RPGと、ついでに疑惑
「先に言っておくが、巨人族は人間を食べたりしない」
「……え?」
「よほど腹が減っていれば食べるかもしれんが、態々里に下りて食うようなことをすることはない」
なにやら旅人風の男が無様に腰を抜かしているので、俺はとりあえずそう言った。この国を巨人族が脅かしていたのも事実だが、この国の人間を皆殺しにされたと思われるのもなんか嫌だったのだ。
「それに、人間と違って家財道具を盗むこともないしな」
「そ、それじゃあ何でここに巨人族が?! っていうか、此処には国があるって聞いたんですけど?!」
「ここの連中は全員移住したよ。それが証拠に血の跡もないだろう」
「移住したって……」
ものすごくがっくりして、そのまま崩れ落ちた旅人。
なんか物凄く、こう、哀れだった。
「せっかく、此処まで来たのに……」
「お前こそ何しに来たんだよ……」
ユビワ王国には金もないし資源もない。一種の隔離施設だ。
そんな国に、態々旅をしに来るとは……親戚でもいたのだろうか。
「もう数日飯も食べてないのに……」
「お前の旅計画、間違ってるよ」
少しばかり行き詰っていて、少しばかり気分転換したかったからだろう。
普段なら見捨てていたところだが、俺はこの男と話をしてみようという気分になっていたのだ。
※
たき火で焼いているのは、そこらで獲った猪だ。
結構な大きさがあるので、俺が満腹まで食っても十分余るだろう。
「い、いいんですか?」
「少し余るだろうからな、気にするな」
「巨人族って、原始人みたいな暮らししてるって聞いてたけど、いい人もいるんですね」
おい、ちょっとまて。
切り出した肉を焼きなおしているが、この男は今なんか不穏なこと言わなかったか?
ま、まあそういう表現もあるよね。ここ一応異世界だし。
「なに、気まぐれだ。それよりも、こんな何もないところに何をしに来たんだ?」
「え?!」
ものすごくびっくりして、挙動不審になる旅の兄ちゃん。
夕日の沈んだ空で、廃墟の中で座り込んでいる彼は、物凄く申し訳なさそうだった。
「じ、実は……武器商人と言うか武器職人でして……」
「なるほど、巨人族対策として武器を売りに来たと」
道理で挙動不審なわけだ。
巨人族に向かって、巨人族を殺す用の武器を売りに来たとかなかなか言えないよな。
なにせお前の同族を皆殺しにする武器を売りに来ましたとか。
「だが、見たところ手ぶらに近いが……」
「え、営業に来たんですよ……なにせ、人を雇って運ぶお金もないんで」
そう言って、サンプルらしい品を並べ始めた。兜と盾である。
なるほど、普通の武器の様だ。だが、腑に落ちないことがある。
「この国、金ないぞ。そのことも結構有名だったはずだが」
「そうなんですけど……」
やや涙ながらに、話を始めていた。
「前回、亜人の戦争で人間の結束は大いに乱れました。各地で戦争が起きて、世界は乱れています。それで、思ったんです。今がチャンスだって」
コイツ、なにげに最低の事を言っているのではないだろうか。
まあ、発端となったのは俺の嫁取りなのだろうが、だとしてもこれは無いだろう。
いや、でもまあ、戦乱の世は立身出世の機会か。それも間違っては無いな。
地球でもそう言う時代はあったわけで、この星もそういう時代なのだろう。
「俺、スゴイ武器を作れるんですよ! だから、これを売れば大儲けだと思って沢山武器を作ったんです」
「え、お前商人じゃないのか?」
「職人でもあるんですよ、それで、できた武器を売ろうと思っていたんです」
「だから、ここに来るのはおかしいだろう?」
そこで、自慢げに話していた彼は、何というか一気に落ち込んでいた。
こう、思ったのと違う感があるというか……。
既知感のある落ち込み方だった。
「誰も買ってくれなかったんです」
