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新住人と、ついでに折れた剣

 とりあえず、俺はひっくり返っている武器職人君をちゃんと寝かせた上で、折れた日本刀をつまんでみた。

 もちろん俺は日本刀の断面をちゃんと見たことがないのだが、とりあえず、なんというか、こう……普通な気がした。

 その上で、巨人族の手には細い刀を軽く振ってみる。

 さくりと、さきほど何とも見事な切れ味を見せた刀は、普通の金属の武器同様に、レンガに軽く弾かれていた。

 俺の扱いが雑だ、というわけではないのだとしたら、まるで魔法が解けたかのような弱体化ぶりである。

 改めて俺は自分の斧を見るのだが、なんというか、こう……全く傷がついていない。流石の強度である。


「魔王様ぱねぇ……」


 さて、この武器職人をどうするべきであろうか。

 彼が何を望んでいたのかを想うと、中々どうしてやるせない。

 なんというか、俺が昔よんだ小説の主人公の様だからだ。


「はっはっは! お前にこの斧が壊せるものか!」

「ふん、そんなことを言っていられるのも今の内だ、みろ!」

「なな?! 魔王様から頂いた斧が、そんな細い剣に?!」

「凄いだろう、これが俺が作った武器の力だ!」

「これは凄い、魔王様にお通ししなければ! ぜひ、俺についてきてくれ! 非礼は詫びる、この通りだ!」

「ふ、仕方ないな……」


 以上、俺の一人芝居である。

 空しい。

 というか、痛々しい。

 なんだ、この茶番は。

 演じてて悲しくなるほどの茶番ぶりである。

 彼は果たして満たされたのだろうか?


「斧を切られて怒る、とは思わないんだろうか」


 ついうっかり、相手の気勢に負けて斧で応じてしまったが、普段の俺なら前蹴りかローキックである。

 もちろん、人間なら死ぬ。腹を蹴られれば内臓を潰されてそのまま死ぬし、足を蹴られたら解放骨折間違いなしなので、やっぱり死ぬ。

 というか、そこらのレンガを適当に投げるだけでも、彼は進退窮していただろう。

 某レトロゲーム『スぺ○○カー』並みに貧弱な体で、この険しい世界を生きられるわけがないのだ。


「まあ、打ったのは頭だから寝かせとくしかないな」


 とりあえず、俺は自分で獲った獲物を一人で平らげることにした。



「ううう」

「おう、目が覚めたか」


 武器職人君は、朝になると目を覚ましていた。

 なんだかんだ言って起きるまで待っているあたり、俺も付き合いがいいと言えるだろう。

 エリック君を想うと、なかなかどうして、こういう奴は見捨てられないのだ。

 少なくとも、普通に武器職人としては腕があるようだし、使い道はあると思うし。


「うわっ、巨人?!」

「ああ、そうだ。昨日の事は憶えてるか?」

「ーーーカタナ!」


 意識を取り戻すと絶叫して、自分の造ったという日本刀を探す。

 丁寧に枕元へ俺が置いておいたそれを見て、彼は絶句して涙を漏らしていた。


「そんな……折れないはずの、曲がらないはずの日本刀が……折れるなんて」

「いやあ、ぶっちゃけ折れるとか曲がるとかは置いておいて、おまえさん、鉄の塊に切りかかったらそうなるのは当たり前じゃないか?」

「この剣は、鉄の塊だって切れるんだ! なのに……!」

「まあ、気にするなよ。お前の剣より、俺の斧の方が強かった。それだけだ」

「良くない!」


 もう完全にヒステリーを起こしていた。

 というか、真剣にマジ泣きしている。

 うむ、物凄い悪いことをした気分だ。

 俺は何一つ悪いことをしていないのに。


「この剣を作るのに、俺がどれだけ苦労を……」

「たくさん作ったとか言ってなかったか?」

「完成品を作るまで大変だったんだよ!」

「そりゃまあ、そうかもしれないが……」

「それが、こんな原始人の持ってる斧に負けるなんて……おかしいじゃないか! お前何したんだよ!」

「ふむ……お前、その盾借りるぞ」


 俺は、彼が出した盾を地面に置いてみた。

 その上で、座ったまま斧を片手で軽く振り上げて……振り下ろす。

 ばかん、と音を立てて叩き割られる彼の盾。

 それを見て、彼は絶句していた。


「とまあ、こんな感じでな。この斧は、お前の武器より強いんだよ」

「ウソだ……おかしいだろ、この盾は……あの刀だって防げるように作ったのに……」

「何度も言うが、気にするなって。もっといいのを作ればいいだろう」

「そんな金、もうねえよ!」

「働けよ……」


 なんというか、諦めるのが早すぎやしないだろうか。

 なぜそこで諦める。もうちょっと頑張ろうよ。


「それにまあ、そのなんだ……」

「なんだよ……」

「俺の斧だって、大切な宝だ。それを一方的に壊そうとしたお前は、そんなに偉そうなことをいうなよ」

「ーーー」


 図星だったのか、黙り込む。

 こういう時正論を言われると、なかなかクルものがあるからな。

 とはいえ、そんなに長々と時間を潰すつもりもない。

 俺は俺で、こう、コイツに用事があるのだし。


「それで、武器職人君。名前を聞いてもいいか?」

「……アレックスだ」

「そうかそうか、ところでアレックス君。お前、俺になんて言って斬りかかったのか憶えてるか?」


『どうですか、その斧を切ることができたなら! その時は前言を撤回して、俺に協力してください!』

『そんなことできるわけがないだろう、というか協力?! 具体的には何を?!』

『俺の護衛をしてください! 道中大変でしたから!』


「……う」

「さて、お前の剣は折れて盾は割れたな。じゃあお前さんの行先は俺が決めてもいいか?」

「な、勝手なこと言うな!」

「お前、それを言う権利があるとでも思ってるのか?」


 ものすごく勝手なのは、お互い様である。

 そもそも、コイツが俺に契約を履行させることはできないが、俺が腕力に物を言わせていうことを聞かせることはできるのだ。


「なに、取って食おうというわけじゃない。金はないが、飯はある。調度ここの国の連中が移住してな、人手は多い方がいいんだ。そこで鍛冶屋でもなんでもやってくれ」

「なんで俺がそんなことを!」

「ふむ……つまりお前は俺に逆らうってことだな?」

「そんなの、奴隷と一緒じゃないか! 一生そこで暮らせって言うんだろ?!」

「人には命がけの護衛をさせるつもりで、自分が負けたらその態度か。それは無いんじゃないか?」


 第一、奴隷とはなんだ。そんなこと言ったら、世の中の大概の奴は奴隷だぞ。


「恩を着せるつもりかよ」

「じゃあお前は何を根拠にあんなことを言い出したんだ」

「……ノリで」


 うん、わかるよ。ノリって怖いよな。

 ついうっかり、敵の国のお姫様をさらっちゃったりするよな。

 でもまあ、ホラあれだ。負けは負けだし。


「大体まあ、お前さん此処から飲まず食わずでまた旅するのか?」

「う……」


 そもそもこいつ、あんまり肉を食ってなかったからな。

 そりゃあ腹だって減ってるだろうとも。

 自慢より先に飯を食うべきだろうに。


「昨日の肉は?」

「もう全部食べたぞ」

「そんな……残してくれなかったのか?」

「いきなり切りかかってくる奴に、タダ飯を食わせる道理はないだろう」

「うう……」

「だが、今日の肉ならある。どうだ、この際新しい街に骨を埋めるっていうのは」


 しばらく迷った後、アレックス君は俺が差し出した取れたての狐肉を食べるのだった。


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