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援助の節度と、ついでに前例の話

「ふむ……そうか……」


 食事を終えると全員が椅子に座り、その上で話を一しきり聞いて、巨人族の王であるタロス王はしばらく目を閉じて考えていた。

 その行動の先にあるものを、である。


「魔王様に会いたいというのなら、それには力になれる。だが、そこから先はとても難しい」

「どういうことでしょうか?」


 もちろん、魔王領の主である魔王に会う許可をくれる、会わせてくれるというのなら、正直他のことをああだこうだいうことはない。

 むしろ、それだけで十分だともいえる。

 そして、それがわかっていないようにも見えないのだが。


「俺は巨人族の王だ、あくまでもな。よって、私的な感情はともかく、公的に動くとなると難しい」


 王というものの重さは、よくわかっている。

 どんな動機であれ、王として認められたからには、しなければならないことというものがあるのだ。

 同時に、してはならないこともある。


「そちらの国民が列をなして、巨人族の領地を横切るのなら、それは数日仕事になる。それはとても目立つし、反感を買うだろう。生憎だが、王として、ダイ族の者として、表立って支援はできない」


 それは、確かに絶望的なことだった。

 なにせ十数人と言う少人数でも、道中睨まれることがあった。

 これが数千人、それも子供も混じる状況ではそううまくはいかないだろう。


「だが、その辺りも魔王様と話すことだ。そして、俺は貴女方と一緒には行動しない。とりあえず、今回の一件で不審に思う連中の為に、また一回りして食料を配ってくる。それから、エンゲー女王をここまで連れてきたミミ族と話がしたい。呼んでくれ」


 ミミ族特有の可聴領域を越えた会話によって、ほどなくして一人の黒い耳をしたミミ族が現れた。


「ミミ族の衆長、スッパと申します」

「そうか……それじゃあスッパ、聞こえていたかもしれないが、エンゲー女王を魔王の城までお連れしてくれ。それから……俺の妻も頼む。アンドラも同行してくれ」

「承知いたしました、身命に変えましてもお守りいたします」

「お任せください、奥様の身は我らが守りましょう」


 基本的に、ダイ族にとって女とは家を守るものである。

 元々、マリーがタロス王と共に行脚していたことも知らない。

 故に、タロス王が氏族の村を回っている限り、マリーが何をしているのかなど一切気にしないのだ。

 また、マリーが一緒に着てもタロスの手助けにはならないが、しかしエンゲーにとっては大きな手助けになるだろう。


「マリー……力になれない俺の分も、彼女の力になってあげてくれ」

「わかりました……ようやく貴方のお役に立てるかと思うと、嬉しいです」


 下手をすると、エンゲーがいない間にユビワ王国を滅茶苦茶にする、と言う可能性もある。

 その辺りの問題を解決するために、さしあたって人間と近い村を優先して回るつもりだった。

 仮にそのまま滅亡したとしても、今までであれば放置したが、流石に一旦保護を求めてきたとすれば話は別である。

 最大限、果たすべき努力いうものがある。


「俺はこの斧を使って、”ダッシュ”で回ってくる。そうすれば、連中も多少はマシになるだろう」


 そう言って、銀色の斧を手に彼は立ち上がった。

 椅子に座っていても強大な彼だが、立ち上がるとなおのこと勇壮である。


「申し訳ありません、余計な心労を……」

「気になさらないことだ、エンゲー女王。貴女は滅びかけた国の女王として、俺は野蛮人の王として、成すべきことを成すだけの事だ」


 正直に言えば、飢饉でもないのに村々を回って食料を配るというのは、余り好ましくないことである。

 そもそも、前回とて結婚式と言う慶事だからこそ、ああした大盤振る舞いも許されたのだ。

 一旦ヨル族の味を知れば、そうそう普段の暮らしには戻れない。

 汗水たらして獲物を狩るよりも、タダ飯の方が美味しいというのは、やはり健全とは程遠いのだろう。

 まして、それが貯蓄の概念のない相手には、である。


 はっきりと言えば、そういうものだと知識の上でもよく知っている。

 衣食を足りて礼節を知ると言うが、しかしそれは一定の向上心があって成立するものである。

 狩りをしなくても餌が手に入るなら、狼もブタになる。そういうことでしかない。

 簡単に見えたあの結婚式も、実際には多くのハネ族、ミミ族、ヨル族の献身あってこそである。

 獲物を捕らえることはタロス一人でもできることだが、調理するとなるとどうしても氏族の総力が必要になる。

 そして、その借りを返すのは本当に大変だ。

 前回はある意味、魔王の我儘で実現したモノなのだろう。借りがないわけではないが、それを返すのは主に魔王の筈だ。

 だが、それを恒常的に、となると極端に難しい筈である。それは、正に豚の飼育に他ならない。

 施しが続けば、それを当然と思う輩は必ず現れるのである。

 問題は、それが多数になってしまった場合の話だ。


「それから、この際先に確認しておきたいんだが……こういうことはよくあるのか? 人間が保護を求めることは」

「頻繁ではないですが、過去に何度か例はありました。困窮した集落や難民が、魔王様に保護を求めることは」


 質問されたスッパは、膝を付きながら答えた。

 言うまでも無いが、人間にとって亜人とは怪物である。

 少なくとも友好的ではないし、確実に異民族である。

 よって、まずその陳情が魔王に届くということも稀だった。

 だが、一旦届けばそれなりに配慮される。

 この地を開拓した魔王にとって、人間もまた友人だからだ。

 子孫が敵対するのは仕方ないが、保護を求めれば断るほどの理由はない。


「多くの場合、直近で耕作に適した地をあてがって、彼らをそこで生活させます。もちろん、九氏族と衝突がないわけではありませんが、そこは色々と配慮されますから」

「そこは今はどうなってるんだ?」

「何処も、自然消滅しています。なにせ、どこも数百年以上前の事ですから」


 なるほど、とタロス王は納得していた。

 考えてみれば、ダイ族と人間の混血が起きる、と言う事だけは自分も知っていた。

 頻繁ではないにしても、そういうことはあったのだろう。


「代を重ねることによって、偏見が緩和されることがあり、結果的に純血の人間がいなくなり村は消える。そうした遺跡は、魔王領のいくつかの個所に残っています」

「ふむ……」


 その話を聞いて、エンゲーはとりあえず安堵していた。

 少なくとも、その話は自分たちにとって悪いことではない。

 前例があるのであれば、それに沿えばいいだけだ。

 少なくとも、子供が幸せならそれでいい。今更純血の人間のことなどどうでもいいのだ。


「ちなみに、ヨル族、夢魔族が一番旺盛です」

「あらやだ」


 スッパの説明を聞いて、ユリが照れていた。

 まあ、理屈は分かるし、そもそもそういう種族であるし。


「ですが、タロス王の懸念もごもっとも。魔王様が受け入れるとしても、今のダイ族の領地に迎えることは反感を買いましょう。通り過ぎるだけも問題はあります。やはり、魔王様やラッパ王に知恵をいただくべきかと」


 逆に言えば、魔王やラッパ王に配慮してもらえばすべての問題が解決するという事でもあるのだろう。

 この時点で、エンゲーは賭けに勝っていた。

 もちろん、逃げた先が必ずしも楽と言うわけではないのだが。

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