「なんでだ? よっぽど性能が悪かったか、値段が高くついたのか?」
「違いますよ、まず会ってもくれなかったんです!」
「……え?」
「武器屋に交渉しても、ギルドに属していないやつから武器は買えないとか、領主に会おうとしても身分の分からない奴からは武器を買えないとか! どこも門前払いですよ!」
「そりゃそうだろ」
「俺の武器は凄いのに~~!」
そりゃあ領主だって武器店の店長だって、ギルドに所属していない奴から武器買ったりしないだろう。
ギルドに所属しているっていうのは、身分証明みたいなもんなんだから。
例えば、どこの会社にも所属していない個人が拳銃を作ったから、店に置かせてくれとか国に採用してくれとか、そんな無茶なことを言い出して拒否されただけの事なのだ。
「じゃあギルドに所属して、一から出直せばいいだろう、腕に自信があるなら」
「~~だって、好きな物を作らせてくれないんですよ?!」
「そりゃあそうだろう、見習いに好きなものを作らせて、それを売り出せるわけないだろうが」
「ちっともファンタジーじゃない!」
「リアルだからな」
なんか、俺の中でコイツへの疑念が深まっているのだが。
でも気付かない方がお互いの為だと思うのだが。
しかしまあ、コイツの脳内ではどんだけこの世界はガバガバなんだ。
この世界で魔法と呼ぶに足るものは、精々悪魔族の作った伝説の武器とか程度である。他の物は基本的に生物の範疇だしな。
「だから、実績を作ろうと思って……」
「無理だろ……」
「俺の武器は凄いんですよ!」
俺が焼いた肉を食べながら、そんなことを強弁する武器職人君。
だが、そんなことは机上の空論だよ。だって、君が作った武器を見た限り、巨人族に勝てそうにないし。
ここの国にいた連中がこんな建屋兜をかぶったぐらいで、一般的なダイ族に勝てるとは思えない。
「なんで無理だってわかるんですか!」
「じゃあお前この盾もって、踏ん張ってみろ」
「わかりましたよ!」
武器職人としてのプライドからか、猛然と立ち上がって踏ん張る姿勢を作る。
なんというか、負けてたまるか、という意気込みを感じるが、何の意味もない。
「おら」
「ぎゃあ!」
俺は座ったまま、片手で盾を押し込んだ。
ただそれだけで、そいつはひっくり返って頭をぶつけていた。
単純に、鍛錬が足りない。というか、体重が足りない。
盾が如何に硬かろうと、巨人族の鈍撃に対抗するには『重み』が足りないのだ。
「そ、そんな……」
「その盾がどんなに頑丈でも、持ってる奴がひっくり返って終わりだ。そこの兜も、兜が無事でも頭が砕けて終わりだ」
「俺の武器は、役に立たない……?」
まあ、人間が相手ならそうでもない。
敵の盾や剣よりも硬い武器、というのは確かに有効で意味があるだろう。
だが、それは相手が人間の場合だ。重量が違いすぎる相手に、力任せにぶつかってこられれば、何の意味もなくひき殺されるだけだ。
つまり、この地に来て住民に使ってもらったとしても、結局ぶちのめされて終わりである。
「優れた体格の持ち主が訓練して重装備して、それが何十人もいてようやく倒せるのが巨人族だ。投げ槍や矢を雨あられと降り注がせるようなことでもしないと、普通の人間では勝てないぞ」
「そんな……」
涙目な彼だが、しかしまあ当たり前のことを言っただけだ。
RPGじゃないんだから、強力な兜や盾を装備したら『防御力』が上がって、敵からの攻撃ダメージがゼロになる、ってわけがない。
例えるなら、トラックに轢かれそうになった時、盾を構えて踏ん張っても意味がないのと一緒だ。
その場合必要なのは硬い盾よりも柔らかいエアバックである。
「それに、ここの国の連中は俺達が襲撃するまでも無く……いや、俺達が襲撃したからかもしれないが、収穫期までの食料が無くてな。仮に俺達を迎撃できても、そのまま滅亡してたぞ」
