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敵の姫様が綺麗だったので、略奪婚してしまった巨人の俺  作者: 明石六郎
第四章 説得と言う名のおせっかい
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交渉より早い手段と、ついでに思い出話

「こっちでさぁ」


 一晩おいて、俺達は食糧庫があるという場所にやってきた。

 案内をしている元王であるネギミも、とんでもなく申し訳なさそうだった。

 道中から気落ちしていて、それが現場に到着すると最高潮というか最底辺まで落ちている。


 複数の村から食料を集めているらしく、食糧庫は複数の村の中間地点にあるらしい。

 そして、現物を見た俺は一種の納得を得ていた。

 なんというか、俺のよく知っている構造だった。

 こう、ネズミ返しのついている中々本格的な、床の高い食糧庫だった。


「レベルが……違いすぎる……!」


 俺は鬼人族の事情など忘れて、そんなことを言っていた。

 というか、考えようによっては彼女は食料を取り出せない状態にしているのか。それはもう迷惑だな。

 コイツ、本当に暴走しているだけだぞ。


「きっと、御父上と兄上をなくして気が動転されているのでしょう……ですが、それはきっとよくないことです」


 俺に抱えられているマリーが、そんなことを言った。

 確かに、誰も得をしない状況である。


「私怨に囚われて、私情に駆られて、王についてもむなしいだけ……今彼女が王になっても判断が正しいものであるはずがありません」


 凡百のヒロインなら、自分の立場を棚に上げて本人に直接言うところを、彼女は俺や周辺の奴に聞こえる程度の声で言っていた。

 まあ捕獲された敵国の姫に、そんなこと言われたら火に油だもんな。

 その辺りはメザの心情も測っていて、俺としても好印象の言葉である。

 大体まあ、要するに引きずり出せばいいだけなのだから、説得する必要もないと思うのだが。


「さて……聞こえるか、ネギミの娘、メザよ」


 代表して、魔王が話しかけていた。

 大きな声を出しているわけではないのだが、良く通る声だった。


「魔王シルファーだ。顔を見せてくれ、話がしたい」

「アンタか……いいや、全員いるんだな」


 赤い肌をした、一本角の鬼。

 そんな彼女が、戸板のない木の家の扉から顔を出していた。


「何の用事だ」

「見ての通り、お前を説得しに来た」

「何が説得だ! 力づくで引きずりおろすつもりだろう!」


 うん、俺はそう思っている。

 間違いなく、カナブ王も同じように思っているはずだ。

 魔王がどう思っているかはまだわからないが、そう難しいことを考えているわけでもあるまい。


「もちろん、それはそちらが話を聞かなければな」

「……私は、王になる。ツノ族の王になる」

「ふむ」

「父や兄の、代わりにだ!」

「それはできないな。女のお前を、ツノ族は王と認めまい」

「なんでだよ! そっちにも女王はいるんだろう?!」


 引き合いに出されたのは夢魔族の女王であるバラではなくて、多分半鳥族のツミレだろう。しかし、別にツミレ女王も抗議して女王の座を得たわけではないと思うのだが。


「ああ、勇猛なるウメボ王の姫、メザよ! それは勘違いです、氏族をまとめ上げる王になるには、氏族の掟に従わねばなりません! 掟を守れぬものが、どうして掟を守らせる王になれましょうか?!」


 非常にまともなことを言うツミレ女王。

 少なくとも、この状況でこんなことをしても、なんの意味もあるまい。

 むしろ心証が悪くなるだけである。都合が悪くなったら、食糧庫に逃げ込む王とか無いよな。


「私がハネ族の女王に選ばれましたのも、ハネ族の長老衆が私を推薦してくれたからこそ! 村と村の力関係によるものです。決して私が素晴らしい王と言うわけではありません。そして、ツノ族の王はツノ族が認めるもの。であれば、ここで抗議して何になりましょうか?」

