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一般的なミミ族と、ついでに模範的なダイ族

 明らかに戦闘を目的としない人間の集団が、大荷物をもって魔王領である山に入ってきた。

 それを見つけたのは、当然というべきかミミ族であった。

 現在魔王領の戦力は大幅に下がっている。

 仮に軍が攻め込んでくるならば、それに対する対応は早くしなければならない。

 その辺りを理解しているラッパ王は、諸国から引き揚げてきた自分の氏族によって警戒網を構築していた。


 道なき道の森の奥へ、ずんずんと入っていく一行は十人ほど。

 間違いなく、ダイ族の縄張りに近いユビワ王国の者だった。

 しかし、装備は貧弱だし人数も少なすぎる。あれでは、ダイ族一人さえ殺せまい。それどころか、そこらの野生動物にさえ殺されるだろう。

 彼らの目的は、一目にはわからない。

 分からないが、明確に目的意識をもって、わき目も降らずに進んでいく。

 であれば、とりあえず目的を確認しなければならない。


 ミミ族は森魔族と呼ばれているが、それは森の中でなら彼らを発見できるからである。

 長命であり用心深い彼らは、自分達にとって圧倒的に優位な森でのみ、人間の前に姿をさらすからだ。

 平地では人間よりも弱い彼らだが、少数同士の戦いの場合なら森の中では圧倒的優位を誇る。

 単純に障害物が多く、加えて視界も狭い。

 彼らミミ族の吹き矢は相手が非武装で肌を晒しているほど有効なのだが、彼らの腕をもってすれば兜の隙間から目に当てることもできる。

 もちろん、それは奇襲の場合が一番有効なのだが、それをすることはほぼない。彼らの任務は、あくまでも諜報であり斥候なのだから。


「とまれ」


 衆長がその声を人間の一団に届けるころには、既に集団は十数人の人間を包囲していた。

 ミミ族の耳以外では、森の中のどこから話しかけているのかさえ把握できない。そんな話し方で、彼らへ警告を行う。


「きゃあ?! まさか、もう?!」

「ここはダイ族、巨人族の縄張りだ。なぜ人間がその装備で奥へ入る?」


 先頭を歩く女性を、護衛であろう面々が包囲して護衛する。

 もちろん、なんの意味もない。

 この場にダイ族の子供が棍棒を手に襲い掛かっても、そのまま壊乱させられる薄い壁だ。


「わ、私は……ユビワ王国の女王である、エンゲーと申します」


 覚悟を決めたのか、彼女は話し始めた。

 ユビワ王国と言えば弱小も弱小の貧乏国家だが、国家元首が出てくるとは穏やかではない。

 おそらく嘘も言っていないだろう。その辺りの眼力もミミ族は鍛えている。


「この度は、服従と隷属をしに参りました」

「巨人族の王か、それとも魔王か」

「……魔王様にです」


 なるほど、進退窮していたのは知っていたが、ここまでとは驚きである。

 バイル王国の姫は九氏族と人間の対立を対岸の火事と思っていたが、彼女たちは完全に被害者であり当事者である。

 その彼女たちが、自ら進んで降伏する。その意味は、完全に食糧が尽きたこと以外にはあるまい。

 亜人に服従するぐらいなら飢えて死ぬ、という輩もいないではないが、仇敵の靴を舐めてでも生き残ろうとする輩の方が多い。

 そして、それは苦渋の決断であって、決してとがめられるものではない。


「承知した、我らはミミ族の者だ。お前達人間が言うところの、森魔族である」


 人間たちの前に、黒い耳を出しただけの斥候が姿を現した。

 目の前に現れて尚、そこにいるのか、という気配の薄さだった。

 それも一人二人ではなく、女王とその護衛と同数ほどの数が包囲を完了させていた。


「我らは裁量を持たぬ故、さしあたり巨人族の王へ案内しよう。の王が良しとすれば、そのまま謁見が許されるだろう」

「案内していただけるのですか?」

「前例はある。久方ぶりだが、行き場を失った人間が魔王様に保護を求めることはないわけではない」


 なんとも驚きの事だった。

 しかし、確かに人間側では魔王に保護されたのか、そのまま全滅したのかなど分からぬ話である。

 であれば、希望はあるのだと思いたい。


「しかし、道中で巨人族に出くわすこともある。ユビワ王国の者には警告の必要はないであろうが、気を付けるようにすることだ」

「はい、承知しています」



 実のところ、ミミ族に発見され、事情を説明できた時点で彼女達の目的はほぼ達成されていた。

 少なくとも、道中でダイ族に見つかり悲惨な死を遂げる、という可能性は排除されたのだから。


「はぁ……やっぱり大物はまだ無理だな……」

「しかたねえって、まだまだガキだからよ」

「結婚式が懐かしいぜ」


 基本的に、貯蓄というものをしないダイ族は、一々縄張りの見張りなどしない。

 強いて言えば、自分達の住処である洞穴に女衆がいることが、ある意味では見張りなのかもしれない。


 そんな彼らが、ぞろぞろと歩いてきた。それも、手に少しばかりの獲物をもって。

 その姿に、無意味と分かっても硬直してしまうユビワ王国一行。

 そんな彼らを見て、ダイ族の面々は足を止めていた。


「ん? おい、ミミ族の奴らが人間を連れて歩いてるぞ」

「本当だ、おい……何しに来たんだ?」

「まさか、とっつかまえたのか?」


 そんな彼らの脇を、会釈してから通り過ぎるミミ族。

 彼らの後を追って、ユビワ王国の面々も慌てて続く。

 しかし、やはりちらちらと背後を見てしまうのは、彼らの事がおっかないからだろう。


 ダイ族はダイ族で、不可解さ故に疑問を感じるが、しかしミミ族と余り口論したくないという理由がある。

 戦えば確実に勝つのだが、それはあくまでも向こうが向かってきてくれた場合の話でしかない。

 逃げに徹されれば、人間はともかくミミ族には逃げられる。

 その辺りの事がわかっているからこそ、彼らは面倒を嫌って話しかけることはしなかった。

 一方で、彼らがいなくなったことでユビワ王国の面々は安堵する。

 近づくだけで異臭のする野蛮人と長時間近くにいれば、それだけで不快そうな顔をしかねなかったからだ。


「その、巨人族の王の家にはどれほど時間がかかりますか?」

「数日は歩くので、お覚悟を」


 何とも、当たり前すぎる回答が帰ってきた。

 そりゃまあ、それだけかかって当然である。

 なにせ、都市国家ではなく一つの氏族の王の領地だ。それなりに広くて当然である。


 一応覚悟を決めたことではあったのだが、道中ずっと彼らのような異臭のする巨漢の群れと幾度となく接触し、更にその先に待つ彼らの王を想うと、げんなりとする一行であった。

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