「じゃあ、最初から無駄骨……」
「営業なんて、下手な鉄砲数うちゃ当たる、だろ」
多分、対人武器としては有効なんだろう、多分。
でもまあ、巨人族の攻撃を受けたら、盾が無事でも腕が折れるか全身がぶっ飛んで終わりである。
というか、対人武器を巨人に襲われて困っている人に売るとか……。
「もうこの際地道にやればいいだろ。お前さん、見たところ二十前なんだから、慌てずに下積みを詰んでだな……」
「だって、俺の武器はそりゃあもう凄いんですよ! 試せばわかるのに!」
「試して駄目だっただろうが」
「じゃあこの剣を見てください! これは最高傑作です!」
そう言って、彼が何やら取り出したのは……『日本刀』だった。
うん、やっぱこいつもなんかそういう系だ。
違うかもしれないけど、この世界にも『カタナ』っていう武器があるかもしれないけど。
「どうでしょう、初めて見るでしょう? この剣は凄いんですよ!」
「そうは見えないが……」
というか、日本刀ってスゴイは凄いけど、そこまでスゴイもんではなかった気がする。
というか、使いこなせるのか? 日本刀って、確か引かなきゃ切れないとかそんな話だったような気が……。
「じゃあ試してみましょうか!」
「え、いいよ……別に……」
そもそも、その刀は柄の関係上巨人族には小さすぎる。
俺に対して有用性を示しても、巨人族が買うということはないのだ。
というか、巨人族に資産と言う概念はないし。
「その斧を、真っ二つにしましょう!」
「いや、ムリだろ?!」
総金属製の、銀色の斧。こう、オーラを発している伝説の武器である。
というか、仮にこれが不朽の武器ではなかったとしても、金属でできた斧を日本刀が真っ二つにできることはないと思うのだが
「いいえ、この武器を舐めないでください!」
そう言って、彼は日本刀を手に軽く振るう。近くの廃墟の、その壁を切っていた。
なんというか、誇張された名刀の伝説のように、レンガの壁を切断していた。
それを見て俺はぎょっとする。というか、改めてそいつの手を見る。
どう見ても、職人の手ではない。ぷにぷにとした、柔らかい手だった。
こいつ、もしかして生産系チートなのだろうか?
「どうですか、その斧を切ることができたなら! その時は前言を撤回して、俺に協力してください!」
「そんなことできるわけがないだろう、というか協力?! 具体的には何を?!」
「俺の護衛をしてください! 道中大変でしたから!」
なんか、コイツ一気に図々しくなったぞ。
そんなに怒るようなことを、俺は言ったのか?!
というか、巨人族を護衛にしていたら、返ってトラブル続きだと思うのだが。
「この斧は魔王からもらった、大事な斧なんだ。そっちの剣の切れ味は分かったから、試し切りなんてしないでくれ!」
「じゃあこの武器が凄いって認めますか!」
「いや、巨人族には勝てないな」
「なんで!」
「じゃあ試すか?」
のっそり、俺は斧を片手に立ち上がった。
三メートル半の巨体が立ち上がり、目の前の武器職人を見下ろしていた。
仮に俺が持っている武器が、ただの棍棒でも一緒だろう。
単純に間合いが違うのだ。
「う……」
「せめて槍ならな……」
「そうですか……」
はっきり言って、訓練してないやつが日本刀を持とうがレーザーソードを持とうが、戦闘民族と接近戦なんぞできるわけがないのだ。
コイツは武器の性能を過信しすぎである。
「でも、この剣は、貴方の斧には負けてません!」
「しつこいな……」
「ああ、もういいから構えてください!」
完全にやけくそで、武器職人は刀を振りかぶって襲い掛かってきた。
仕方ないので、やや不安になりながらも俺は銀の斧で受ける。
素人だと分かる動きで、日本刀を振り下ろした彼は……。
ぼっきりと折れた、己の日本刀の破片を頭に喰らって倒れていた。




