魔王様が嫌われることと、ついでに武器の使い方
鬼人族の集会場の有る村で、八人の王とマリーは歓待を受けていた。
長老衆の中には以前に王を務めた豪傑もいて、懐かしそうに魔人の王たちに話しかけていたりする。
っていうか、夢魔族の女王バラに群がっている。すげえスケベ根性むき出しの顔だった。
自分に正直って、哀しいな。
「相変わらずいい尻してるなあ、バラ……どうだぃ、久しぶりに一晩よぉ。こっちはまだ現役だぜぇ」
「おいおい、俺だってまだ若けぇもんには負けねえぞ!」
「俺だって、怪我でとっとと長老になっちまったから、一晩だって寝てねえんだぞ、俺に譲れ!」
「仕方ないわね、四人で楽しみましょうか」
そうか、バラ女王は鬼人族が好きなのか……。
そんな情報が、人生でどの程度役に立つのかはわからないが、俺は守備範囲外らしい。良かったぜ。
なんというか、夢魔族の頂点である彼女は、たき火の火で妖しい魅力を増している。
普通ならただの売春婦にしか見えないが、あそこまで極まっていると正に夜の女王である。
だが、それは長老衆の話である。
次期鬼人族の王になるであろう、周辺から集まった若い衆は俺に群がっていた。マリーが目当てではないのは、その好意的な視線からして確実だった。
縄文時代ぐらいの文化圏である鬼人族。
その集落でたき火を囲んでいると、巨人族とはさほど区別がつかない。
強いて言えば、全員俺よりも一メートルほど小さいということだろうか。
鬼人族も巨人族に次ぐ大型の氏族だが、それでも巨人族の中では一番大きい俺から見れば一メートルほども差がある。
人間だったころの俺からすれば見上げる大男も、今の俺からすれば大分小さい。
そんな彼らも、何というか、小脇に妻を置いている俺の所へ群がってきた。
「いやあ、あんときゃ助かった!」
「アンタが突っ込んでくれなかったら、どうなってたか!」
「もう死ぬかと思ったぜ!」
巨人族の奴らと同じ反応と思えば、まあ不思議ではない。
それに、巨人族と鬼人族だと、子供ができるわけでもないから、婿にしようともしてこない。
単純に感謝を伝えるばかりだった。まあ、悪い気分にはならない。
「ああ、まあなんてことない奴らだったな。だが、最後の奴らはしんどかった。確か、メザってのも一緒にブッこんでくれただろう。それに、そこのカナブ王もな」
「んんっ……まあなあ!」
その敵軍の旗印だったマリーを寄せつつ、近くで恨めしそうにしていた剛人族のカナブ王に話をふる。
実際、あの時は野人三氏族の総力が必要だったのだ。
俺も頑張ったが、他の連中も頑張っていたのである。
「そう言えばアンタも居たな」
「ああ、ちっちゃくて見えなかったぜ!」
「おい、本当にいたか?」
「きさまらあああ!」
どっちもどっちである。
言うまでも無く、鬼人族は一般的な男性と同じで、デカいのはカッコいいという風潮がある。
その理屈で言うと、鬼人族は剛人族を馬鹿にしている風潮があった。
では最大である巨人族は最小である剛人族を馬鹿にしているか、というとそうでもなかったりするので、その辺りは氏族間での意識の差だろう。
というか、下手に剛人族を馬鹿にして、それで負けたら大層カッコ悪い、という一種の保身的な感情が巨人族にはあるのだ。
「鬼人族の村は、思ったよりものどかですね」
「マリー、気を使わなくてもいい……臭くて騒がしくて、汚くて最悪だろう? 巨人族は此処よりもひどい」
「そこまで言わなくても……」
思わず拗ねたくなるし、思わず帰りたくなる。
でも、帰ったら魔王から心証が悪くなるかもしれないし、そしたら今後に差し支えそうなので、此処にいることにしている。
でも、帰りたいんですよ……。
あの家に帰りたいんですよ。
なんかもう、こんな縄文人たちに嫉妬したくないわけで……。
「ですが……こうして話に聞くばかりだった氏族の生活を見ることができるのは、とても楽しいですよ?」
「マリー……」
なんていい子なんだ……。
それが本心でもいい子だし、気を使っているとしてもいい子である。
それに引き換え、俺はネガティブな事しか言わないなんて、なんて酷いんだ……!
そうだな、楽しもう!
