新住人と、ついでに折れた剣
とりあえず、俺はひっくり返っている武器職人君をちゃんと寝かせた上で、折れた日本刀をつまんでみた。
もちろん俺は日本刀の断面をちゃんと見たことがないのだが、とりあえず、なんというか、こう……普通な気がした。
その上で、巨人族の手には細い刀を軽く振ってみる。
さくりと、さきほど何とも見事な切れ味を見せた刀は、普通の金属の武器同様に、レンガに軽く弾かれていた。
俺の扱いが雑だ、というわけではないのだとしたら、まるで魔法が解けたかのような弱体化ぶりである。
改めて俺は自分の斧を見るのだが、なんというか、こう……全く傷がついていない。流石の強度である。
「魔王様ぱねぇ……」
さて、この武器職人をどうするべきであろうか。
彼が何を望んでいたのかを想うと、中々どうしてやるせない。
なんというか、俺が昔よんだ小説の主人公の様だからだ。
「はっはっは! お前にこの斧が壊せるものか!」
「ふん、そんなことを言っていられるのも今の内だ、みろ!」
「なな?! 魔王様から頂いた斧が、そんな細い剣に?!」
「凄いだろう、これが俺が作った武器の力だ!」
「これは凄い、魔王様にお通ししなければ! ぜひ、俺についてきてくれ! 非礼は詫びる、この通りだ!」
「ふ、仕方ないな……」
以上、俺の一人芝居である。
空しい。
というか、痛々しい。
なんだ、この茶番は。
演じてて悲しくなるほどの茶番ぶりである。
彼は果たして満たされたのだろうか?
「斧を切られて怒る、とは思わないんだろうか」
ついうっかり、相手の気勢に負けて斧で応じてしまったが、普段の俺なら前蹴りかローキックである。
もちろん、人間なら死ぬ。腹を蹴られれば内臓を潰されてそのまま死ぬし、足を蹴られたら解放骨折間違いなしなので、やっぱり死ぬ。
というか、そこらのレンガを適当に投げるだけでも、彼は進退窮していただろう。
某レトロゲーム『スぺ○○カー』並みに貧弱な体で、この険しい世界を生きられるわけがないのだ。
「まあ、打ったのは頭だから寝かせとくしかないな」
とりあえず、俺は自分で獲った獲物を一人で平らげることにした。
※
「ううう」
「おう、目が覚めたか」
武器職人君は、朝になると目を覚ましていた。
なんだかんだ言って起きるまで待っているあたり、俺も付き合いがいいと言えるだろう。
エリック君を想うと、なかなかどうして、こういう奴は見捨てられないのだ。
少なくとも、普通に武器職人としては腕があるようだし、使い道はあると思うし。
「うわっ、巨人?!」
「ああ、そうだ。昨日の事は憶えてるか?」
「ーーーカタナ!」
意識を取り戻すと絶叫して、自分の造ったという日本刀を探す。
丁寧に枕元へ俺が置いておいたそれを見て、彼は絶句して涙を漏らしていた。
「そんな……折れないはずの、曲がらないはずの日本刀が……折れるなんて」
「いやあ、ぶっちゃけ折れるとか曲がるとかは置いておいて、おまえさん、鉄の塊に切りかかったらそうなるのは当たり前じゃないか?」
「この剣は、鉄の塊だって切れるんだ! なのに……!」
「まあ、気にするなよ。お前の剣より、俺の斧の方が強かった。それだけだ」
「良くない!」
もう完全にヒステリーを起こしていた。
というか、真剣にマジ泣きしている。
うむ、物凄い悪いことをした気分だ。
俺は何一つ悪いことをしていないのに。
「この剣を作るのに、俺がどれだけ苦労を……」
「たくさん作ったとか言ってなかったか?」
「完成品を作るまで大変だったんだよ!」
「そりゃまあ、そうかもしれないが……」
「それが、こんな原始人の持ってる斧に負けるなんて……おかしいじゃないか! お前何したんだよ!」
「ふむ……お前、その盾借りるぞ」
俺は、彼が出した盾を地面に置いてみた。
その上で、座ったまま斧を片手で軽く振り上げて……振り下ろす。
ばかん、と音を立てて叩き割られる彼の盾。
それを見て、彼は絶句していた。
「とまあ、こんな感じでな。この斧は、お前の武器より強いんだよ」
「ウソだ……おかしいだろ、この盾は……あの刀だって防げるように作ったのに……」
「何度も言うが、気にするなって。もっといいのを作ればいいだろう」
「そんな金、もうねえよ!」
「働けよ……」
なんというか、諦めるのが早すぎやしないだろうか。
なぜそこで諦める。もうちょっと頑張ろうよ。
「それにまあ、そのなんだ……」
「なんだよ……」
「俺の斧だって、大切な宝だ。それを一方的に壊そうとしたお前は、そんなに偉そうなことをいうなよ」
「ーーー」
図星だったのか、黙り込む。
こういう時正論を言われると、なかなかクルものがあるからな。
とはいえ、そんなに長々と時間を潰すつもりもない。
俺は俺で、こう、コイツに用事があるのだし。
「それで、武器職人君。名前を聞いてもいいか?」
「……アレックスだ」
「そうかそうか、ところでアレックス君。お前、俺になんて言って斬りかかったのか憶えてるか?」
『どうですか、その斧を切ることができたなら! その時は前言を撤回して、俺に協力してください!』
『そんなことできるわけがないだろう、というか協力?! 具体的には何を?!』
『俺の護衛をしてください! 道中大変でしたから!』
「……う」
「さて、お前の剣は折れて盾は割れたな。じゃあお前さんの行先は俺が決めてもいいか?」
「な、勝手なこと言うな!」
「お前、それを言う権利があるとでも思ってるのか?」
ものすごく勝手なのは、お互い様である。
そもそも、コイツが俺に契約を履行させることはできないが、俺が腕力に物を言わせていうことを聞かせることはできるのだ。
「なに、取って食おうというわけじゃない。金はないが、飯はある。調度ここの国の連中が移住してな、人手は多い方がいいんだ。そこで鍛冶屋でもなんでもやってくれ」
「なんで俺がそんなことを!」
「ふむ……つまりお前は俺に逆らうってことだな?」
「そんなの、奴隷と一緒じゃないか! 一生そこで暮らせって言うんだろ?!」
「人には命がけの護衛をさせるつもりで、自分が負けたらその態度か。それは無いんじゃないか?」
第一、奴隷とはなんだ。そんなこと言ったら、世の中の大概の奴は奴隷だぞ。
「恩を着せるつもりかよ」
「じゃあお前は何を根拠にあんなことを言い出したんだ」
「……ノリで」
うん、わかるよ。ノリって怖いよな。
ついうっかり、敵の国のお姫様をさらっちゃったりするよな。
でもまあ、ホラあれだ。負けは負けだし。
「大体まあ、お前さん此処から飲まず食わずでまた旅するのか?」
「う……」
そもそもこいつ、あんまり肉を食ってなかったからな。
そりゃあ腹だって減ってるだろうとも。
自慢より先に飯を食うべきだろうに。
「昨日の肉は?」
「もう全部食べたぞ」
「そんな……残してくれなかったのか?」
「いきなり切りかかってくる奴に、タダ飯を食わせる道理はないだろう」
「うう……」
「だが、今日の肉ならある。どうだ、この際新しい街に骨を埋めるっていうのは」
しばらく迷った後、アレックス君は俺が差し出した取れたての狐肉を食べるのだった。




