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ゴリラが瓶と奮闘することと、ついでに蟹退治

 さて、カニをふんじゃったわけなのだが、四方八方から鬼人族ぐらいの身長がある、俺の体重の倍程度はありそうな蟹が目の前に現れた。

 それも十や二十ではない。百とか二百ほどではないが、五十はいる。

 海底の蟹が頭に海草を乗せて擬態することがあることは知っていたが、まさか木を乗せて擬態しているとは。

 ふと蟹の足元を見ると、そこには水が多少たまっていた。

 おそらく、この近くは湿地なのだろうか。なんだか植生がよくわからん。


 とはいえ、やることに変わりはない。

 俺は手に斧をもって、とりあえずガードジャンプした。

 だんだんだん、と銀色の円盤を踏んで、跳躍して真下を見下ろす。


「よし、普通に生物だな」


 流石に、空を飛ぶとか飛び道具を使うとか、重なり合って攻撃してくるとか、そういう生き物の限界を超えた行動はしてこない。

 やはり、この世界の生き物は大分慎みを知っているようだ。

 ガードジャンプというか、普通に空中に足場を出して待機する。

 とにかく、目的のブツは確かに発見した。後はブッ叩いて泡を吹かせるだけである。


「蟹さん蟹さんどこ行くの? 右か左か地獄だよっと!」


 蟹に泡を吹かせる方法など、前世でも今生でも聞いたことがないし考えたこともない。だが、まずは片っ端からぶった切ろう。なに、俺が死なないなら何度でもやり直せるんだから。

 数回ほど加工しながらガードジャンプし、俺がダメージを受けない高度から、少し蟹の群れから離れた安全な場所へ着地する。

 もちろん横歩きで大量の蟹が殺到してくるが、それでもなんの問題もない。

 五体位だったら棍棒でも倒せるし、こっちには魔法の斧があるので五十ぐらい何のこともない。


「チャージ攻撃だっ!」


 シダ植物の合間を縫って襲い掛かってくる蟹への、溜めからの範囲攻撃。

 前回もそうだったのだが、この斧がチャージを行うと明らかに刃渡りよりも広い範囲を攻撃できている。

 仮に風呂桶いっぱいに豆腐を作ったとして、その豆腐を包丁で切ったとして、その包丁の刃の長さ分しか切れないはずだ。

 しかし、この斧は違う。チャージして攻撃した場合、明らかに攻撃判定が広がっている。

 斧を横凪に一閃、それだけで数体の蟹が木々と一緒に断面を晒す。

 多分、まあ即死ではないだろうが、とりあえず行動できないだろう。


「ダッシュ攻撃だっ!」


 ダッシュしながら斧で斬り進む。

 要するに当たるを幸いに斧を振り回しながらダッシュで駆け抜ける。

 一応、狙うのは胴体ではなく手足だ。

 何本もあるが、胴体を切り込むよりは意味があるだろう。

 この魔法の斧は、斧として見ても非常に切れ味がいいのだが、それでも流石にこの大きさの甲殻類を切り込めるとは思えない。

 と言うか、刺さって抜けないのが最悪だ。

 とにかく足を止めてはいけない。


「鍋にするぞオラァ!」


 これはそれなりに場数を踏んだから言えることなのだが、一対一と多対一は全然戦闘方法が違う。

 一対一で戦う時は、メザと戦った時のように腰を据えて戦った方が怪我をしないで済む。

 その一方で、多数と戦う時はとにかく突っ走ることだ。陣形を組んでいるわけでもないのなら、走らねば囲まれて潰されるのが落ちである。

 とにかく、立ち回りが重要だ。足を止めたら背中を刺されるのが当然であろう。


「ダッシュキックだ!」


 ダッシュで加速したまま、正面の蟹を蹴り倒す。

 そのまま走って、大きく迂回して再度蟹の群れに突っ込む。

 とにかく、相手に的を絞らせてはならないのだ。


「背中が隙だらけだ!」


 ダッシュを解除して、チャージで切り込む。

 冗談から振り下ろせば、斬った蟹の向こう側の蟹も蟹味噌をぶちまけている。

 よし、カニだ。普通にカニだ。

 なんというか、こう、ハサミが一瞬で再生するとか、そんな誇張された能力は無い。

 普通に、少しデカいだけの蟹だ。

 これならいける!


