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混血のメリットと、ついでに新しい村

「ようこそおいでくださいました、タロス王、奥様、エンゲー女王!」


 半鳥族の女王ツミレが、ばっさばっさと羽ばたきながら降りてきた。

 ひぃ、と悲鳴を上げそうになるエンゲー女王だが、まあ無理もあるまい。

 なにせ半鳥族は人間の想像するハーピーとか天使とか、そういう有翼種よりもすごく羽がでかいのだ。

 まして女王であるツミレの翼は大きさなら、片方だけでも俺の体格よりもずっと上である。

 渓谷地帯、と言うのだろうか、背の高い木がない、緑の少ない地域でそんなのが現れたらそんなことにもなるだろう。影だけでも大分デカいし。

 ただ、こいつらそんなにケンカは強くないのだ。飛ぶことに特化しすぎてきて、他の事がさっぱりなのである。

 喧嘩などしようものならあっさりへし折れる貧弱な骨格をしているのだ。

 骨密度が最初から、とんでもない骨粗しょう症状態なのである。


「こうして人間の血を迎えることができるとは、ああ、おお、これも我が氏族への新しい門出なのでございましょう!」


 やたら大仰に翼を広げて踊るように歌うツミレ女王。

 一体、何がそんなに嬉しいのだろうか。


「半鳥族は知識の伝承が成されている一族。色々と知っていることがあるのでしょう」


 ここまで道案内をしてくれたスッパが、そんなことを言ってきた。

 なんというか、半鳥族にはメリットが大きいらしい。それこそ、大喜びするほど。


「その……歓迎してくださるのは嬉しいのですが、何がそんなに嬉しいのですか?」


 護衛と共に困惑するエンゲー女王。

 大丈夫だ、こいつらはいつもオーバーリアクションだ。

 強いてい言えば、オーバーリアクションを取る余裕がなくなったときが、こいつらにとって異常事態である。

 歩き疲れた時とか、飛べなくなった時とか。


「ええ、では道中説明するといたしましょう! 我らの足でも、すぐそこですから!」


 とことこと、薄い茶色の地面を歩いて行くツミレ女王。

 その足が鳥特有の、枝をつかむ足であることにやや驚きつつも、エンゲー女王とその護衛も付いていく。

 要石を抱えた俺とマリー、それからスッパとその部下も続いていく。

 それにしても、半鳥族の縄張りに入るのも初めてである。

 不毛の砂漠と言うわけではないだろうが、こいつら普段何食ってるんだろうか。

 どこにでも現れる連中なので、その辺りの認識がいい加減だった。特定の住処があることは流石に知っているのだが。

 まあ、隣の国の都合なんて原始的な村社会ではどうでもいいことなのかもしれない。


「既にご存知かどうかは知りませんが、人間は九氏族の如何なる者とも子をなせるのです。それも夢魔族と違って、生まれくるものは双方親の特性を引き継いでおります」

「ええ、それに関しては説明を受けました。軽く羽毛の生えた人間や、飛ぶのが少し苦手な半……ハネ族が生まれると」

「その通りですが……もう一つ大きなメリットがあるのですよ」


 その言葉を聞いて、マリーは俺に抱えられながら身を乗り出していた。

 遠くない未来、俺の子を産むつもりの彼女にとって、自分の子供の未来は気になるのだろう。


「我らの氏族は村ごとに住処の形式が違うのです。大きな木の枝を折って木の上に簡単な家を作る者もいれば、土の壁の横穴に暮らす者もいます。その中で、大きな木の穴に身を隠す者がいたのですが……」