うん、そう悪い事でもあるまい。
「なあなあ、魔王様よおおお!」
と、思っていたら半狼族のケンチュウ王が、酒を飲みすぎて酒乱に突入していた。
体格が貧弱な魔王は、とんでもなく絵的に可哀想なことになっている。
半狼族は、酒に弱いというか、酒で強気になるところがあるのだ。
「俺らのよぉ、鏡盾なんだけどよぉおお!」
「うん、作るのはともかく、どんな機能にするか迷った」
「なんで今すぐスゲーことができるようにしてくれねーんだよ!」
……。
そうだな、その通りだな。
別におかしなこと言ってないな。
「別に直ぐ使う予定もないだろう」
鬼人族の作った酒を飲みながら、魔王はのんびりゆったり答えていた。
既に結構酒を飲んでいるが、悪魔族は酒に強いのだろうか。
それとも、彼個人の性質なのか。
「皆が揃った時に、改めて起動させたい」
「じゃあよう! なぁんで今まではそうしなかったんだぁああああんん?」
しんと、気づけば周囲の鬼人族たちは黙り、二人の王の会話に集中していた。
「アレがあればよう、俺らはあんなひでーめに合わなくてよかったんだぜ?!」
それは、俺も思ったことだった。
というか、少なくとも森魔族と夢魔族の王である二人は、その機能を全開で使えたはずだ。
なぜあの二人は今の今まで他の王にも教えていなかったのか。
そして、それを誰もが少なからず不満に思っていることは事実だろう。
「そうだな……うむ、丁度良い。この場には八人の王が集い、さらに言えばこの場にいるツノ族の若い者の中から次の王が現れることもあるだろう」
そう言って、魔王は淡々と語り始めた。
それは、彼なりの懐かしさからくるものなのだろう。
「確かにこの手で作った魔剣アインがなくば、王権の武器はいずれもただの武器としてしか意味をなさん。しかし、それでもこの魔剣を愛娘であるリストに託したのは、もはやこの魔剣が不要だと思ったからだ」
「ああん?! どういうこった!」
「この武器は、永遠の友たちの為に作ったもの。彼らの氏族を守るために与えたのだ」
「だ~か~ら~! 人間どもをだなぁ!」
「人間もまた、この命にとっては氏族なのだ」
そんな、何とも巨視的な発言をされては、こちらも大層困る。
それ、二千年前の発想ですよね?
既に二十世紀も経過してるんですが……。
二十世紀前の話を語られても……。
「諸氏族の気持ちも理解できるし、奮闘を疑うものではない。しかし、願わくば理解して欲しいのだ。この手が作った十にてひと揃えの武器は、危険が過ぎるのだと。知恵ある者に向けるには……余りにも非道なのだ」
その、哀し気な言葉に俺は人知れず頷いていた。
その上で、俺は口を挟むことにした。
「そういうことなら、しかたないだろう」
「って、てめえ?!」
「この武器は魔王様が作ったものであるのだし、それに頼るというのはどうかとおもうしな」
「お前は良いのかよ! あんなに氏族が死んじまったんだぞ?!」
「仕方ないだろ、罠にかかったんだから」
なるほど、非人道的な大量破壊兵器の使用を自粛している、と言うことだろう。
そうした文化的かつ人道的な理由ならば、俺もやぶさかではない。
斧をただ斧として使うならともかく、トンデモ機能で殺すとなれば、魔王は大層落ち込むのだろう。
「過ぎたことを何をごちゃごちゃと。失敗の責任はもう取ってるんだし、ぐちぐち言うな」
今日まで人間を豪快に殺しておいて人道もくそもないが、好みの理由であるし、何よりも……。
伝説の武器が解放されたから、人間滅ぼそうぜ! とかなったらイチャイチャどころじゃないしな!
言うまでも無いが、巨大モンスターの討伐と人間国家との戦争だったら、面倒さが段違いだし……。
そもそもそんなことしても生活が楽になる訳じゃないし……。
他の生物を根絶やしにしようと動くのは人間だけで、巨人族も人間がいないと食糧難のとき奪いに行けなくて困るし。
そういうエリック君的な発想はマリーに嫌われそうだしな。
「酒が不味くなるから、もう黙れ」
実際その場合は材料を集めてから、魔王に新しい武器を作ってもらうとか、そんな感じのゲームが始まりそうである。
ただでさえアクションゲームっぽいのに、素材集めに奔走するとか冗談ではない。そんなアクションRPG風の行動で無意味に時間を費やしたくないし。
「けどよ……」
「魔王様が決めたことだ、人間にはそれを使わないってことでいいだろう」
これでいいのだろう、とマリーを抱き寄せる。彼女も俺に抱き着いてきた。
うん、他に欲しいのは二人っきりの時間と、二人の愛の結晶だな!
他に欲しいものとか特にないしな。
「勝手な話だが、そういうことだ。ツノ族の王が決まり次第、他の王にも武器の起動は施すが……できればそれは知恵ある者には使わずに済ませて欲しい。これは製造者としての願いである」
その言葉を聞いて、鬼人族の若い衆や長老衆はどう思っただろうか。
とんでもなく家族が死んでいる彼らは、どう受け止めるのだろうか。
主なヘイトは魔王に集まっているので、その辺りは自己責任でどうにかして欲しいと思う俺なのであった。




