便利すぎる道具と、ついでに手間のかかる事
「何というか、今まで領地を走り回っていたのが馬鹿みたいに思えるな」
文明の利器と言うか、神の御業によって猛スピードで移動できるようになった俺は、団体行動をしなくていいなら縄張りの中を一日で移動できるようになっていた。
高速移動して森の中を移動し他の村を目指し、更には獲物を見つけ捕らえる。それだけで全ての問題が解決するのだ。
もちろん、獲物を抱えて運ぶという手間はどうしようもなく発生するのだが。
「とりあえず、これぐらいあればいいだろう」
大型の熊を三頭ほど捕えて、その全てを一つの村の前に置いていた。
とりあえず、これでほとんどの問題は解決したと言っていいだろう。
各村を回り、数日分の食料を渡していく。ユビワ王国とかいう国近郊の村は、概ね周り終わったと言っていい。
まあ、その近くにだけ食糧を供給する、ということをしても他の村に襲われることになるので、その辺りには配慮しなければならないのだが。
「とはいえなあ……」
ここまで便利な道具を想うと、少し心境は複雑である。
前回嫌と言うほど思い知ったのだが、この斧は結局俺の私物ではなく王の武器である。私的に利用しないのは当然のことながら、永久に俺の所有物と言うわけでもない。
俺とマリーや生まれてくるであろう子供たちに食わせる分には、今まで通りに地道に歩いて回る程度で済む。
問題は、次にこの斧を手にする王のことだ。
正直今までこの斧は、ただ頑丈なだけの斧だったわけだが……。
今後は凄い魔法の武器と言うことになる。
仮にこの斧を持った奴が武器を起動させてもらったとして、俺を殺しにきたらどうなるだろうか。
それを魔王様が察知するよりも早く、俺やマリーに被害が及べば……。
その時は相当凄惨なことになりそうである。
「あんまり好かれてないからなぁ……」
今までは守るものなどなかったので、嫌われることも大して怖くなかったのだが、今はマリーがいる。彼女の為にも、好感度というものを考えておいた方がいいのかもしれない。
しかし、口ではどう言っても、氏族全体に食料を供給しているのは俺だからなぁ……。いくら巨人族が馬鹿ぞろいでも、その辺りの義理はあるし……。
そんなに期待できる義理と人情ではないが、態々俺の住処を探してボコボコにするほど暇でもないだろうし、そもそも魔王様のお気に入りであるマリーに手を出すだろうか?
出す奴は出すだろうなぁ……。その辺りも、色々考えるべきだろうか。
「問題は、悪魔族か」
そうした先の問題を一切考えないとしても、俺を頼ってきた近くの国の女王を想うと色々と難しい。
マリー個人ならまあ我慢できても、人間の国一つを贔屓にすれば、きっと不満に思う輩も出るだろうし。
となると、巨人族が気づかない範囲で力になるしかないわけで。
その場合、おそらく悪魔族の作る道具に頼るしかない。
ただ、それは物凄く複雑な心境だった。
「悪魔の力を借りるってのは、なんていうかおっかないしな……」
※
「君達の保護か、それは構わないよ」
謁見の間で玉座に座っている魔王シルファーは、比較的あっさりと女王エンゲーに許可を出していた。
それを受けて女王はホッとするのだが、しかし諸問題の解決はまだしていない。少なくともユビワ王国の国民を安全な地帯へ、巨人族にも他の人間にも見つからないように移動させる手段が必要だからである。
「ただ、少し前に戦争があって、それでまだ気が立っている氏族ばかりだ。その辺りは配慮した方がいいだろう」
もちろん、ユビワ王国は戦争に参加などしていない。
しかし、そんなことは他の氏族には関係ない。
一々どの国に所属している人間なのかなど、確認して行動などしていないからだ。
人間は人間とまとめて考えている。まあ、ユビワ王国の人間も自分たちに被害を加えている近郊の巨人族と、全く関係のない奥深いところの巨人族の見分けなどしていないのだが。
「たしか……半鳥族の領地の近くに、前に移住してきた人間の村があったね」
「はい、まだ跡地はあるかと」
脇にいたラッパ王が答える。
とはいえ、耳しか出していない以上彼をそうだと判別するのは声だけなのだが。とはいえ、同じ氏族だと中々見分けるのも難しい。
「問題は、そこへ移動するまでどうするか、か……流石に箱舟は目立つ」
箱舟、という言葉を聞いてマリーもエンゲーも硬直する。
箱舟と言えば十人の王がこの大陸へ上陸するために使ったという船である。
正に神話の代物なのだが、彼にしてみれば昔使った船、という程度なのだろう。
「……ふむ、では要石を使おうか」
「なんでしょうか、それは」
魔王の呟きに、マリーが訪ねていた。
なんというか、今更どんな道具が出てきても驚かないのだが、それでも機能は確認したいところである。
エンゲーも無言ではあるが、聞き逃すまいと構えていた。
なんというか、少年の幼さのある姿をしている魔王は、少年故の無邪気さと長命種ゆえの超然とした雰囲気が漂っている。
それが、一種の恐怖に繋がるのだ。もちろん、その無茶苦茶さを知っているマリーはなおの事であるのだが。
「二つの地点を繋げる出入り口、と言ったところか。それを使えば安全に、しかも大量の人間を移動させることができる」
「それは凄いですね……」
「その要石の入り口側を君達の国に、出口側をその村に設置すればいい」
なんとなくわかることなのだが、とにかく入り口と出口をユビワ王国と移民先に設置する必要があるのだろう。
問題は、それがどの程度の大きさか、ということだった。
「とはいえ、そんなに大きくない。ダイ族なら小脇に抱えられる程度の大きさと重さしかない。だが……しばらく使っていないから、動力があるかどうか……」
少々の手間が必要だった。それをどうするのか、彼は考えていた。
「ふむ、まずはマリーの婿に色々と頑張ってもらおうかな?」