 本当にこいつら鳥みたいな生活してるな……。

 というか、人間よりもサイズ的にはデカいのに、そんな暮らしが成立するのだろうか。

 その分、木々が大きいのかもしれないが。


「空を駆けあらゆる土地に赴ける我らにとって、最も恐るべきものが何だかわかりますか、エンゲー女王」

「申し訳ありません、私には想像することも……」


 一つの都市国家に押し込められて、そのまま過ごしてきたエンゲー女王。

 およそ、国境と言うものに縛られない半鳥族の自由さは、想像もできないに違いない。


「病気ですよ。我ら半鳥族は多くの土地に赴きますが、流行り病こそが最も恐ろしい」


 とても、真面目に、深刻そうにそう言った。

 たしかに、それはもっとも恐れるべきことだろう。

 日本人として知識のある俺は、その言葉の恐ろしさをよく理解していた。

 というか、教養のあるマリーも、隔離された都市国家の長であるエンゲーとその一行も、その恐ろしさがよくわかっていた。

 なにせ、下手をしなくても一つの共同体が丸々消滅することもあるのだから。


「槍も弓矢も恐れぬ我らは、病魔をこそ恐れます。病に気付けば自ら墜死を選ぶ者もいるほどですが、問題は病に気付かず村に戻ってしまった時。村の者が皆病に倒れることもしばしばでした」


 そして、そのまま栄養を取れずに全滅、と言うこともあるだろう。

 些細な病気でも、貧弱な半鳥族には致命的だ。

 なにせ、火を起こすことも、湯を沸かすことにも難儀しそうであるし。


「そんな時頼れるのが、人との混血の子でした。彼らは飛ぶことこそ純血のものほど上手くありませんが、頑丈で病気にも強いですからね。病の熱に屈することもなく、方々を飛んで家族に食事を与えてくれたのですよ」


 なるほど……種の多様性を維持するためと言う事か。

 確かに病気の耐性を考えれば、血が濃くなりすぎることは好ましくない。

 かと言って、夢魔族と子をなしても夢魔族しか生まれないと……。


「私は見ての通り、ハネ族としての性質が濃いものですから、おそらく病気が流行れば真っ先に倒れるでしょうね」

「そうですか……」

「そういう事情もあるものですから、我らハネ族は人間との子は厚遇することにしているのですよ」


 そういう正しい知識が経験則として遺されているのは大きいな。

 なんというか、こういう時に色々なことがスムーズだ。

 純血にこだわって絶滅するとか、全く笑えないし。

 というか、その理屈だと俺も巨人族としての血が濃すぎる気も……。


「それに、人間はヨル族やカミ族同様に、手先が器用で多くの物を作り出せますからね。我らにしてみれば、近くに協力的な人間の村があるのは好ましいのですよ」

「ご期待に沿えるように、頑張ります」

「ははは! そう固くならずに! 貴女も今日から我らの氏族、どうか私の翼に甘えてくださいな!」


 と、軽快に笑うツミレ女王。

 いいなあ、正しいことが理屈を含めて正しくできる氏族って……。

 正直憧れてしまう。

 と、渓谷の合間を縫って歩いて行くと、狭いながらも森林地帯と平らな土地。

 何よりも家の跡が見えてきた。


「あそこが遺跡となっております。少々手狭かもしれませんが、その辺りはお任せしますよ。なにせ貸せる手がありませんので」

「え、ええ! 住む場所をいただけるだけでも!」

「近くには河や湖などの漁場と、麦の棚畑の跡地があります。その辺りも、お好きなように活用なさってください」


 流石に、元々人が住んでいただけの事はある。

 なんというか、道の後のようなものも残っていた。


「ではタロス王、どのあたりに要石とやらを設置されるので?」

「それはエンゲー女王に聞いてくれ」

「はい……では」


 遺跡のど真ん中では多少面倒だろうと、少し離れた場所に光沢のある岩がおかれた。

 つまり、此処が出口となるのである。

 後は入り口を設置するだけだが……。


「ご安心ください、タロス王。既に我が氏族の者が、エンゲー女王の直筆の手紙を届けておりますから」

「そうか、じゃあ俺が行っても大丈夫だな」


 エンゲー女王にはこの辺りを見てもらうとして、俺はマリーを置いていったん魔王城に戻ることにした。

 俺一人なら、そんなに問題ではないのである。

 おそらく、明日のうちにはワープゲートが開通するだろう。


 というか、我が氏族の者はユビワ王国を襲っていないだろうが。

 食事を配ってからしばらくたっているので、少し不安である。

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