お前死ねと、ついでに爆発しろ
世界は自分を中心に回っている。
アレックスがそう思ったとしても、さほど間違いではなかったのかもしれない。
彼には武器を作成するにあたって、特別な才能と知識があった。
彼は戦場に落ちていた普通の剣を、自分の作成した武器であっさり壊せたことで、自分の能力が特別であると思っていた。
アレックスは知識として、自分が世界の中心だと思い上がって、そのまま自滅するという例を多く知っている。
その上で、自分は違うと思い込んでいた。
確かにそういう輩は誰もが、自分は違う、と思っている。
その上で、自分だけは本当にすごいと確信していた。
自分こそが、真に世界の中心で、自分以外は偽物だと思っていた。
単純な事実として、彼は優れていた。
彼の造る武器は、この時代の人間が作れる武器の中では、ありえない性能を持っていた。
もちろん、重火器のように革命的な武器だったわけではない。
もっと単純に、剣として切断力があり、盾として頑丈で、鎧として軽かった。
その程度ではあるが、だからこそ多くの有力者が求めるだけのポテンシャルを持っていた。
持っていたが、彼の行動のすべてが彼の才能を潰していた。
手元には武器があり、すぐにでも売り出せる。
それが彼の気を逸らせていた。
例えば、街のギルドに属していない人間が、そのギルドの取り扱い品を売ろうとする。
それは、そのギルドに敵対する行為である。
もちろん、そのギルドも態々彼を闇討ちするほど暇ではない。
もっと単純に、消費者へ販売する小売商がギルドに気を使って、少年の武器を店に並べないだけだ。
領主にしても同様である。
自分の街には既にそうした組織があって、それらが安定的に武器を供給してくれるのに、態々新参者に機会を与えるわけがない。
アレックスはそれがわからなかった。
ただ、試してももらえなかった、という事実が彼の心を責めさいなんでいた。
せめて、使って欲しい。
使ってみれば、性能がわかるはずなのだから。
そして、意外にも廃墟で出会った巨人族が、彼に武器を試させてくれた。
結果は、自分の盾では身を守れないという事実だった。
それが、彼の心を痛めつけていた。
自分の武器が、少々大きいだけの相手に通じない事実が。
だからこそ、意地になった。
彼の自慢の武器をぶった切って、鼻を明かしてやろうと思った。
結果、自分の天狗鼻をへし折られた。
確かに彼の武器は強力だった。
おそらく、どんな名工も彼に及ぶ物を作れまい。
しかし、それは人間の基準。
カミ族の造る不朽の武器に、彼の武器は余りにも無力だった。
この時点で、彼は納得こそしていないものの、理解はしていた。
自分は世界の中心ではないのだと。
だが、理解しても納得できないのが人間である。
まして、今の今まで自分こそ世界の中心だと思っていれば。
まあ、自分が世界の中心ではないのなら、それなりの立振る舞いをするべきなのかもしれない。
世界の中心である人物が、相応の振る舞いをしても死なないのは、歴史的に言えばある意味幸運だからである。
物語的に言えば、ある意味そういう立ち位置だからだ。
同じことを、他の誰かがしても、同じ結果には至らない。
戦って勝つのが英雄なら、戦って勝てないのが凡俗。
挑戦して成功するのが勝者なら、挑戦して失敗するのが敗者だ。
もちろん、そんなに図式的にできる物ばかりではない。
そもそも英雄とて失墜するときは失墜するし、失敗ばかりしているからと言ってそのまま人生が終わるわけでもない。
成功だけする人間も、失敗だけする人間も、まあいるのだろう。
だが、その二種類しかいないというわけでもない。
そして、成功する人間だけが幸福と言うわけでもない。
「もう少し歩けば、俺の屋敷がある。巨人族の集落と違って、ちゃんとした家だし、客室もある。食事もちゃんとしたのを出すから、安心してくれ」
