説教と、ついでにして欲しい事
「それで……俺はなにをすればいいんですか」
山の中を歩いて行くうちに、気勢が削がれたのか元の口調に戻っているアレックス君。
なんというか状況を認識し始めて、ようやく神妙な顔になっていた。
俺のフレンドリーさにごまかされていたが、そもそも俺は巨人族であり、この一帯は巨人族の縄張りだ。
おそらく、『武器職人』としての腕以外は大したことのないであろう彼は、今自分が死地にいるということを理解しているはずだ。
「そうだな……この際、武器職人から足を洗って、鉈やら包丁やらを作って欲しい」
「え?! 俺、武器職人ですよ?!」
「まあそうだろうけども、今必要なのは武器じゃなくて日用品なんだ。巨人族も猿じゃないからそれなりには使えるだろうし、人間用を優先でいいから、それが済んだら大きめのを頼むよ。人間が両手で使うぐらいの大きさだったら、丁度いいと思うから」
「……俺の武器、そんなに要らないですか?」
「なんでそんなに武器ばっかり作りたがるんだ? 俺にはそっちの方がわからない。なんかこだわりでもあるのか?」
返事はない。まあないだろう。
俺だって、この世界に生まれて、武器製造系のチート能力やその手の才能があったら、包丁造るより剣造るさ。
他の誰でも、よっぽど何かがない限りは、そっちを作るに違いない。
むしろ、今まで剣造ってた奴に向かって、包丁造れとか言ってるこっちがおかしいのだ。
「カッコ悪い」
「そうだな、カッコ悪いな。申し訳ないと思ってるよ」
「だったら、せめて剣を……」
「武器職人の護衛だって、カッコいいとは言えないと思うぞ」
「そのことはもう忘れてください」
実際、時期が悪かったとは思う。
その辺りは何というか、エリック君の事も含めて思うところがあるのだ。
少なくとも、エリック君には剣の才能とそれを活かす機会があった。
王国の姫と結婚する資格を得るための戦いがあって、全盛期かそれに近い状態で出場できた。
どうしようもなく、負けて全てを失った身ではあったが、彼は挑戦するだけの好機があった。だが、アレックス君にそれは無かったのだろう。
どこの組織にも属していない若造が、他とは明らかに違う武器を持ってきたら、そりゃあまあ、門前払いが当然だ。
そういう意味では、認められる機会を得ていたという意味では、俺やエリック君の方が彼よりも恵まれていたのかもしれない。
しかし、先ほどの振る舞いを見る限りは……いや、その辺りは俺も言えない。
俺達の中には、選民意識にも似た何かが常にあるはずだ。
俺もエリック君も、おそらくはアレックス君も、それを意識しているかしていないかの差しかない。
そしてそれは、足元を見失うことになって、そのまま落とし穴に落ちる。
この世界には回復魔法はないし、蘇生魔法もない。
一度穴に落ちればそれっきり、自力で這い上がることもできない。それは、俺が自分で証明した通りだった。
だからといって、無為に過ごすにはこの人生は長すぎるのだ。
「ん? どうした、タロス王!」
どすどすどす、と、獲物を抱えた一行が俺の前に現れていた。
見たところ、結構な量である。おそらく、俺にたかる必要はない。
それぐらいには、大量だった。
「おい、また人間かよ」
「最近人間が好きすぎねえかぁ?」
「まあ、その分こっちもいい目を見てるけどよ」
「ああ、コイツか。鍛冶職人でな、鉈でも作ってもらおうと思ってな」
「ああ、なるほどな」
「あると便利だもんな!」
「その手のもんとなると、カミ族以外にゃツキ族ぐらいだしよ!」
言うまでも無いが、巨人族は基本的に旧石器時代のノリで生きている。
打製石器がギリギリで、磨製石器さえ使わない。
だがだからと言って、そのたぐいの道具が一切使えないわけではない。
例えば鉄器である剣も、当然知っている。使おうと思えば使うこともできる。
