆れているけども。


「第一、身の回りの世話もあるだろう?」

「では、私と数人の部下がご一緒します」


 なぜかやたら前向きなアンドラ。

 ねえ、なんでそんなに危険地帯へ連れて行きたがるの?

 まさかとは思うのだが、魔王様の思惑でもあったりするのだろうか?


 そうなると、中々難しい。

 よくわからない事情もあるようだし、ここは頷いておこう。


「よし、じゃあ一緒に行くとしよう。その代り、俺やアンドラの指示に従うように!」

「わかりました」


 とても、嬉しそうに笑う。

 ああ、いい……金髪碧眼のお姫様の笑顔、サイコー!


「では、我らミミ族の装束を用意いたします。防虫効果もありますので、どうぞ」


 と、アンドラの部下が無言で新しい服を持ってきた。

 なんというか、飯を食い次第着替えそうな感じである。

 エルフ、森魔族は本当に仕事が早いな。


「今、食事中だ。現物は後にしてくれ」

「失礼しました」


 そう言って控えてくれるアンドラ。

 そうだよな、立場は上でも上司じゃないもんな。

 やっぱり魔人に生まれたかった。寿命がとんでもなく長いらしいし。


 とはいえ、量が少し足りないが、人生初の文明的な食事である。

 こんな文化的な『家』で、椅子に座って、机を前にして、お姫様の隣で、皿の上の料理をスプーンやフォークで食えるなんて……。

 結婚ってサイコーだな!

 ほとんど結婚関係ないけど。



 さて、そろそろ出発である。

 なんというか、俺の服も布を簡単にまいたものから、再度獣の皮にチェンジしている。ただ、これは人間が態々作ったものらしく、着心地が良かった。

 なぜ態々作ってくれたのだろうか。毛皮職人に対して、申し訳ない気持ちである。


「さて、着替えが遅いな」


 見て行かれないのですか、と言われたが、そこは自重した。

 これから彼女の躰など、何度も見るのだし……。


「ミミ族の装束は、慣れないと着るのが難しいのですよ」


 着た事があるようなことを言うユリさん。

 体形が大分違うので、確かに難儀してそうである。


「そういうものか」

「ええ、そういうものです」


 しばらく待っていると、いつも通り耳ぐらいしか見えないアンドラと、眼が多少開けられているマリーが現れた。

 流石に、エルフに比べると少しふくよかで、少々不自然だった。

 しかしまあ、気にしなければ問題ないし、そもそもメインは防虫効果だろうし。


「タロス王、ここは褒めると喜びますよ?」


 と、ユリさんが言ってくる。

 いや、そうかもしれないけども。

 でも、やっぱり普段来てもらっているドレスの方が似合うような気がする。

 そもそも、これだとせっかく綺麗な顔が見えないし……。


「似合いませんか?」

「ああ、いや、せっかくの美しい顔が見えないからな……残念に思っていた」

「まあ、お上手ですね!」


 だから、なんでこの子はこんなに好感度が高いんだろうか?

 少し聞いてみたい。演技だったら、滅茶苦茶嫌だけど。

 どうか、彼女が何かの奇跡で俺に惚れている可能性を、俺は信じたかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の種族への愛着がないのが悲しいですね…。読み進めると変わるのでしょうか
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