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便利なコンパスと、ついでに説明不足

「まさかワープゲートまであるとは、スゲーなカミ族」


 要石とか言うワープゲートの出入り口を、以前の悪魔族が作ったという。

 ただ、これはなんでも言えることなのだが、悪魔族は新しいものを作るのが好きなのであって、同じものを作ることには情熱を注げないらしい。

 職人気質と言うか、発明家と言うか、特許獲るのが趣味なんだろうか。

 まあ、人生が長いんならそういう趣味でもないとやっていられないんだろう。

 でも、もう少しこう、色々作って欲しいと思っている俺がいます。


「とはいえ、設置には一手間必要とはな……」


 今俺は、ダッシュで未開拓地帯を走っていた。

 以前のブロントサウルス的な恐竜を捕獲したところとはまた別で、シダ植物的な背の低い木々の生い茂る地帯だった。

 ハネ族から渡されたコンパスの様なものを目印に、俺は走っていた。

 なんでも、設定された目標に向かって常に向く矢印らしい。

 もっと距離とかそういうものも教えて欲しいが、その辺りはいい加減で困る。


 流石に、巨人族サイズで靴を作っても、これだけの距離を走るとなるとあっさり壊れるので履いていない。

 足の裏には、雑多な植物や虫を踏みつぶす感触が伝わってくる。

 まあ、それ自体はどうでもいい。

 なんというか、あんまり好ましくないが、それはそれとして一々腹を立てることではないからだ。


「それにしても、この瓶に移すだけでいいとはな」


 巨人族の手で持つには手ごろな大きさの瓶。ガラスなのかどうなのか、透明で中身は空。蓋にはコルクのようなものが使われている。

 どうせこれも便利アイテムなのだろう。こう、中の鮮度が保たれるような。


「楽な仕事だといいんだが……そうでもなさそうだな」


 まあ、巨人族に食料を供給するような、そんな終わりの見えないわりに苦労のかいがない戦いよりはだいぶいいんだが。

 彼女も王として、民衆に対して責任感を感じているのだろう。

 マリーもそうだが、そういう好悪を越えた義務感には感じ入るものがある。

 少なくとも、俺と違って極力自分でできることを全部やってから、にっちもさっちもいかなくなって、そこから俺達に頼ってきたのだ。

 大分好ましい。少なくとも、俺よりもいい王だ。


「それにしても、俺より背の低い木ばかりだな。それに、なんか磯臭い……海が近いのか?」


 まあ、どこかに向かって走れば、その内海に位たどり着くだろうが……。

 だとしても、懐かしいとか一切思えないな。どうせ砂浜とかなさそうだし。

 海、砂浜……クラゲとか居そうだな。刺されたら死にそうな奴。

 流石に、その辺りを都合よくファンタジーだとは思うまい。

 でも、いいなぁ……マリーの水着か……妊娠したら着れないし……今度聞いてみようかな、湖とかでもいいから。


「……ん、コンパスが」


 手に持っていたコンパスが、激しく振動しだした。

 針を見てみると、何というかすさまじく小刻みに揺れている。

 右とか左ではなく、下を指していた。


「近いのか……?」


 ダッシュを解除して足を止める。

 その上で周囲を見渡してみた。

 半端に俺の背が高いので周囲は良く見えないのだが、少しかがめばシダ植物の森の葉の下の植生が見えるし、少しばかりジャンプすれば、そこそこ遠くを見晴らせそうである。

 オーシャンカッターとかいう怪物の、その泡を瓶に詰めろと言う話だが、それがこの近くにいるのだろうか?

 見える範囲には、それこそシダ植物の群生地帯しか見えないのだが。


「……とりあえず、近くに行けばわかるとか、向こうから動き出すとか言っていたが……」


 説明不足と言うか、知ってて当然だろ、というフラグと言うか……。

 こういう時困るから、ちゃんと説明してくれないと困るんだが。


「しかし、よく考えたら泡ってなんだ? いや、泡の存在は知っているが……」


 どすどすと、俺は歩いて行く。

 警戒していないわけではないのだが、そもそもこの辺り、植生からしても大型の何かがいるように見えないのだ。

 この間のブロントサウルス的なのがこの辺りにいたら、それこそ踏み散らしているし、植物を食い荒らしているだろう。

 にもかかわらず、この辺りにはそれらしい痕跡がない。

 飛んでいるのか、地面に潜っていたりするのだろうか?


「ん?」


 ぐらり、と片方の足を乗せた『地面』が動いていた。



「これが、要石ですか」

「この石に、そんな力が」


 魔王城の宝物庫に安置されている、一メートルほどの黒い石が二つ。

 不思議な光沢と滑らかな質感があり、その表面には複雑な文様が刻まれていた。

 これが実際に説明通りに動き、それが製作者であるカミ族の御業というのなら、正に神を名乗るだけの事はあるだろう。


「遠くの場所へものを動かすというのは、多くの方向から試され、実証されていた。多くの者を移動させるには向いているというだけで、有用ではあっても珍しいと思うものではないな」


 説明をしているシルファーは、本当にどうでもよさそうだった。

 壊れたらまた作ればいいと思っているのか、奪われても壊せばいいと思っているのか。

 そもそも、自分達以外には使いこなせないと思っているのか。


「しかし、機能は保証しよう。調度備蓄が尽きている材料が揃えば、後は設置するだけで良くなる」

「それで、オーシャンカッターとはどのような怪物なのですか?」


 オーシャンカッターなる怪物の、その泡を精製したものが必要だという。

 それを探すための道具と、採集するための瓶を、ハネ族に渡してタロス王に届けているという。

 もちろん、カミ族の頂点である魔王の作り出した伝説の武器を持っているのだ、早々後れを取ることはないと思うのだが。


「なに、少々サイズは大きいが、サンダードラゴンに比べれば何ということもない相手だ。固い体を持っているのだが……大斧ズィーベンさえあれば問題ない。そうだ、標本があるのだ、見てみるか?」


 宝物庫から少しばかり離れたところには、博物館もかくや、という骨格標本や剥製が並んでいた。

 訪れる者が少ないからか、劣化もほぼしていない。

 魔王にしてみればサンプルの一部でしかないのだろうが、エンゲー女王にしてもマリー王妃にしても、今にも動き出しそうな猛獣や怪物がそのまま存在している姿に圧倒されていた。


「うむうむ、これだ」


 そして、二人は魔王が案内した標本を見て絶句していた。

 青い甲殻、細い脚、太い腕。飛び出た小さい目に、触覚。

 明らかに人外魔境の生物だった。

 見上げるほどの巨体もあって、歯の根が合わなかった。


「泡にしても一体からはさほど取れないが、幸い群生しているのでな。普段は植物を背負って擬態しており、上空から探しても見つけられん。しかし、一旦踏みつければそのまま向こうから攻撃してくるのだ。あのコンパスさえあれば見つけることは難しくない」


 その標本は、知っている者が見ればこういうだろう。

 2メートルほどの、『かに』だと。

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