ただ、生産と手入れができないので、奪ってきても長持ちしないのだ。
それに、巨人族は手の大きさも相応なので、人間用の大きさだと中々どうして使い勝手が悪いのである。
「ダイ族の手に合う大きさの刃物、あれば便利だろう?」
「はっはっは! たしかにな!」
「楽しみにしてるぜ!」
「早めにな~~!」
能天気な返事をする巨人族。
まあ、生活が軌道に乗れば、それなりに気のいい奴らではあるのだろう。
「タロス王?」
「ああ、名乗ってなかったな。俺は巨人族の王、タロスだ」
「王って……」
「そんな大したもんじゃない。殴り合いをして、一番強かったってだけだ」
そういう意味では、エリック君に言った通り大差はないのだろう。
彼は自国民に理想を押し付けて、俺は嫌悪から干渉を諦めた。
どっちも国民を見ていなかったことは確実である。
「貴方は……王として俺を引き入れるつもりなのか?」
「安心しろ、さっきも言ったが巨人族の集落に住ませるつもりはない。既に避難している人間の街ができつつある。そこに住んで、発展に尽くしてほしいだけだ」
「……魔王領の中で?」
「そうだ、悪い人生じゃないと思うぞ」
少なくとも、エリック君や俺よりはいい人生だと思う。
まあ、彼が望んだ人生ではないだろうが、彼が俺に押し付けようとした人生よりはマシだろう。
そもそも、なんであんなに偉そうになったんだ。
まあ、武器職人として色々プライドをこじらせたのかもしれないけども。
俺のうかつな発言が原因かねえ。
「俺は、そんなことをするために、生まれてきたわけじゃない」
「俺だってお前の護衛をするために生まれてきたわけじゃないぞ」
「それは、悪いと思ってる! でも……!」
「人生は五十年だが、たとえ魔人でも死ぬときはあっけないもんだ」
今にして思えば、魔王の息子さんさえ元日本人に思えてくる。何というか、悪魔族っぽくなかったような気もするし。
ただ、彼が教えてくれたのは、永遠を生きる魔人でさえもあっさりと死ぬということだ。
カミ族を名乗る彼らも、その辺りは謙虚なものだったし。
「はっきり言って、あの街まで飲まず食わずで歩いてた時点で、アレックスの冒険は終わったも同然だったはずだ」
「それは、そうだと、おもってた……でも、タロス王に会えた」
「都合よく助けてくれると思ったか?」
「ああ……」
「実際都合よく助けておいてなんだが、自分の都合で考えすぎだな」
自分の事を評価して欲しい、だから個人で製作する。
自分の好きな物を作りたい、だから組織に属さない。
自分の武器を買ってほしい、だから営業努力をする。
間違いなく、俺なんかよりも努力家だろう。
だが、彼はもう少し考えてみるべきだった。
自分が他人からどう思われているのかを。
そんな自分勝手な奴と、交渉をしたいと思う奴がいるのかどうかを。
「何が言いたいのかはわかる。分かりますよ……でも」
「俺が放置を決め込めば、そのまま死んでただろうに」
「う」
「野垂れ死にをしたら、それがお前のしたかったことなのか?」
「SEKKYOUかよ……」
「まあ、上から目線なのは同感だ……でもそうだな、お前はまだやり直せるんだ。いきなり剣で斬りかかってきた時点で、殺されてもおかしくないだろ」
少なくとも、俺とエリック君はいろんな意味で、もう殺し合うしかなかった訳で。
でもまあ、いろいろと自分の至らないところを考え始めると、どうしようもなく彼の事を思い出してしまう。
俺は彼と友達になりたくなってしまった。
それで、目の前のアレックス君は放置したらそのまま確実に死ぬ。
だからまあ、ちょっと思い直してほしいだけなのかもしれない。
「別に一生その集落で過ごせとまでは言わないが、人生のついでに巨人族の為にも力をつくしてくれよ。命の恩人からのお願いだ」




