結婚式の話と、家族の絵の話
「今帰ったぞ」
「戻りました」
「お帰りなさいませ、タロス王、奥様」
エントランスに入ると、ユリさんとその配下がずらりと並んでいた。
家に帰ると、夢魔族がいる。
その事実に、少しばかり面食らうというかショックというか。
まあ、居てくれないと困るんだけど。
夢魔族以外に家事を任せられる氏族なんていないし。
森魔族って、その辺り無頓着そうだし……。
「如何でしたか、結婚式は」
「マリーのドレスが最高だった。他は、察してくれ」
「サンダードラゴンを倒す雄姿は見られませんでしたが……雄大な自然を一緒に感じることができました」
「結婚式なんてそんなものです、ですが……お二人の仲がよろしくなったようで、何よりですわ」
それは、まあ、そうなのだろう。
結婚式とは面倒なものであり、王の結婚式とはなおさらそういうものだ。
だからまあ、親戚のいざこざとかで二人の関係が崩れなければ、それでよしとするべきなのかもしれない。
「バラ女王にいうべきことだったかもしれないが……ウチのダイ族に料理を振る舞ってもらって助かった……さすがにあれだけあれば、当日と土産分ぐらいは渡せたんじゃないか?」
「ええ、そのようになりました。もう片付けも終わっていますよ」
結局のところ、結婚式は完全に仕組まれていた。
なんというか、俺が自分の氏族に地道な奉仕活動をしていた間、魔王を筆頭に壮大な結婚式の準備をしていたらしい。
俺がしたことと言ったら、チュートリアルの後に順番を守らないやつを殴っていただけだった。
そのあとは、恐怖体験だったし……。
なお、針葉樹林でのキャンプ地は、巨人族の各村に送る招待状替わりの料理を作るための場所だった。
やることなすこと、ぬかりねえなあ……。
やっぱり、率いるなら魔人の方がいいと思う。もちろん、そんな彼らに指示ができるほど、俺自身が優れているとは思えないが。
「そうか……まあ、それだけ食えば多少は太るし、行脚も必要ないか……」
「では、しばらくはこの家で過ごせるのですね?」
「そうなるな」
まあ、殴り合いで決まる王様の仕事が、そんな複雑怪奇なわけもない。
基本、時折村を回って調子を聴くぐらいでいいのだ。
戦争でもない限りはそれなりに暇なのが、蛮族の王のいいところである。
「この屋敷の分の狩りに出て、終わったらそのまま仕事は終わる。そんな日がしばらくは続けられるだろう」
「まあ……」
「君とゆっくり過ごせそうだ」
それこそRPGの無料で宿泊できる拠点並みに、我が家で寝泊まりができなかったからな。
今後はあわただしい日々もしばらくは来ないだろうし、であればこの日常に浸りたいものである。
というか、日常を構築したい。日常と非日常の割合がおかしいからな。
「そうそう、タロス王に贈り物が届いていますよ」
そう言って、数人の森魔族が何かを持ってきた。
かなり大きい布であるが……。
「おお……スーツじゃないか!」
タキシード的な、俺の服がそこにあった。
なんというか、俺が着ても問題なさそうな服である。
とんでもなく大きくて、びしっとしたオーダーメイドだった。
この時代は、皆オーダーメイドだけども。
「私で良ければ、肖像画をお描きしましょうか? もちろん、奥様は結婚式のドレスで」
「お前絵描けるの?」
「写実的なものであれば、お恥ずかしくない程度には」
絵画か……多分油絵とかなんだろうが……。
なんて、文化的なんだろう。
こう、結婚式の写真のようなものだろうが、そんな文化的な物を、俺が残せるだなんて!
巨人族に残したら、そのまま薪にされるから魔王に残してもらうけども!
「ぜひ頼む! というかまずこの服着させてくれ!」
「私からもお願いします」
「あらあら、これは張り切らないと」
すごいなあ、なんかイベントを進めるごとに生活が充実していくぞ。
問題はそのイベントをこなすために、生活自体が上手く行っていないことぐらいだな!
マリーも絵を描いてもらうことに不満がなさそうだし、これはいい感じだ!
※
身長三メートル半の俺と、二メートルもない、あるわけがないマリー。
そんな二人が一緒に絵に収まるか、というと悲惨なことになる。
すげえデカい椅子に座ったマリーと、その脇に立つ俺。
縮尺的に子供と大人、と言う感じの構図になってしまっていた。
「ふと思うんだが……非常に今更だが、客観的にみると俺は幼児趣味に思われていたのだろうか」
そもそも、マリーは俺の年下である。
もちろん、氏族の差を除けばこの時代的にはおかしくない。
そんなに大きい年齢差でもないし。
でも、体格的にはそう思われても仕方がないわけで……。
今更、倫理という社会的かつ文化的な問題に触れるとは。
もちろん、俺が清潔な女性を好むことは衛生的に正しいのだけども。
「あの、タロス王?」
ドレスアップして、椅子に腰かけているマリーは、心配そうに俺を見上げている。
その姿は実にいい。最高にいい。
だが、考えても見て欲しい。
これは人形趣味だと思われても仕方がないのではないだろうか。
いや、そもそも人形と言う文化を巨人族が持っているわけではないだろうが、それでも特殊性癖だと思われていることに変わりはあるまい。
もちろん、巨人族基準のノーマルとは、筋骨隆々で尻がデカい女を指すのだろうし、そんなノーマルはごめんなのだが。
「なんでもない! 俺と君が幸せならオッケー! よし、描いてくれ!」
びしっと、普通のポーズを取る俺。
そう、今更そんな巨人族基準の普通にこだわっても仕方あるまい。
第一、巨人族と人間が子供を成した前例がある時点で、その辺りのことは些細だ!
こうして、俺と妻の、二人の家族の肖像画が描かれることになった。
長い間立って待つ、という非常に人間的な苦痛に耐えながら、俺は思うのだ。
文化や文明とは面倒なものであり、労力や苦痛を伴うものであると。
野蛮や野生は一種楽であると。
だが、それでは知性あるものとして、余りにも寂しい。
煮ても焼いても食えないものの為に、労力と時間を割く。
その行為に、野人も半人も、多くが疑問を感じるだろう。
だが、妻とこうして同じ時間を共有し、それを切り取ること。
絵と言うものに保管し、後世に残していくこと。
文化も文明も知らぬ巨人族の中で、一番喧嘩が強いというだけの理由で王になった俺は、しかし意味を感じている。
いや、意味を感じていたかったのだ。