「何もしなかったら、そのまんま他の奴が王になるだけだろうが!」


 いやあ、そんなことしても他の奴が王になるだけだと思うけど。

 そもそも、ツミレ女王の言う通り、その抗議はただの癇癪だとしか思われてないぞ。俺もそう思ってる。


「めんどくせえな……魔王様、この際、この食糧庫をぶっ壊しちまいませんか? 中のもんだって、ひっくり返したくらいじゃダメになりゃあしませんし、このままじゃあ埒があきませんぜ」


 実に清々しい解決方法を提案してくるカナブ王。

 そうだね、それが一番手っ取り早いね。

 壊れたものはまた建て直せばいいしね、俺が建て直すわけじゃないけど。


「しかし、彼女もあの戦争での勇者、余り無下に扱うのは如何かと」

「そうだよ~~頑張ってたよ~~」


 新王コンビが面倒なことを言い出す。

 いいじゃん、もう壊して解決しようぜ。

 最悪死んでも仕方ないだろう。

 最善を尽くしたけど駄目でしたってことにしようぜ。

 損害を保証するのは多分魔王様だけど。


「この倉を壊すだと?! やってみろ、そんなことをしても私は出て行かないからな!」


 脅しと思っているのか、或いは自棄になっているのか。

 食糧庫の床の高さは、ぱっと見で三メートル少しである。

 俺の視線より少し下なので、その程度だろう。

 それぐらいの高さから落ちて、屈強な鬼人族が死ぬかと言われれば、微妙だ。

 少し怪我をする程度に違いない。

 でも、蔵が壊れたらその時点で負けだと思うんだが……。


「父ちゃんは、死ぬはずじゃなかった!」


 そんな、頓珍漢なことを言い出した。

 それとこれの何の関係が?


「タロス王、アンタがその斧を持っていたように、父ちゃんもこの金棒を持ってたんだ!」


 ドアから見せるのは、かなり大きい金棒だった。

 おそらく、鬼人族でも両手でなければ振り回せない、鋲付きの金棒だった。

 それも、正真正銘、金色に輝く金棒だった。

 アレが鬼人族の王が持つ、魔王が作った伝説の武器と言うことだろう。

 確かに、鉢巻とかに比べればだいぶ武器として期待できる。

 俺の斧同様に、起動などとは無関係に強力な武器だったはずだ。

 正に鬼の金棒であるのだし。


「だから、これは誰にも渡さない! これは私の父ちゃんのもの、父ちゃんから兄ちゃんが継ぐはずだったものだ!」


 生首をぶら下げて歩いているような男でも、父は父か。

 俺と違って、人望もあったに違いない。

 死んで、彼女も悲しんでいるのだろう。

 しかし、こうして五氏族がダメージを受けている状態で、足を引っ張る女の子には王は無理だ。

 飾りに執着するようでは、王の仕事はできないだろう。

 俺でさえ、方々回って食料の調達とかをしていたのだし。

 形見みたいなもんだからって、私物でもないしな。鬼人族にとって、金棒は文字通り飾りだったのだし。


「仕方がない、壊すか」


 割とあっさり、魔王様はそんな決断をしていた。

 まあ、仕方あるまい。

 俺の懐が痛むわけではないし、このまま高みの見物といこう。


「おう、んじゃ早速」

「少しお待ちを」


 蔵を支える、一本の太い柱。

 それを壊そうと近づくカナブ王を、沈黙していたラッパ王が止めていた。

 何か考えでもあるんだろうか?


「ウメボの娘、メザよ。その金棒はこの手で作ったものだ」

「だから何だ! これは父ちゃんのもの、兄ちゃんのもの、私のもんだ!」

「それは違う……それは氏族の為に使ってほしいと、この手で手渡した宝だ。氏族の誰が使っても構わないが、それを氏族の邪魔になるように使うなら、看過できない」


 はらはらと見守っていた、鬼人族の元王ネギミ。

 彼ははらはらしながらメザと魔王に視線を行ったり来たりさせていた。


「何が言いたいんだ、はっきり言え!」


 うん、少し分かりにくかったか。

 というか、難しい言葉を使ったからだろうか。

 彼女には魔王の言葉は通じていないらしい。


「その獄棍ドライを、壊すと言った」


 は?

 ちょっと待て、今何と言った?


