童貞の夢と、ついでに童貞の現実
「お前マジでふざけんなよ……」
「すまんかった」
骨折した足に処置を施し、鎮静効果のある薬草を与え、添え木をした。
つまりは、ほとんど放置である。この世界の医療技術は、まあそんなもんだ。
水銀を金丹だと言って飲ませるよりはマシだと思っていただきたい。
もしかしたら薬草に中毒の作用があるかもしれないが、そこは必要な処置だと思って諦めてもらうしかない。
なにせ、そもそもその辺りを科学的に検証する手段がないのだ。悪魔族にその辺りに興味を持つ輩がいればその限りではないが……。
というか、例の指輪を思い出して、首を左右に振る。
あんなもんは、存在していることを余人に知られてはならないのだ。
「お前人には散々弁えて地道に生きた方がいいとか言っときながら……お前は世界で一番の国のお姫様と結婚してるじゃねえか?!」
「運命の出会いと言うか、略奪の機会があったというか……」
客室のベットで寝かせているアレックス君に、俺は絨毯の上に座り込んで謝罪していた。
斬りかかってきた相手を、下段蹴りで迎撃し、更には石で追撃した。
その俺が、きちんと彼に謝るのは当然だった。だって、俺は幸せだからね!
それに、筆おろしは甘美だったしね!
サキュバス最高である。嫁も最高だけども。
「あんな彼女も、地に足を付けて王様してる男が好きだっていうぞ」
「王様してる時点で地に足つけてねえよ!」
御尤も。
何気にさっきはあれだ、エリック君の時よりも自分の命の危機を感じたからな。
ついとっさにローキックが出て、俺の修練は間違いじゃなかったんだなって思えた。ローキック最強である。
少し前も思ったのだが、巨人族に生まれた以上は頑丈な体だけが資本である。
逆説的に言えば、俺はその種族にとって、最も重要視される力を生来持っていたのだ。
努力したのは事実だが、少なくとももっとも羨望される資質を俺は生まれ持っていたのである。
目の前の彼も中々だろうが、王になることができている時点で大分地に足を付けていない。
「ずるい、不公平だ……」
「おいおい」
「なんでお前はエロいメイドさんに囲まれて、あんな可愛いヒロインを嫁さんにしてるんだよ! おかしいだろ!」
「まあ落ち着け」
「俺も金持ちになりたかった! そんでもって沢山の嫁さんと妾さんとメイドさんが欲しかった!」
ここで奴隷が欲しかった、とか言い出さないあたりがギリギリまともである。
流石に九氏族のいるあたりで奴隷とか言い出したらドン引きである。
というか、半馬族がマジ切れである。アイツら本気で殺しにかかるからな。
「お前そんなに公平が好きか?」
「う……」
「俺が言っている時点で全く説得力がないと思うが、お前大金持ちになりたいとか言っている時点で公平が嫌いだろ」
人間とは、矛盾する生き物である。俺は人間じゃないけど、巨人族の中では
浮くくらい人間らしい精神を保っていると思う。
その上ではっきりと言うが、公正公平を求める人間ほど、別に平等を望んでいないということだ。
他人が儲けていることが不快なのではなく、自分がそうではないことが不快なのだ。
自分より上をうらやむばかりで、自分より下にも施しを与えようとは絶対に思わない。
「お前がそんなに公平が好きなら、依怙贔屓はやめて、無礼打ちにしてもいいんだぞ」
「ううう……」
「下積みすっ飛ばしてさっさと出世したいとか、そんなことを思っていた奴が言う言葉じゃねえだろ」
「う、うらやましいです……」
素直でよろしい。
俺はその勇気を出した一言に敬意を表していた。
なかなか言えることではない。
王政は駄目だと思いつつ、しかし王になりたいと思うのが人間で。
奴隷制が駄目だと思いつつ、しかし奴隷を持ちたいと思うのが人間である。
「大体まあ、お前自分の食い扶持も確保できてないじゃないか。その状況でどうやって養うんだ」
「だから、金持ちになって……」
「成れずに野垂れ死にだろ」
「試してもらえば、良さがわかるのに……」
「営業の才能の問題だろ」
ただまあ、公正と公平が保たれていたかはともかく、アレックス君は自分の意思で『自由』にやってあの様だったのだ。
生憎この世界は、楽市楽座でもないし資本主義社会でもないし、国民総活躍社会でもないし福利厚生がきちんとしているわけでもない。
いいもん作れば売れるだろうというのは、余りにも社会体制を甘く見過ぎていた結果である。
市場と顧客の事を考えよう。
「まあ、数カ月もあれば骨はつながるだろう」
「回復魔法とかないのか……」
「お前が持ってないならないな」
「あのお姫様が持ってるとか……」
「事実だったとしても、俺に切りかかったお前を治すと思うか?」
お前仮にも人に切りかかっておいて、それはないだろうに。
というか、働けるのだろうか。膝から下が片方折れているけども、働く気はあるのだろうか。
当分無駄飯ぐらいになるのだろうか。
それだったら向こうの人に任せるのは危険だな。
「……で、当分は働けそうにないか。じゃあしばらくはここで体を休めるといい」
「分かった」
「それじゃあ希望はあるか?」
「メイドは夢魔族で」
「正直な奴だな。安心しろ、全員夢魔族だ。ああ、夢魔族はヨル族って呼べよ。別に彼女たちは怒らないけど、怒る奴は怒るから」
「分かった、ありがとうございます、ダイ族の王、タロス様!」
「感心するほど正直だな……ああ、それから、一応言っておくけど彼女たちはあくまでも給仕に来てるし、娼婦じゃない。変な偏見で彼女達に無理なことを頼むなよ?」
ものすごく童貞臭い返事をするアレックス君。
あれだよね、看護婦が全員美人でエロい体してたらテンション上がるよね。
気持ちはよくわかるが、顔に出過ぎである。
それに、いくら夢魔族が氏族全体総エロだったとしても、相手位選ぶだろう。
ユリさんの部下は巨人族が好みだと思うし。
※
翌朝、彼の客室を訪れる俺。
そこには、夢魔族のメイドに膝枕をしてもらいつつ、他の夢魔族のメイドにパンを食べさせてもらいながら、更に他の夢魔族に足のマッサージ「のようなもの」を受けている、何かの階段を上った後のような顔をしているアレックス君だった。
もちろん誓って、俺はそんなことをするように命じてなどいない。
全ては彼女達の自由意思によるものだった。
「あの、すみません。俺、此処に骨を埋めてもいいですか」
「駄目に決まってるだろ」
どうやら俺は勘違いをしていたらしい。
夢魔族は思った以上にそのまんま夢魔だと。
童貞の妄想そのまますぎる実像に、俺は頭を抱えていた。