「オラオラオラ!」


 もう、俺は完全に開き直っていた。

 もうこの世界がアクションゲームでいいや、と開き直っていた。

 その発想が、俺に自由度を広げてくれた。

 オープンワールド系のアクションゲームだと思えば、それなりに戦い方もわかってくる。

 その理屈なら、RPGの如く大量の魔法を憶える必要もないし、格闘ゲームのように複雑なコマンドやコンボを憶える必要もない。

 ダッシュとジャンプと攻撃のボタンを憶えたら、後は敵に攻撃されないように立ち回るだけだ。

 魔法の属性とかそんなことを考える必要は一切ない。殴ってるうちに死ぬし、死なないなら走って逃げればいいのだ。


 銀色の閃光とか白銀乱舞とか、破壊の斧とか大邪竜猛烈斬とか、そんなカッコいい技の名前とか考えなくてよかったのだ。


 そんなのを期待していた心が、無かったわけでもないのだけども!

 ちょっと考えていなかった訳ではないのだけども!

 言わなくてよかったとか、安心していないわけではないのだけども!


「巨人族の餌にしてやる!」

「看板にしてやる!」

「モニュメントにしてやる!」


 見当違いな殺意をもって、俺は蟹の群れを悉く切り裂いていた。


「蟹 の群れ が全滅した!」


 なんとなく、空しくなってそんなことを言っていた。

 蟹が出てきた穴に、ほとんどの蟹は落ちている。よって、その水たまりに足を突っ込みながら俺は蟹の死体を確認していった。

 なんというか、微妙に動いているが流石に攻撃はできないだろう。

 その口元から泡を吐いていた。

 これが、こう、なんかの魔法的な触媒とか材料になるのだろう。

 しかし、コレって普通に考えて斧が凄いのであって、俺が凄いわけではないと思う。客観的に考えて。

 それにワープゲート的な物に関しても、ぶっちゃけ俺が凄いわけじゃないし。

 なんというか、物凄い違和感を感じてしまう。


 間違いなく、この武器はこの世界におけるだ。

 それを使って無双したわけなのだが……。やっぱりちっとも楽しくないわけで。

 なんというか、毎度思うのだが……やっぱり日本人は日本人の価値観を持って生きていくなら、日本で生きた方がいいと思う。どう考えても文化や社会とどうしようもなく軋轢ができるし……。

 そもそも、競う相手がいない、倒すべき相手もいない状況で、こんな他人からのもらい物をぶんぶん振り回しても、全く楽しくない。

 というか、競う相手や倒す相手がいる時点で、やっぱり楽しくないと思うし。


 ただまあ、それはこの世界で勝ち組に分類されている俺だから、という自覚もある。

 この世界で負け組に生まれたユビワ王国の御仁らに積極的に協力する気になっているのも、まあそういう理由なのだろう。

 砂漠に水を撒く行為をせず、氏族に餌をやることに疲れ、せめて困っている人に何かをしてあげたい。

 そんな精神が俺にはあったのだ。


「さて、あわあわ……」


 瓶の蓋を開けようとして、コルクを指でつまむ。

 引っ張るが、抜けない。


「ん?」


 つかんで、渾身の力を込めて引っ張るが、抜けない。

 ひねっても、押し込んでも、まるで動かなかった。


「んん?!」


 振り回したり、叩いたりとアプローチしたが、まるで瓶のコルクは抜けなかった。

 というか、巨人族最大最強の俺が力を込めているのに、まるで壊れないところを見ると完全に悪魔族が作った代物である。

 おそらく、この斧でブッ叩いても壊れないだろうことは確実だ。

 というか、壊してどうする。


「ゴリラの思考実験じゃないんだから……」


 曰く、タコは瓶の蓋をひねって開けることができるという。

 今まさに、俺はそんな感じなのだが……。


「待てよ?」


 俺はある可能性に至り、その瓶をそのまま蟹の口元に運んでみた。

 すると、コルク部分がその泡だけを通して中に吸い込んでいく。

 どうやらコルクの蓋が外れないのは仕様で、フィルターのような役割を果たしていたらしい。

 わからねえよ、こんなもん。


「すげえ馬鹿にされた気分だ……」


 道具チートで活躍している主人公から道具を渡された現地人は、皆こんな気持ちなのではないだろうか。

 俺は、割と切実にそう想う。

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