 俺は慌てて、銀色の斧を持つ。砕けるはずのない斧を持つ。

 半馬族のエリア王は緑色の弓を、半狼族のケンチュウ王は鏡の盾を、剛人族のカナブ王は額の鉢巻を。

 慌てて、それぞれに確認している。


 森魔族のラッパ王と、夢魔族のバラ女王。それからなぜか、半鳥族のツミレ女王だけは無反応だった。


「ご先祖様、伝説の武具は壊せないのでは?!」

「この手が作ったものの壊し方を、知らぬとでも?」


 マリーの言葉に、割とあっさり答える魔王。

 でも、そんな簡単に壊せるんなら、逆に危ないのでは?

 と思っていると、魔王は刀身までも黒い、装飾の施された豪華な剣。

 他の武器を支配する魔剣アインを、頭上のメザに向けていた。


「ま、待て! これは……!」

「壊れろ、獄棍ドライ」


 それは、とても残酷な一瞬だった。

 壊れたならば、また造ればいい。

 そう思ったかどうかはともかく、氏族にとって不利益になってしまった金色の棍棒は、創造主の意思に従って急速に色あせていく。

 そして、それをみて彼女は悲鳴を上げていた。


「い、いやあああああ!」


 アッと言う間に朽ちていく、不朽の武器。

 それを見て、メザを含めた五氏族は震撼していた。

 まさか、魔剣を向けるだけで壊せるとは思ってもいなかった。

 マリーもまた、魔王があっさりと伝説の武器を壊したことに驚いていた。


「ま、まってくれ……これは父ちゃんが大切にしていた……!」

「好機」


 あっという間の早業だった。

 思わず蔵の外へ体を出したメザの足元に、ラッパ王の鎖分銅が絡みつく。

 そして、その鎖をラッパ王はカナブ王に渡していた。


「あ、あ~~~……」

「お早く」

「お、おう!」


 力いっぱい、カナブ王は引っ張った。

 その結果、倉庫に立っていた彼女はひっくり返りながら引き落とされていた。


「ぎゃあああ!」


 色気のない彼女は色気のない悲鳴と共に、そのまま倉庫の根元近くに落下する。しかし、流石は屈強な鬼人族。まるで応えていないどころか、手に持っていた金棒が錆び果てて、無様にも折れたことを嘆いていた。


「父ちゃんの、金棒が……」

「この魔剣は他の武器を起こすことができ、寝かすことができ、壊すことができる。友人との思い出の品を壊すことは心苦しいが……ツノ族の不利益になるのならば、壊れた方がまだマシだ」


 メタな武器だとは思ってたが……本気でメタな武器だ……。

 伝説の武器特攻とか、ロマンがあふれているな……。

 でもまあ、製作者としては当然か。これをご都合主義とは言うまい。

 そりゃあこれだけ危険な兵器ともなれば、壊し方ぐらい決めとかないとまずいよな。


「そ、そんな、殺生だぜ、魔王様よう!」


 昔自分が使っていた武器が、あっさり壊されたところを見て、元王であるネギミも愕然としていた。

 少なくとも、これで十の武器に欠番ができてしまったのである。

 これでは、鬼人族は王を立てる権利を失ったようなものだ。


「お前達の先祖であるソボロであれば、こうしただろうとも。なに、案ずるな。少しばかり時間があれば、同じものを作ってやる」


 まあ、製作者ご自身の判断なら、まあそれでいいとしか言いようがない。

 とにかく、これでたいして怪我もなく、彼女を引きずり落せたわけだ。

 もう、いろんな意味でこの場の面々は、彼女の癇癪に付き合う理由がない。


「っざけんな!」


 俺は抱えていたマリーを降ろして、魔王の前に出る。

 持っていた斧も、既に地面に置いた。

 ここから先、抵抗するなら俺の出番である。


「よくも父ちゃんの棍棒を!」

「他所の氏族の喧嘩に首を突っ込みたくはないが」


 俺は、遥かに見下ろす少女を前に、拳を構えていた。


「もうぶっちゃけ、面倒すぎる。ぶちのめして終わりだ」

「やれるもんならやってみろ!」

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