新しい課題と、ついでに新しい出会い
一種の供物として、生かさず殺さずの地獄に置かれて来たユビワ王国。
彼らには常に、ダイ族と言う蛮族の脅威があった。
特に前置きもなく表れて、家畜や食料を奪っていく。
ただそれだけと言えばそれまでだが、抵抗すれば命はない。
手に木でできた棍棒を持っているだけの、図体のデカい野人。
そんな彼らに、同族から生贄として差し出された国。
どこにも逃げることが許されず、ただ奪われ続けるだけの日々。
その国の女王エンゲーは、遂に自棄とも言える交渉に乗り出した。
魔王へと保護を要請すること。
人としての血はいずれ断たれるが、己が仔の幸福は保たれる。
そして、そんな長大な事よりも、彼女は喜んでいた。
これで冬が越せる、誰も飢えずに春を迎えられる。
妻を新生ユビワ王国に置いて、タロス王は旧ユビワ王国へ、要石の回収に赴いていた。
※
人のいない国、人のいない町、全てが運び去られた後の都市。
それを前に、俺は一種の敗北感と羞恥を感じていた。
なんというか、こう、アレだ。
あんなに一生懸命頑張っている王様をみて、自分が恥ずかしくなってしまったのだ。
任期を終えれば、後は嫁さんとイチャイチャだ、と思っていた日々が悲しい。
「う~~む」
運べそうなものは、家の壁のレンガさえ無理矢理壊して運び込み、夜逃げを通り越したありさまとなっている。
都市国家というか、村を無理やり国扱いにしていた、そんなところだ。
新生ユビワ王国と旧ユビワ王国をみて、俺は思ってしまう。
俺は王として何かを残すことができるのだろうかと。
俺は王としてやるべきことをやってきた。それは本当だ。客観的にも事実だろう。氏族の者も俺を引き入れようと躍起だし、魔王様も俺の斧を起動させてくれている。
だが、しかし、これでいいのかと言うとそれも少し違う。
いいや、もう少しできることがあるのではないかと思う。
「なにかこう、無駄にならないものをしたいな」
俺は昔の事を思い出していた。
自分の国が、他の国を支援したことをである。
前世では、俺の国は人類史で稀に見る豊かな国だった。
だからだろう、他の国に多くの支援をしていた。
俺はそんな国の事が好きだった。
そんな国に生まれたことを誇りに思っていた。
橋を建造して島と島を繋いだり、病院を建てたり、災害から復興させたり。
いろんな国から、感謝の言葉や賞賛の言葉をもらう、そんな国が好きだった。
そして、俺は今でも印象に残っている記事がある。
今の俺が、巨人族に何の期待もしていないことにつながる、ある記事だ。
「『もっといろいろして欲しいことがあったのに』か……」
日本は金持ちの国だと思われている。
少なくとも、そんなに間違ってもいないし、おかしくもない。
戦争で多くの被害を受けた彼らは、なんとなくこう思っていたそうなのだ。
『日本』が来たら、壊れた道路が元通りになる。多くのインフラが復旧される。病人が全部治療してもらえる。
俺も、それぐらいはするだろうと思っていた。程度の差こそあっても、そういうものだと思っていた。
ビルが建つ、工場が建つ、仕事が増える。豊かな国になる。
そんな、戦争災害の復興支援の枠を超えたことを、彼らは望んでいた。
俺は少なからず思ってしまったのだ。今まで少なからず感じていた想いがねじれた感じがしていた。
もちろん、現地で頑張っている人たちには頭が下がる。
彼らこそ賞賛されるべきで、俺が優越感やらなんやらを感じること自体が間違っていたのだろう。
だから、俺が感じた暗い気持ちも、きっと筋違いなものだ。
ただ、その期待に応えることはできない。それが現実だ。
結局のところ、根付かなければ何の意味もない。
巨人族に何か意味のあることを習慣づけさせたとしても、それが俺が死んだ後でも、いやさ退位した後でも続かねば意味がない。
俺が見ている間しかやらないなら、なんの意味もないのだ。
だから俺は諦めていた。
元々、俺は知識チートができるほど博識と言うわけじゃないし、この世界に存在しないはずのぶっ壊れた力を持っているわけじゃない。
古武術を習っているとか、剣術を習っているとか、そんなこともないわけで。
「なんかねえかなぁ……」
だから今までは、無駄なことを押し付けて反発を招くまいと思っていたのだ。
仮に俺が食料備蓄の方法を教えても、いい加減にやって腐らせるか、或いは自分で食べてしまうか、他の村にとられることになっていただろう。
仮に文字など教えようものなら、そんなことを子供に教えないでくれ、とか言われていたに違いない。
なによりも、そもそも余剰生産力というものがない。
こんな状況で何をどうしても、何の意味もない。
そもそも、何かさせることができない。
だから、何もしなかったのだ。今までは。
何かを残したい。
巨人族に根付く、意味のある何かを。
他の氏族に頼らなくても、数代ぐらいは存続しそうな何かを。
確かに俺は、チートではないのかもしれない。
しかし、巨人族と言う氏族の中で、もっと優れた体格と言う才能を持って生まれたのだ。
しかも、その資質を開花させえるには十分な栄養を、王の息子である俺は食べさせてもらっていたわけで。
これは一種のチート魔力とか、そう言うのと変わらないのではないだろうか?
であれば、もうちょっと頑張ってもいいと思う。
「う~む」
既に要石は外してある。
故に、もうここにいる理由はないのだが……。
文化と文明の残骸を前に、なんというか……少しは考えがまとまるかな~~という頭の悪い期待があった。
しかしまあ、少し考えて思いつくぐらいなら、とっくにどうにかしていただろう。
全くなんにも思いつかなかったから、今まで放置していたわけで。
「せめてなんか普及させたいな……」
そうでないと余りにも無関心すぎる。
マリーが俺を好いてくれたのは、王としての責任感と彼女と言う女性にほれ込んだからだ。
任期が終わるまで平常業務だけ頑張ろう、では彼女もその内呆れてしまうのではないだろうか。
何か、意味のあることに力を尽くしたい。俺はそう思っていた。
「ん?」
背後に気配を感じる、振り向いてみると……。
「きょ、巨人だ!」
びっくりしている、旅人姿の男がいた。普通に、人間の旅人だった。