「……ありがとうございます」
まあ、悪い話ではない。
納得できていないが、理解はしている。
彼は何時でも自分を殺せるし、そもそも殺す必要も貶める必要もない。
旅をして分かったのだが、そもそも道中都合よく食べ物が落ちているわけでもないし、獲物が現れるわけでもない。
放置されてしまえば、今度こそ飢えて死ぬだろう。
そして、もしかしたら、目の前の彼こそが、世界の中心なのかもしれない。
既に巨人族の王になり、一族から認められている、やたらとフレンドリーで説教してくる相手。
自分と言う優秀な人材を、偶々偶然引き入れる天運を考えて、彼がそういう相手だと考えるべきなのかもしれない。
もちろん、自分が優秀な人材だ、という一点は譲れない。
そこを譲ったら、もう何が何だかわからないからだ。
「ああ、そうそう。言い忘れたが……亜人に向かって、亜人と言うのはやめろ」
「……」
「怒る奴もいるし、怒らないやつもいる。だが、怒る奴はお前を殺すだろうな」
「じゃあ、何て呼べばいいですか?」
「さしあたり、亜人全体の事は九氏族と言えばいい。亜人は差別用語と言うか、卑称だからな」
彼が世界の中心なのだとしたら、自分は彼に従うべきなのだろう。
彼が勝つ側なら、その彼を盛り立てれば自分も勝てるのだろう。
少なくとも、それなりには成功できて、脇役としてなら歴史に名を刻めるのかもしれない。
少なくとも、もう一度ああやって、売れるかどうかもわからない品物を抱えて、商店を巡ったり諸侯に頭を下げるのもごめんだった。
期待していた分、彼の自尊心は大いに傷ついていた。
望む賞賛は一切なく、試す機会もあの無様。
少なくとも、もう一度タロスに切りかかる気力は無い。
少なくとも、自分で言い出したことには責任を取らねばならない。
それはきっと、この世界が物語でも、そうでなくとも、通さねばならないことだったからだ。
きっと、恩知らずに振る舞えば、自分の末路は知れたものである。
「見えたぞ、あそこが俺の屋敷だ」
そこには本当に、彼が言ったようなちゃんとした屋敷があった。
門前払いにされることがない、自分を迎えてくれる屋敷。
それだけで、なんというか、こみあげてくる涙があった。
「やっぱり、使用人も巨人……じゃなかった、九氏族なんですか?」
「ああ、とはいっても巨人族、ダイ族じゃない。夢魔族、ヨル族だ」
「……え? あの、噂の、スゴイエロいっていう?」
「そうそう、あのエロい種族」
あれ?
「タロス王~~! 遅かったので心配してしまいました!」
「マリー……すまない、少し勧誘していてな」
「それならご一報くださればよかったのに……」
「すまん……」
おかしいな?
「すみません、タロス王。そこの金髪碧眼の美少女はどなたで?」
なんかおかしいぞ?
「ああ、この子はマリー。俺の妻だ」
「マリーです、元はバイル王国の姫でしたが、今はこの方の妻です」
これはもう殺すしかないんじゃないか?
「しねえええええええええ!」
「うおう?!」
虚を突いていた。
どこからともなく取り出した日本刀を振りかぶり、彼は裂帛の気合で斬りかかる。
もう恩義とかどうでもいい。このふざけた野郎をぶっ殺せるならそれでいい。
その気迫が、彼の剣に殺傷能力を持たせていた。
「ぎゃああああ!」
なので、対応されていた。
巨人の王は、刀剣を振りかぶった彼よりも尚長い脚で、アレックスの脚部をへし折っていた。
「くそぅ、しねえええ!」
それでもぶんぶんと日本刀を振る。
仕方ないので、そこいらの石をぶん投げて気絶させていた。
「タロス王……こちらの方は、何を怒っていらしたのですか?」
「俺が悪いんだ、君のせいじゃない……うん、無神経だった」




